第516話 ミコト神像
――完成である。
ようやくミコト神像が完成した。
「うんうん。良い出来だ。これならミコトさんも喜んでくれるに違いない」
当初の予定通り、巫女服を着た天界バージョンのミコト神像である。
ここの人達からしたら、ちょっと見慣れない衣装かもしれないけど、ミコトさんはどっか遠いところから来たって設定になっていたと思うし、そこでの衣装だとみんなには納得してもらおう。
「さて、それじゃあ早速届けてこようか」
きっとミコトさんも神像の完成を首を長くして待っていたはずで……というか、実際にずいぶん待たせてしまった。
なにせ忙しくてね……。ミコトさんに神像作りを依頼されて以降、アレク人形を作ったり、新春パン祭りを開いたり、ヘズラト君が大ネズミから大シマリスへ進化したり、僕の誕生日があったり、世界旅行がタイムオーバーしたんじゃないかって疑惑が持ち上がったり……。
そんなこんなで、ずいぶんと神像作りも後回しになってしまっていた。それがこの度ようやく完成したということで、早めに届けてこようじゃないか。
僕はマジックバッグにミコト神像を収納して、お出掛けの準備を整える。
「ではでは、これからミコトさんがいるダンジョンのアレクハウスに向かうわけだけど…………まぁヘズラト君だよね」
やはりここはヘズラト君だろう。ヘズラト君に乗っていこう。
急ぐのならばヘズラト君だ。悔しいけれど、『素早さ』ではすでにヘズラト君に敵わないのだから……。
「まぁダブルスコアだし、もはや悔しがるレベルにすらないんだけどさ……」
……いや、それでも悔しがるのはいいことだ。むしろいいこと。その気持ちは大事にしよう。
いつか追い付くんだと、むしろ追い抜くんだと、それが無理ならせめてトリプルスコアは阻止できたらいいなぁって、そんな気持ちを胸に秘め、僕も僕なりに日々精進していこう……。
◇
「ナナさーん、ちょっといいかなー?」
ナナさんの部屋の前までやってきた。
今ヘズラト君は召喚中で、ナナさんと一緒だったはずだ。外に出掛けていなければ、二人とも部屋にいるはずだが――
「ナナさーん、ヘズラトくーん、いるかなー? ナナさーん」
部屋の扉をノックしながら僕が声を掛けると、扉の向こうから――
「キー」
「…………」
扉の向こうから、『キー』という声が返ってきた。
大シマリスのヘズラト君の声――ではなく、ナナさんの『キー』という返事だ。
わかりづらいからやめてくれんかな……。
いや、もちろんナナさんの声だとすぐにわかったよ? でもなんか……なんかわかりづらいんだよね。誰のセリフかわかりづらい……。
「えーと、入っていいかな?」
「キー」
「わかんないってばナナさん……」
今度もナナさんの『キー』だ。ナナさんの『キー』では、入っていいのかダメなのかわからんのよ。
「キー」
「あ、うん……」
今度はヘズラト君の『キー』だった。どうやら入っていいらしい。
「お邪魔しまーす」
「キー」
「キー」
「うん……」
最初の『キー』がナナさんで、次の『キー』はヘズラト君だ。
やっぱりいろいろとわかりづらいのよ……。もちろん僕はわかるけど、たぶんだいぶわかりづらいことになっているのよ。ややこしいことになっているのよ……。
「まぁ冗談はさておき、どうしましたマスター?」
「うん、ちょっと用事が――――おや?」
ここへ来た理由を話そうとしたところで、ちょいと気になるものが目に入った。
「それは……。二人がやっているそれは――」
「リバーシです」
リバーシだ。ナナさんとヘズラト君が、テーブルを挟んでリバーシをプレイしていた。
「リバーシかぁ」
「どうかされましたか?」
「あー……なんだろうね。なんとなく懐かしい気分になったよ」
何やらそんな感情が心に飛来した。どことなくノスタルジックな気分。
「なるほど、わかります。マスターがしみじみと感慨にふけってしまうのも理解できます」
「おや、そうなの?」
「もはや過ぎ去った懐かしい過去に感じたのでしょう。作って広めて大金を得るというテンプレを一通り消化した時点で、リバーシはほぼ役目を終えたと言っても過言ではありませんからね」
「んー……」
……うん、とりあえずテンプレとか言わないでくれるかな。テンプレ物語のテンプレ主人公のテンプレ行動っぽく言わないでほしい。
そりゃまぁ、確かに僕もお約束としてやっておこうくらいの感じで作った記憶はあるけどさ……。
「それはそうとナナさん、実はちょっと用があって来たんだ」
なんだかいつもこうね。ナナさんの部屋へ来ると、本題へ入る前に毎回毎回無駄話で無駄に時間を浪費しているような気がする。
いいんだけどさ。こういう無駄話も個人的には全然嫌いじゃないし、別にいいんだけれども、一応今は用事があるんでね。
「用ですか? はて、なんでしょう?」
「実はね、ようやくミコト神像が完成したんだ」
「ほう、ついにですか。見せていただいても構いませんか?」
「あ、見る? うん、もちろんいいとも」
ではでは、ナナさんもヘズラト君も見てくれたまえ。我ながら良い出来だと自負するミコト神像なのだよ。
僕はマジックバッグからミコト神像を取り出し、二人に見えるようテーブルへ置いた。
「ほうほうほう。さすがですね。さすがはマスター。木工に関してはさすがです」
「キー」
うんうん。二人とも出来栄えに関心している様子。二人の様子を見て、僕としても満足。
微妙にナナさんの物言いには引っかかる部分があったけれど、とりあえずは満足。
「ですがマスター、少々気になることがあるのですが」
「うん? そう? なんかおかしいかな? ミコトさんを完璧に再現していると思うけど」
「そこですよマスター。確かに天界のミコト様はこうでした。しかし現在のミコト様は、もうちょっとぽっちゃり――」
「やめなさい」
やめるんだナナさん。それ以上いけない。
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