第54話 総集編
「ふーむ、前世の記憶をもったまま『ディルポロス』に……」
結局、僕はユグドラシルさんに全てを打ち明けることにした。
タワシ関連、世界樹関連の出来事は、嘘に嘘を重ね、最終的にかなり酷いことになってしまった。
いい加減、負の連鎖を断ち切りたかったのだ……。
「うん? つまりお主、中身はおっさんか?」
「おっさん……。えぇまぁ、そう言われたらそうなんですけど……」
それを言うならユグドラシルさんだってそうだろうに、いわゆるロリババアってやつだ。
「なんじゃ、気を使って損したわ」
「え? いえ、もうだいぶ八歳児としてしか生きていないです、ほぼ八歳児です。純真無垢な八歳児ですので、どうかお目こぼしを……」
「ええい、中年がわしにすがりつくな」
中年男性に厳しいなユグドラシルさん……。
というか、最近は本当に八歳児として生きていなかったな。
えーと、前世と合わせると……三十五歳か? ……エルフでも三十五歳っておっさんなの?
人間――人族の年齢で換算すると、約三歳でしょ? おっさんなのかな?
逆に言えば、僕の父は三百歳を超えているけど、人族換算なら三十歳超えだ。ってことは、父はおっさんなの? まだ青年にしか見えないんだけど?
どうなんだろう……。誰にも聞けない話題だなこれ。『父はおっさんなの?』なんて聞いたら、父はショックを受けてしまうかもしれない。
母なんて、年齢の話題自体がタブーだ。『母はおばさんなの?』なんて聞いたら僕はどうなってしまうのか、想像するだけで恐ろしい……。
「それで、ディースの力により、この世界で生まれ変わったわけじゃな?」
「そうなりますね」
「それで、アレクブラシを渡されたわけじゃな?」
「そうなりま――タワシですけどね?」
「タワシ?」
実は未だに『アレクブラシ』って名前に納得していない僕だったりする。
いや、別にタワシを悪く言うつもりはないし、便利で有用な道具だとは思う。だからといって、自分の名前を掃除用具につけられるのはちょっと……。
「あのブラシは、前世だとタワシと呼ばれているんですよ」
「別にアレクブラシでいいじゃろ、この世界ではそう呼ばれとる。そもそもお主が付けた名じゃろ?」
「え? いえ、違いますけど? いつの間にか僕の名前を付けられていたんですよ。売れそうだからって……」
そういえば、勝手に名前を付けられたことに抗議すらしていない気がする……。
初めて名前を知って、驚いている間に世界樹捏造事件を知ったからな。その後ごたごたして、結局そのまま売ることになってしまったけど……。
僕としては、この名前はやっぱり遠慮したいところだ。
だけど、もうどうしようもないんだろうな……。なんせ世界樹様が『アレクブラシでいいじゃろ』って言っちゃったし……。
「……む? じゃとすると、下手したらわしの名前を付けられていた可能性もあるのか?」
「あぁ、そうかもしれませんね。ユグドラシルブラシですか……。インパクトはありますね」
「絶対嫌じゃ」
嫌なんだ……。
まぁ嫌だよね、みんな嫌だよね。うん……嫌なことをされているって、みんなが嫌がるような目に遭っているって、改めて実感した……。
「というかそもそも、ディースはなぜお主にそんな物を与えたのじゃ?」
「抽選で当たってしまったんですよ」
「抽選?」
「異世界では大変だろうから、生き残るために必要なアイテムやスキルを与えてくれると、ただし抽選でと……」
「アレクブラシのどこが生き残るために必要なアイテムなんじゃ?」
そんなの僕が聞きたい。
「あ、実はレベルが5上がるごとに抽選できるんですけど、レベル5のときには良いスキルを貰ったんですよ? 『木工』スキルです」
「『木工』スキル? ブラシと『木工』スキルか……。どっちも神からの贈り物にしては地味じゃのう……」
「まぁそうかもしれませんが……」
実際僕もそう思った気がする。レベル10のチートルーレットでは、もっと良いものを貰えるだろうか……。
「ふむ。それで、お主はその『木工』スキルを使って、母親の人形を大量に作り続けておるわけか……しかも乳をでかくして……」
「…………」
ユグドラシルさんは部屋の母人形達と僕を、訝しげな目で見ている。
そんな目で見ないでほしい。ただ、そんな目で見られても仕方ない現状だと僕も思う……。
「……よく母だとわかりましたね」
「この家に入るとき、お主の両親をチラッと見たのじゃ。確かにこの人形と同じ顔じゃった。よくできておる人形じゃとは思うが……」
そういえば、ユグドラシルさんは勝手に自宅に侵入してきた。――いってしまえば不法侵入者なんだけど……両親は全く気付いた様子がないな。
うちの両親、剣聖様と賢者様なんだけどなぁ……。それでも気付けないものなのか。さすがは神様。
「えぇと、とりあえず人形を大量に作れと言ったのも、胸を大きくしろと言ったのも、母本人なんですけど……」
「そんな母親がおるか」
いるってばよ……。
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