第537話 イカれたメンバー紹介
「うお……なんかテントが……。家の玄関前にテントが張られている……」
おや? 何やらテントの外から懐かしい声が聞こえてきた。
この声は――
「おお、やはりカークおじさんでしたか。お久しぶりです、アレクです」
「ああ……。まぁそうだろうな。テントを見た瞬間、アレクだろうと思ったよ……」
「あれ? そうなんですか?」
なんでだろう? 前回の旅でも使っていたテントだからかな? テントに見覚えがあったから?
「まぁ、なんだ。久しぶりだなアレク。元気そうで何よりだ」
「ありがとうございます。カークおじさんもお元気そうで」
ひとまず軽く挨拶しながら、僕はテントから這い出る。
「どのくらいぶりだ? もう半年以上になるのかな?」
「そのくらいになりますかねぇ。ようやく旅の再開が決まりまして、こうしてみんなとカーク村までやってきました」
「みんな? ああ、いつものメンバーも一緒なんだな?」
「そうですね、いつものメンバーと……」
まぁいつものメンバーにプラスして、今回はユグドラシルさんもいるわけだが。
――ふむ。それじゃあ改めてメンバー紹介といこうか。うちらのパーティのイカれたメンバーを紹介するぜ。
「ではでは、紹介させてください」
「うん? 紹介?」
「せっかくなので、改めてパーティメンバーの紹介をば」
「おぉ、そうなのか。よくわからんが……うん、じゃあ頼むわ」
「では、まずは――ジスレアさん」
「久しぶり、カークおじさん」
「ああ、久しぶりだ」
テントからスッと出てきたジスレアさんが、カークおじさんと朗らかに挨拶を交わす。
「続いて――ヘズラト君」
「お、そうか、ヘズラトも元気にして――」
「キー」
「誰だ!?」
うん? あ、そっか。ヘズラト君が大シマリスへと進化したことを、カークおじさんはまだ知らなかったか。
僕的に一番の目玉はユグドラシルさんの紹介だと思っていたのだが、思わぬところで別の見せ場がやってきてしまった。
「これはいったい……ヘズラトなのか? 俺の知っているヘズラトとは違うんだが……? 種族が……。種族が違う……」
「進化したのです」
「進化……」
「大ネズミから、大シマリスに」
「大シマリス……」
「褒めてあげてください」
「褒める……」
結構な驚きっぷりだなぁカークおじさん。さっきからオウム返ししかできない状態になってしまっている。ちょっと面白い。
「えっと、すごいなヘズラト」
「キー」
「うん。よしよし」
なんとか立ち直り、カークおじさんはヘズラト君の頭を撫でている。
ヘズラト君もどことなく誇らしげである。
「続きまして――」
「うん? まだいるのか? あ、もしかして勇者様かな?」
「ふふふ、実は違うのです。スカーレットさんじゃあないのです」
「え? っていうことは、俺が知らないメンバーか? 誰だ?」
良い振りをしてくれるねぇカークおじさん。
それじゃあ発表しよう。最後のメンバーは――!
