第538話 魅惑のカークおじさん宅
「まぁその、こうしてわざわざお土産まで準備してくれたことは嬉しいよ。悪いな。ありがとうアレク」
「いえいえ、喜んでくれて何よりです」
というわけでカークおじさんは、ミリアムスペシャルやらメイユパンやらルクミーヌ村ペナントやらのお土産を大層喜んでくれた。
こうまで喜んでくれると僕としても嬉しい。次回の世界旅行でも、お土産は忘れないようにしないとね。
……しかし、すでにカークおじさんにはメイユ村ペナントもルクミーヌ村ペナントも渡してしまった。次回のペナントはどうしたものか。そこは悩みどころだな。
「それはそうと、アレク達も長旅で疲れているだろ、今日は早めに休んでくれ」
「ありがとうございます。そうですね、やはり長旅で……長旅?」
「うん?」
長旅……。はて、ここまでの旅は長旅だったのだろうか?
まぁ前世の感覚で言うと、一週間の旅は長旅だろう。普通にだいぶ長めな旅な気がする。
しかし、この世界的にはどうなのか。自動車も列車も飛行機もない世界で、一週間という旅の期間は、そう長くもないように感じるが……。
――いや、でもまぁ長旅か。一週間と言っても、それは『ヘズラト君に人力車で運んでもらって一週間』なのだ。僕が自分で歩いていたら、おそらくもっと掛かっていたはずで、一ヶ月近く掛かったかもしれない。一ヶ月掛かるような旅ならば、それは当然長旅だろう。
うん、長旅だったね。間違いなく長旅。『一ヶ月掛かるのは長旅とかではなく、アレクが遅いだけなのでは?』とか考えてはいけない。
「どうかしたか?」
「あ、すみません。確かに長旅ではありましたが、日数的には前回ほど長くはなかったんです。なんと今回は、前回の半分の日数でカーク村に到着しました」
「へぇ? そりゃまたずいぶんと短縮できたんだな」
「今回の旅は、人力車を使って移動したので」
「人力車?」
「人力車です。今は庭に置かせてもらっています」
「えっと、そうなのか? うちの庭に……? ああ、まぁ別にいいけど……」
よくわからん物を勝手に家の庭に置かれているのに怒らないカークおじさん。人が出来ている。
人力車については、あとでしっかり説明させてもらおう。なんならカークおじさんにも乗ってもらうのもいいかもしれない。ヘズラト君に引いてもらって、村を一周してきてもらおうか。きっとカークおじさんも喜んでくれるに違いない。
「まぁ日数はともかく、毎日の野宿で多少は疲れも溜まってるだろ。ゆっくり休んでくれ。泊まるのはいつもの部屋でいいか?」
「はい。ありがとうございます」
「……あ、でも今回は三人いるんだよな。どうする? アレクは俺の部屋に泊まるか?」
「あー、部屋ですか……」
スカーレットさんがいたときもそうだったな。スカーレットさんとジスレアさんが客室に泊まり、僕はカークおじさんのお部屋にお邪魔する形になった。
「しかし、毎回カークおじさんのお部屋にお邪魔するのは申し訳なく感じて……」
「ああ、気にするな。別にいいさ」
「これはもう、カークおじさん宅を増築した方がいいんですかね?」
「なんでだよ……。突然何を言い出すんだよ……」
どうしたものか。アレクハウス増築と同様に、カークおじさん宅増築計画も発動した方がいいのだろうか?
「でも、それもちょっと微妙ですかね。変に改築して、カークおじさん宅の魅力が損なわれたら大変です」
「なんかアレク達は、妙に俺の家に対して好印象を持ってるよな……。いや、嬉しいけどな? そう言ってくれるのは俺としても嬉しいけどさ……」
カークおじさん宅の滞在は、世界旅行中の楽しみのひとつにもなっている。それほどにすばらしい家だと思っている。
もはやこの家はカーク村の宝であり、いっそのこと重要文化財とかに指定してもいいんじゃないかな? 将来にわたり、しっかり保全してあげてほしい。
「のうアレク」
「はい? なんですかユグドラシルさん」
「ジスレアと二人のときは、二人で同じ部屋に泊まっておったのか?」
「そうですね、そういう部屋割りでした」
「ふむ。だったらわしもその部屋でよいぞ?」
「そうですか?」
そう? じゃあ三人で客室に泊まる感じ? うん、ユグドラシルさんがいいならそれで全然構わない。客室の広さ的にも問題ないだろう。今日までのテント泊では、もっと狭いスペースに三人で寝ていたくらいだ。
「そもそも、わしはそう長居するつもりもないからのう」
「あー、なるほど……」
だからわざわざカークおじさんの部屋にお邪魔することはないと、僕が行ったり来たりしないように配慮してくれたらしい。
しかし……そうか、やっぱりそうなんだな。
「やっぱりユグドラシルさんは、すぐに帰っちゃう感じなんですかね?」
「うむ。そのつもりじゃ」
「そうですか……」
んー。まぁ元々そう言っていたからなぁ。元々カーク村に到着するまでは付いてきてくれるという約束だった。
「それでその、すぐにと言うと――とりあえず一ヶ月くらい泊まったら帰る感じですか?」
「なんでじゃ……。それのどこがすぐなのじゃ……」
でもほら、たったの一ヶ月ですし。
一ヶ月の旅は長旅ですけど、カークおじさん宅に滞在する一ヶ月は長居じゃないと思うのですよ。
「ちょっとくらいならよくないですか? せっかくここまで来たわけですし、もうちょっとだけ」
「同行は村に到着するまでと、前から話していたじゃろうに……」
「ええはい、それはそうなんですけど――」
「明日じゃな。明日には帰るつもりじゃ」
「明日!?」
明日とは、ずいぶん急な……。せめてもう一日。できたらもう二日くらい泊まってくれんだろうか。そうしたら、いろいろとどうにかなりそうな気がするのだけれど……。
なんと言ってもここはカークおじさん宅。魅惑のカークおじさん宅だ。妙な居心地の良さに魅了され、ユグドラシルさんもズルズルと長居してくれそうな気がする。
そしてそのままなし崩し的に、ズルズルと最後まで世界旅行に同行してくれないかなって、そんなことをこっそり企んでいる僕なわけだが――
「……何かよからぬことを企んでおらんか?」
「ええ? そんなまさか」
「ダメじゃぞ? 別にわしは、なんでもかんでも『仕方ないのう』と笑って甘やかす神ではないのじゃ」
「おぉう……」
さっき僕が話したユグドラシルさんの紹介について、しっかり釘を刺されてしまった……。
……でもなんか、微妙に前フリっぽいな。
そんなことを言いつつ、やっぱり『仕方ないのう』と甘やかしてくれそうな気配がすごい。
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