第513話 十九歳の僕
十九歳になった。
「十九歳だよ父」
「え? あ、うん、そうだね」
「この世界に生まれ落ちて、十九年という歳月が流れたよ父」
「う、うん。なんだか妙に感傷に浸っているね……」
そりゃあ浸るさ。なにせ誕生日だからね。誕生日とは、そんなふうに浸ってしまう日なのだよ。
「やっぱり十九歳って年齢も、アレクにとっては何か特別だったりするのかな?」
「うん?」
「確か十八歳の誕生日にもそんなことを言ってなかった? 妙にそわそわしながら、十八歳は大人だとかなんとか」
「あー、そういえば言ってたかな」
十八歳 ――十八禁がどうのこうのと父に言っていた気がする。
……あ、いや、別に十八禁について語ったわけではないか。さすがに父に対してそんなことを語ったわけではないはず。さすがに意味がわからなすぎる。
「とりあえず十九歳はそこまでではないかな。そこまでの変化はない感じ」
「そうなんだ……。でもまぁ、おめでとうアレク」
「ありがとう父」
うん、嬉しいね。十九歳という年齢自体に特別深い思い入れはないけれど、こうして祝ってくれるのは嬉しい。
「それにしてもさ……」
「うん?」
「……この一年、なんか長くなかった?」
「長い……? えっと、それはどういうこと?」
「十八歳の期間が、異様に長く感じたんだけど」
なんかもうずーっと十八歳だった気がする。ちょっと不安になるくらい十八歳だった気がする。
僕の十八歳パートはどれだけ続くのか、下手したら十九歳にはなれないんじゃないか、ひょっとするといつの間にかサ◯エさん時空に巻き込まれたのではないか、そんな不安を覚えるほどの一年間だった。
「……よくわからないけど、それだけ密度の濃い日々を送っていたってことなのかな?」
「密度かー。そうなのかなぁ」
まぁ去年は第五回世界旅行があったからね。そこで初めてスカーレットさんと出会ったり、初めてラフトの町に入ることができてクリスティーナさんやエルザちゃんと出会ったり、そういう意味ではイベントも多かった。
だがしかし、それで密度が濃かったかというと……。
「むしろ密度で言うなら薄かった気もするけどねぇ。なんというか、僕の行動や発言なんて基本的にグダグダで薄っぺらいしさ、普通に会話していても、いつも内容のないことしか喋ってないよね」
「待ってアレク、そこまで自分を卑下しなくても……」
「別に卑下はしていないけどね?」
「そうなの……?」
そうともさ。むしろ、そういったグダグダな会話こそが僕の持ち味であり、僕の真骨頂だと思う。
というか、みんなもそう思っていてくれるとありがたい。このグダグダ感を楽しんでいただきたいと、そう強く願う。
さておきだ、この一年が長く感じたのはそれが原因かもしれない。イベントは数多くあったけど、その度にグダグダする日々が続いたから、それで十八歳が異様に長く感じたのかもね。
「兎にも角にも、そんな十八歳が昨日で終わり、今日からは十九歳がスタートするわけだ」
「そうだね。今日からの一年も、アレクにとって良い一年になるといいね」
「うん、ありがとう父」
はてさて、いったいどんな一年になることやら。一年後には僕も二十歳ということで、今から身が引き締まる思いだ。
やっぱりさ、二十歳こそが大きな区切りのひとつだと思うし、これからの一年間で、僕も立派に成長していきたいものである。
これからの一年をどう生きるか。一年でどう成長できるか。
なにせあと一年だから…………うん? あと一年?
「ん? どうかしたのかな?」
「あ、いや、なんか妙に引っ掛かって……」
一年。あと一年か……。
なんだろう。何かが引っ掛かる。なんだ? 僕は何が気になっているんだ? 僕の第六感は何を訴えかけている? 僕の灰色の脳細胞は、いったい何を――
……なんかつい最近もあったなこんなの。何かに気付きかける感じのやつ。
とりあえずあれだ、灰色の脳細胞だ。頑張れ僕の灰色の脳細胞。僕が引っ掛かったのはなんなのか、どうにかその答えを導き出してくれ灰色の脳細胞さん――
「……ハッ!」
「うん?」
そうか、そういうことか……。
いやしかし、これはいったいどうなるんだ……?
「これは…………ユグドラシルさんかな? ユグドラシルさん案件?」
「世界樹様?」
「えぇと、どうしよう……。とりあえず教会から連絡しようかな?」
そうしようか。教会で魔道具を借りて、いつもの教会本部の人に通話を――
「待ってアレク、いったいどうしたの?」
「あ、うん、ちょっと気になることがあって、その相談をユグドラシルさんにしたいかなって」
「相談したいこと……?」
僕がそう伝えると、父はちょっと渋い顔をして、うーんと考え込む様子を見せた。
うん? 父? どうしたの?
「世界樹様に連絡して、ここまで来てもらうの?」
「そのつもりだけど……」
「そんなふうに世界樹様を無遠慮に呼び付けるのはどうなんだろう……。この前もアレクは、それで世界樹様に怒られていただろう?」
「あー……」
大シマリスに進化したダモクレス君のお披露目会したときのことか。確かにあのときはユグドラシルさんに怒られてしまい、久々にウッドクローまでいただいてしまった。
……だがしかし、あれは軽々しく呼び付けたことよりも、詳細を伝えずに人力車でユグドラシルさんを発送してしまったことを怒ったのだと思う。
なんだかんだ笑顔で人力車から手を振ってくれたらしいし、その翌日も普通にお神輿をやってくれたし、さらには『また何かあったら呼ぶのじゃ』と言い残して帰っていったし……。だからまぁ、今回呼んでも怒られることはなさそうな予感はあるけれど……。
「相談したいことがなんなのかは知らないけど、それはそんなに急ぐことなのかい?」
「ん……別にそこまで急ぐことではないかな?」
……まぁ急いだ方がいいことではある。
とはいえ、正確には『急いだ方がよかった』ことであり、もっと正確に言えば『もはや手遅れで、今更急いでもどうしようもない』ことでもあったりして……。
「じゃあ、あえて通話で連絡することもないんじゃないかな?」
「そうかなぁ。んー、確かにそうかもしれないけれど……」
「そのうち世界樹様も村に来訪してくれるだろうし、それまで待っていてもいいんじゃない?」
「むぅ……」
父が正論ばっかり投げ掛けてくる……。
それは、確かにその通りである。たぶん待っていたらそのうち遊びに来てくれる。だからまぁ、それでも全然いいんだけれど……。
「いやでも、通話を……せっかくだし通話を……」
「『せっかくだし』ってのがよくわからないのだけど……。そこまで通話したい理由が何かあるの?」
「ええ!? そんな! 何もないよ! 僕は別に、教会本部の人との通話をついでに楽しもうとなんてしていないよ!」
「…………」
「……いや、違うってば」
「…………」
違うのに……。
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