……というか、今までのやり取りの最中にテントから出てこないということは、ユグドラシルさんは僕の紹介を待ってくれているらしい。
テントの中で身を潜め、僕の言葉を聞きながら出てくるタイミングを見計らっているのだろう。なんて優しいのだユグドラシルさん。なんかありがとうユグドラシルさん。
「それでは最後のメンバー――ユグドラシルさんです」
「うむ。初めましてじゃな」
「え? あ、えぇと、初めまして……」
満を持して、ユグドラシルさん登場。
そしてそんなユグドラシルさんに対し、若干怯んだ様子を見せるカークおじさん。
「ふふふ、何かを察しましたか?」
「お、おう。見た目は幼く見えるが、見た目通りではない凄みを感じる……」
ふむふむ。鋭いなカークおじさん。あるいはユグドラシルさんの威厳ゆえの反応か。
どちらにせよ、カークおじさんが感じた凄みは間違いではない。
そうなのです。実際にすごいお方なのです。何を隠そう、このお方は――
「あ、待て、今アレクは『ユグドラシルさん』と紹介したな? え、じゃあまさか――世界樹様なのか?」
「…………」
「……なんか言ってくれよ」
僕が言いたかったのに……。『世界樹様なのです』と、僕が紹介したかったのに……。
◇
『それはさておき、テントを撤去してくれ』――そうカークおじさんにお願いされたので、僕はテントを畳んでマジックバッグに収納し、それからみんなでカークおじさん宅のリビングまで移動した。
「やっぱりそうなんだな。世界樹様か……」
「そうです。我らエルフの神です」
「エルフの神様……」
「カークおじさんも、失礼のないようにお願いします。基本的には何をやらかしても『仕方ないのう』と笑って甘やかしてくれる慈愛の女神ユグドラシル様ですが、こちらからもしっかり敬愛の心をもって接してください」
「すでにアレクが失礼なことを言っていないか……?」
あれ? おかしいな。敬愛の心をもってユグドラシルさんを紹介したつもりなのに。
「……うむ。とにかく、わしが世界樹ユグドラシルじゃ」
「あ、はい。その、よろしくお願いします」
「うむ。よろしくカークおじさん」
「カークおじさん……」
エルフの神様からも『カークおじさん』と呼ばれたことに、若干思うところがあるような雰囲気を醸し出すカークおじさん。
「アレクからカークおじさんのことはよく聞いておる。カークおじさんも、何かとアレクに迷惑を掛けられたのではないか?」
「あ、いえ、そんなことはないです。俺としても、アレクとの付き合いを楽しんでいます」
「そうか、そうであれば良いのじゃが……」
うんうん。嬉しいことを言ってくれる。カークおじさんにそう言ってもらえて僕も嬉しい。
「ただまぁ、何故かカーク村の住人達まで俺のことを『カークおじさん』と呼ぶようになったのは、俺としては少し――」
「――ところでカークおじさん」
「うん?」
いろいろとカークおじさんに迷惑を掛けていることがユグドラシルさんにバレそうな気配を感じたので、僕は慌てて二人の会話に割って入った。
「カークおじさんにお土産があるんですよ」
「お土産?」
僕はマジックバッグから袋を取り出し、テーブルへ置いた。
まぁ迷惑を掛けているお詫びというわけでもないのだけれど、どうか受け取ってくださいな。
「こちら、ミリアムスペシャルです」
「ミリアムスペシャルっていうと――ああ、あのお茶か。あれ美味しいよな。確かアレクのお袋さんが作ってるんだったか?」
「そうですそうです」
前回の旅でも持参したミリアムスペシャル。カークおじさんにも好評だったので、今回はお土産としてたくさん持ってきた。
「カークおじさんの感想を伝えたら母も喜んでいました。是非貰ってください」
「おお、ありがとうな」
ほくほくした笑顔で茶葉が詰まった袋を受け取るカークおじさん。うんうん、喜んでくれて何よりだ。さすがはミリアムスペシャル。ありがとう母よ。
「それと、他にもお土産がありまして」
「ん? まだあるのか? なんか悪いな。そこまで気を使わなくていいのに」
「いえいえ、別に大したものではないのですが――メイユパンです」
「おお……。ありがとうな……」
こっちは微妙にテンションが上がらない模様。まぁ、ただのパンだしねぇ。
「それから、こちらもどうぞ」
「うん? まだ何か……?」
「ルクミーヌ村ペナントです」
「おお……」
おっと、いよいよ『ありがとう』の言葉さえなくなってしまった。
「ペナントなぁ……。ちなみに、ルクミーヌ村ってのはどこなんだ?」
「メイユ村の隣の村です」
「ふーん……。まぁ飾っとくかぁ」
「是非に是非に」
実はカークおじさんのお土産用に急いでこしらえた物であり、何気に世界にひとつだけのルクミーヌ村ペナントだったりします。大事に飾ったってください。
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