第535話 せっかくだし、もったいないし
ついに始まった第六回世界旅行。
僕とジスレアさんとユグドラシルさんとヘズラト君の四人は、人界を目指して歩みを進めていた。
進めていたわけだが――
「もう着いちゃいましたね」
「うむ。早かったのう」
森が途切れ、前方には草原が広がっている。ここから先は人界だ。
いやはや、あっという間だった。あっという間に人界までたどり着いてしまった。
「確か前回は、一週間ほど掛かったか?」
「そうですね。だというのに今回は――たったの三日です」
三日である。たった三日で森の外れまでたどり着いた。
早い。素晴らしく早かったぞヘズラト君。
やはり人力車の影響が大きかったな。今回から移動に人力車を導入したのだけど、ヘズラト君の負担も大幅に軽減され、それでいて大幅なスピードアップも実現した。
さらにはヘズラト君自身もレベルアップやら大シマリスへの進化やらがあり、格段に『素早さ』が上昇した結果、なんと前回の半分以下という日数でここまでたどり着けてしまった。
「いやー、すごいね。すごいよヘズラト君」
「キー」
そう言って謙遜するヘズラト君を、わしわしと撫で回す。
うむうむ。今日は耳だな。耳の後ろあたりを撫でてあげよう。ついでに背中やら尻尾の付け根あたりも撫でてあげよう。
「あ、あとユグドラシルさんのおかげもありますね。村からここまでユグドラシルさんが獣道を引いてくれたおかげで、こうして悠々と人力車で移動できました。ありがとうございます」
「うむ。まぁそれほどではないが」
そう言って謙遜するユグドラシルさんを――いや、まぁ別に撫でないけれど。
それはさすがにね……。確かにヘズラト君と同様にユグドラシルさんにも感謝しているけれど、ヘズラト君と同様にユグドラシルさんの耳やら背中やらお尻のあたりを撫で回すのは、さすがにダメだろう。それは違うだろう……。
さておき、『素早さ』が上がったヘズラト君と、ユグドラシルさんの獣道と、あとはまぁ僕とジェレパパさんもかな。僕とジェレパパさんの合作人力車の力によって、素晴らしいスピードで人界までたどり着くことができた。
「しかし、人界に着いたとなると……」
「世界樹様とは、もうここでお別れ?」
「そうなっちゃいますかね……。それはちょっと残念です。せっかく一緒に来てくれたのに」
元々ユグドラシルさんは、人界までという約束で付いてきてくれた。であるならば、ユグドラシルさんとはもうお別れなのだろうか?
そうかぁ……。もうなのか。まだたったの三日しか一緒に旅をしていないというのに……。
「どうします? あと四日ほど、ここでキャンプを張りますか?」
「なんでじゃ……」
「なんかもったいないじゃないですか」
「もったいないってなんじゃ……」
元々は人界まで付いてきてくれるという約束だった。そして人界までは一週間程度を予定していた。
であるならば――人界に入らず、それでいて一週間程度ならば、ユグドラシルさんも一緒に居てくれるのではなかろうか?
そういうわけで残り四日、ここでキャンプを張ってぼんやり過ごしたらどうだろう?
良い考えな気がする。せっかくだしさ、もったいないしさ、四日ほどぼんやりキャンプしましょうよ。
「ふむ。それならもう少し付き合ってもよいか?」
「お、キャンプしますか?」
「違う。そうではなく――カーク村までは付いて行くことにしようかと思ってのう」
「おぉぉ? カーク村まで? いいんですか?」
「うむ。お主らが構わなければじゃが」
「ええはい、願ってもないことです。是非よろしくお願いします」
是非に是非に。それは嬉しい。断る理由なんて何もない。ユグドラシルさんが居てくれたら楽しいし、戦力的に考えてもユグドラシルさんがいたら百人力だ。こんなにも心強い味方はいない。ありがとうユグドラシルさん。
……うん、まぁ戦力面で言えば、すでにジスレアさんがいるため、元より危険など何もなかったわけだが――いや、でも嬉しい。単純にユグドラシルさんが一緒に居てくれたら嬉しい。だから良いのだ。ありがとうユグドラシルさん。
「でも大丈夫ですか? 森から離れちゃいますけど」
「うむ。まぁ問題はない」
「ほうほう、そうなのですか」
あ、でも前回もそうだったかな? 前回もちょびっと森の外に出ていたけれど、ユグドラシルさんは全然平気そうな様子を見せていた気がする。
「確か、『森を出てそわそわ現象』とかも大丈夫なんですよね?」
「うん?」
「森を出ると、そわそわしちゃう現象のことです」
「ふむ。わしは大丈夫じゃが……そんな名称じゃったかな?」
まぁそれは僕が勝手に付けた名称だけれども……でもさ、よくない? とてもわかりやすく端的に症状を説明している名称だと思うの。
さておき、とりあえずユグドラシルさんは大丈夫との話だが……僕はどうだろう?
