第530話 ユグドラシルさんにお願い2
「というわけで、『光るパワーパリイ』というアーツを取得したわけですよユグドラシルさん」
「ふーむ」
ユグドラシルさんである。いつものようにユグドラシルさんが遊びに来てくれたので、ちょっとした近況報告をしていた。
やっぱり最近の話題といえば『光るパワーパリイ』だろう。これが一番のトピックなはず。
「『光るパワーパリイ』か」
「そうなんですよ。いつの間にか取得していたようでして」
「お主は本当にそれが好きじゃのう」
「別に僕が好きなわけではないですが……」
僕が好きで光るシリーズを取得したわけじゃないのだけどね……。
いや、まぁヒカリゴケ自体は別に嫌いじゃない。むしろ好きな方だと思う。初めてヒカリゴケを目にしたときなんかは、無駄にテンションが上がってはしゃいでた記憶もある。今でもぼんやりと優しく光るヒカリゴケを見ていると、何やら心が癒やされる感覚になったりもする。
とはいえ、それを自身のアーツにしたいかと聞かれたら、それはやっぱりそんなこともないわけで……。
「で、実際に使ってみたのじゃな?」
「あ、はい。父が試し打ちに付き合ってくれたので、しこたま使ってみました」
「しこたま?」
「とりあえず一回使ったところ、父の木剣の刀身部分に苔を生やすことができたので、さらに続けさせてもらって、二回目で木剣全体に苔を生やすことに成功しました。さらに三回目で、今度は父の手にまで苔を生やせたのですが……そこで父からストップが掛かり、その時点で試し打ちは終了してしまいました」
「何をしておるのじゃお主は……」
「このまま父の全身を苔むすことができるかと思ったのですが」
「そんなことをされそうじゃと感じたから、セルジャンも終了を申し出たのであろうなぁ……」
もうちょっとのところで逃げられてしまった。父も世界一目立つギリースーツ状態にしてあげようと思ったのに、無念である。
「なので、その後は実戦ですね」
「ほう。しっかり実戦もこなしてきたのか」
「ええはい、ダンジョンに行ってきました。ダンジョンの――2-3エリアです」
「ふむ。2-3エリアというと――ボアか?」
「そうです。そこでボアを相手にして、パリエアコンにチャレンジしてきました」
「パリエアコン?」
パリエアコンである。以前は失敗したパリエアコンに、再度チャレンジしてきた。
「突進してくるボアに全力の『光るパワーパリイ』を放ち、ボアを上空へ打ち上げ、そこへ『レンタルスキル』の『エアスラッシュ』を叩き込むというコンボです。それが――パリエアコン」
「そ、そうか……。えぇと、確かに有効な連携かもしれない……?」
「きっと有効です。まぁ有効か有効じゃないかはさておき、とりあえず格好いいと思うのですよ」
「そうか……」
……でもなー、結局上手くいかなかったんだよねー。今回も失敗だった。『光るパワーパリイ』でも成功には至らなかった。
ただの『パリイ』ではどうしても打ち上げの高さが足りず、上手いこと決められなかったパリエアコン。今回の威力が上がった『光るパワーパリイ』ならば、あるいはと考えたのだが……残念ながら、それでもまだ高さが足りなかった。
普通に剣が届くくらいの高さしか出なかった。それではダメだ。僕はそこであえて『エアスラッシュ』を叩き込みたいのだ。打ち上げた相手に、飛び道具で追撃するのが格好いいんだ。
また今度頑張ろう。だいぶ惜しいところまできたはずだ。もうちょっとだと思う。もうちょっと『光るパワーパリイ』の練度が上がったり、もうちょっと僕自身の能力値が上がったり、もうちょっとタイミングがあったりすれば、きっと上手くいくはず。
頑張ろう。いつかきっと格好よくパリエアコンを決められるはずだ。すべては格好よさのために、頑張ろう。
◇
といった感じで、『光るパワーパリイ』の話題が一段落したところで――
「あ、そうだ。他にもユグドラシルさんに報告したいことがあったんですよ」
「む? わしに報告?」
「はい、ちょっとした報告がありまして……あとはまぁ、ちょっと相談したいことも……」
「むむ……? なんじゃいったい。また何か厄介な頼み事ではないじゃろうな……?」
「いえいえ、そんなそんな」
やだなぁユグドラシルさん。違いますとも。僕が今までユグドラシルさんにそんな厄介なお願いをしたことがありますか?
「お主の頼み事など、大抵は不可解で厄介な事ばかりじゃからのう」
「…………」
……うむ。そういう認識なのか。
まぁそれはさておき、ユグドラシルさんにお願いしたいことだが……はて、いったいなんと伝えたらいいものか。どう話を切り出して、どう説明したものか。
「んー。えぇと、なんというか……ぶどう?」
「む?」
「ぶどうなんですかね」
「ふむ」
やっぱりぶどうかな? ぶどうなのかな?
実はまだ僕もいろいろと悩んでいる最中で、正直これが正解なのかどうかもわからないのだけど……やっぱりここはぶどうなんじゃないかな。
「ぶどうとは、果物のぶどうじゃな?」
「あ、はい。そうです」
「それがどうかしたのか?」
んー、うん。まぁそうだな、とりあえず結論から伝えた方がいいだろう。
僕がユグドラシルさんに何をお願いしたいのか、そこを簡潔に伝えよう。
「ユグドラシルさんに――ぶどうを踏んでいただきたいのです」
「……は? ぶどうを踏む?」
「素足で」
「素足で!?」
簡潔に結論から言うと、ユグドラシルさんへのお願いはそういうことになるだろう。ぶどうを素足で踏んでいただきたい。
「お願いできますか?」
「……なんでじゃ?」
「なんで?」
なんでと聞かれても……僕もあんまり詳しくないので、上手く説明はできない。でもまぁ、なんかそういうものらしいので。
「とりあえずユグドラシルさんには、ぶどうをたくさん踏んでもらって――」
「たくさんなのか……。というかじゃな、お主はいったい何を言っておるのじゃ? まったくもって意味がわからん。何故わしが素足でぶどうを踏むのじゃ? わしがぶどうを踏んで、お主は最終的にどうしたいのじゃ?」
「最終的には――飲みます」
「…………」
まぁそうだね、最終的には飲むことになるかな。
「おめでたい日に、お祝いで飲みたいかなって」
「…………」
うん。今僕が考えていることが計画通りに進めば、最終的にはそんな結末になるはずだ。
だからユグドラシルさんにはぶどうを踏んでもらって…………というか、なんかえらいドン引きしてない?
なんだろう。どうしたのだろう。僕はただ、ユグドラシルさんが素足で踏んだぶどうを飲みたいと言っただけなのに……。
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