第532話 第六回世界旅行は、だいぶ先のことになりそうですね
――ジスレア診療所。
ジスレア診療所である。ジスレア診療所といえば、治療はしても診察はしないことで有名であり、それはもはや『ジスレア治療院』であって、ジスレア診療所ではないのではないかという説も、僕の中でくすぶり続けている疑問だったりするのだけれど……。
――それはさておき、ジスレア診療所。
ジスレア診療所にて、僕はジスレアさんと言葉を交わしていた。
「へー、邪竜の件は解決したんですね」
「そうらしい」
人界の王都近くに邪竜の群れが集まってきてしまい、問題になっていた件だが、どうやら無事に解決したらしい。
……どういう結末を迎えたのか、微妙に気になるところではある。
確かその話を聞いたとき、『もしかしたら美女に変身できるタイプの邪竜なのでは!?』みたいな想像を――いや、まぁただの妄想だな。まるっきりただの妄想ではあるが、とりあえずそんなことを考えていた記憶がある。
実際はどうだったのだろう……。ただの妄想だとは思いつつも、もしも本当に美女に変身できる邪竜さん達だったとしたら、どうにか平和的に対話で解決してもらいたいと、そんなことを願わずにはいられない僕であったが……。
「あれ? でもそれなら、世界旅行はどうなったんでしょう? 一応今はスカーレットさんを待っている状態だったと思うのですが」
邪竜さんの問題を解決するために、人界の勇者スカーレットさんが王都へ向かうことになったのだが、それに伴い『アルティメット・ヘズラトボンバーズ』のパーティは一時解散する流れとなった。
そしてスカーレットさんの『私抜きで楽しいことはさせないぞ』という強い意思により、僕達は人界を追い出され、メイユ村まで戻ってくることとなった。
というわけで前回の世界旅行は、邪竜さん問題によって中断した。
ってことは邪竜さん問題が解決した今ならば、再びスカーレットさんと合流して、旅も再開されるんじゃないの? 違うのかな?
「今スカーレットは、他の依頼で忙しいらしい」
「他の依頼ですか?」
「邪竜の件は解決までずいぶん時間が掛かったそうで、それに私達と一緒に旅をしている期間もあったから、その分だけ人界の勇者パーティへの依頼が溜まってしまったと聞いた」
「あー、そうなんですか……」
そんなことになっているのか。大変だなぁスカーレットさん……。
というか、むしろそこまで忙しい勇者様を、僕のぼんやりとした旅行に付き合わせるのもどうなのかって話になってきてしまいそうではあるが……。
「あ、そういえば、その邪竜のことだけど――」
「はい?」
「正確に言えば――邪竜ではなかったらしい」
「え? 邪竜じゃなかった……?」
「私もスカーレットと直接話したわけじゃないし、伝言で聞いただけだから詳しくはわからないけど、どうやら違ったらしい。竜ではあるけど、別に邪竜ではなかったとか」
「ほー……」
なるほど……。意味深だ。何やら意味深な情報を得てしまった……。
これは……あるのか? あるんじゃないか? なんかありそうだぞ? 美人さんに変身する竜の人の可能性が、意外にもあったりしそうな雰囲気だ。
――うむ。続報に期待しよう。
「さておき、そういうわけで今スカーレットのパーティは、依頼でてんてこ舞いらしい」
「はぁ、てんてこ舞いですか」
「両手両足では足りないくらいの依頼に追われているとか」
「そうでしたか……。では第六回世界旅行は、だいぶ先のことになりそうですね」
「そうなると思う」
ふーむ。旅の再開はいつになるのやら……。
でもまぁ、文句は言えんな。きっと今スカーレットさんは、てんてこ舞いになりながらも依頼を粛々とこなしているのであろう。しかもちゃんとした依頼だ。勇者パーティ宛のちゃんとした真面目な依頼をこなしているはず。
であれば、そんなスカーレットさんに対して僕の旅行を優先しろとも言いづらい。というか言えない。とてもじゃないが言えない。
「それで依頼が片付いてアレクとの旅を再開できそうになったら、そのときは向こうから連絡すると言っていた」
「向こうから?」
「人界のギルドとエルフ界の教会本部は、通話の魔道具で繋がっている。ギルドからエルフの教会本部に通話してもらって、さらに教会本部からメイユ村の教会へ通話してもらって、それで連絡するって」
「へー、それは便利ですね」
前まではジスレアさんがラフトの町のギルドまで赴き、そこでスカーレットさんとやり取りをしていたはずだ。その移動がなくなるとしたら、ジスレアさん的にはだいぶ楽になったことだろう。
「じゃあ連絡が来るまで待っていればいいんですね」
「そういうこと」
そっかそっか。じゃあ待とうか。待つしかないのだから、のんびり待とう。
まぁエルフの掟を考えると、そこまでのんびりもしていられないような気もするが……でも僕としてはアレクハウスの増築作業が終わっていなかったり、世界樹の酒作りが終わっていなかったりと、いろいろと済ませておきたいことも残っている。
その点では、出発までの猶予が残されていることはちょっと助かる。それらの作業をしっかり終わらせてから、世界旅行再開のときを待とうではないか。
「しかし、旅の再開はいつになるんですかねぇ」
「どうだろう……。だいぶ先のことにはなるとは思うけど」
「ですよね。なにせ両手両足では足りないくらいの依頼で、てんてこ舞いだそうですし」
「そう。だからだいぶ先。それは間違いない」
「ええはい、だいぶ先でしょうね。だいぶ先に……。いや、でも……?」
「うん?」
「あ、いえ、なんでもないです」
むーん……。ぼんやりジスレアさんと話していたら、なんだかフラグっぽい感じになってしまった。ここまで二人で『だいぶ先』と繰り返したからには、むしろ逆で……。
これは、あるいは逆に再開が近い可能性も……?
◇
とりあえず第六回世界旅行は、だいぶ先のことになりそう。たぶんだいぶ先。
そんなジスレアさんとの話が終わり、自宅に戻ってくると――
「あ、おかえりアレク」
「ただいまー……およ?」
「こんにちはー」
「あ、はい、こんにちは」
リビングから父の声が聞こえて、返事をするために顔を出したところ、リビングには父の他に――教会の美人修道女ローデットさんがいた。
珍しいな。出不精のローデットさんがわざわざ家に来るとは、いったい何事であろうか?
それだけの用があってここまで来たのだと推察できるが、果たしていったい――
「『世界旅行を再開すべし』という人界の勇者様からの伝言が、教会本部より届きまして、それをアレクさんに伝えにきましたー」
「…………」
あー、そうなんだ。そうなのね。再開なのね……。
……すごいな。これはすごい。本当にフラグだった。即座に回収してしまった。光の速さでフラグ回収。
「えっと、わざわざありがとうございますローデットさん。では、とりあえずこちらをどうぞ」
「ありがとうございますー」
「いえいえ」
「…………」
とりあえず伝言を知らせてくれたローデットさんへ、お礼の気持ちを硬貨に変えて渡してみた。
そしてその様子を、父からは訝しげな目で見られてしまったが……。
さておき、再開らしい。
結構な急展開ではあるが、どうやら世界旅行が再開。世界旅行パート、久々に再開である。
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