試しに、恐る恐る森の外へ出てみると――
「おぉ……。やっぱりそわそわする……」
んー、やっぱりこうなるか。森から出るのも久しぶりだからなぁ。どうにもそわそわしちゃう。
「『キュア』」
「あぁ、ありがとうございますジスレアさん、ちょっと落ち着きました」
「うん」
ジスレアさんに魔法を掛けてもらい、若干心が落ち着いた。
またしばらくは、こうやって治療を受ける日々になるのかねぇ。
そんなことを思いながら、他の面々を見ていると――
「『キュア』」
「キー」
続いて森を抜けてきたヘズラト君も、同様に治療を受けていた。
おそらくヘズラト君はそわそわしていなかったはずだが、ついでとばかりに治療されていた。そしてヘズラト君も律儀に『ありがとうございます』とお礼を述べている。
「『キュア』」
「大丈夫じゃと言うのに……」
続いて森を抜けてきたユグドラシルさんも、同様に治療を受けていた。
なんか前もあったなこの流れ。相変わらずジスレアさんは、手当たり次第に回復魔法を唱えてくれるヒーラーさんである。
「そういえば、ジスレアさんは大丈夫なんですか?」
「ん?」
「ジスレアさんはそわそわしたりしないんですか?」
続いて森を抜けてきたジスレアさんだが、自分自身には治療を施していない。
毎回そうだ。自分には魔法を掛けないが、それでいて平然としている。
「私は大丈夫。私は外の世界を旅することも多かったし、もう慣れた。久々の外でも、そわそわすることはない」
「はー、そうなのですね」
そういうものなのか、慣れるのか。……あれ? じゃあこのパーティでそわそわしているのって、僕一人だけ?
おぉ、そうか……。だとするとなんかちょっと恥ずかしいな。みんな平気なのに、僕一人だけそわそわしているなんて……。
むぅ。僕も早く慣れて、そわそわしない大人のエルフになりたいものである……。
「じゃあ出発しよう。次の目的地はカーク村。アレクもヘズラトも、準備を」
「はい、わかりました……あ」
「うん?」
次の目的地はカーク村。カーク村を目指して、僕達は進んでいく。
そして、やはりここでの移動速度も上がっているはずで、おそらくは三日か四日でカーク村に到着してしまうと考えられる……。
「でもカーク村に着いたら、今度こそユグドラシルさんとはお別れなんですよね?」
「ふむ。まぁそうじゃな」
んー、そうか。やっぱり結局は一週間程度でお別れになってしまうのか……。
「ここはあえて――ゆっくり行きますか?」
「ゆっくり……?」
ゆっくり行ってもよくない? ゆっくりのんびり四人で世界旅行。なんというか、せっかくだしさ、もったいないしさ。
「ふむ。まぁ別に多少はゆっくりしていても構わんが」
「とりあえず人力車は使わずに、僕も徒歩で歩いて向かうってのは――」
「すまぬ。さすがに無理じゃ」
「…………」
そこまでか……。そんな言語道断くらいの勢いで無理なのか……。
なんだったら、僕の徒歩ではたどり着くことすら不可能だと思っているくらいの勢いがあったな……。
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今年最後の更新ですね。今年も一年ありがとうございました。
皆様、良いお年を(ΦωΦ)ノシ




