第507話 進化
「フリードリッヒくーん!」
突然震えだし、光を放ち始めたフリードリッヒ君を前にして――僕は名前を叫ぶことしかできなかった!
「フリードリッ……!」
「キー」
「お、おう」
未だにペカペカ光り続けているフリードリッヒ君だが、何やら普通に返事が返ってきた。
わりと冷静だなフリードリッヒ君……。
というか、一応は受け答えできる状態なのか……。
「だ、大丈夫なの?」
「キー」
「そう……。でも、どうしよう。どうしたらいいんだろう」
フリードリッヒ君は大丈夫と言うが、何かしらの異変が起こっているのは間違いない。
僕はどう動けばいいのだろう。フリードリッヒ君に何をしてあげられるのか。それとも光っている今は動かさない方がいいのだろうか。というか、このまま光りっぱなしだったらどうしよう……。
といったふうに、焦るばかりで結局僕が動き出せずにいると――
「あ、光が……」
「キー」
だんだんと光が収まってきた。
光に包まれてシルエットしか見えなかったフリードリッヒ君の姿が、鮮明に確認できるようになった。
そして、そこにいたのは――
「……ん? んん?」
「キー」
「えぇと………………シマリス?」
「キー?」
◇
何やらフリードリッヒ君が、結構な変貌を遂げていた。
顔つきや体つき自体は、大きく変わったようには見えないが、しかし体毛が――毛の色が変わった。全体は茶系で、顔から背中にかけて黒い縦縞が五本ほど入っている。あとは尻尾。尻尾のボリュームがすごい。もふもふしている。
つまりは――シマリスだ。大きなシマリスに見える。なんかフリードリッヒ君がシマリスになっていた。
「――というわけで、診てあげてください」
「そんなことを言われても……」
ひとまず僕達はダンジョンを抜けて森を抜けて、メイユ村まで戻ってきた。そしてジスレア診療所の戸を叩いた。
当事者であるフリードリッヒ君――もといヘズラト君も僕も状況がわからず、困惑しながら診療所までやってきたのだが……ジスレアさんもまた困惑気味の様子。
「そもそもこれは、回復魔法でどうにかなるものなの?」
「わかりませんが……もしも病気だった場合は大変なので、ひとまず魔法をかけていただけると」
「んー。わかった。じゃあ――」
「あ、ではでは、こちらをどうぞ」
「……ん」
何はなくとも診察料。どうぞお納めください。
そうして硬貨を受け取ってから、ジスレアさんはヘズラト君に手をかざした。
「『キュア』」
「キー」
「んー、変わらないね。――『ヒール』」
「キー」
「ん、やっぱり変わらない」
「キー」
立て続けに回復魔法を浴びたヘズラト君だったが、やはり大きなシマリスのままで、大ネズミには戻らなかった。
「ふーむ……。だとすると病気とかではなさそうですね」
「そうみたい」
「一応は安心なんですかね? 良かったねヘズラト君」
「キー」
とりあえずは健康体らしい。これで一安心。良かった良かった――――うん? 良かった? いや待て、良かったのか?
重篤な病気とかでもないようで、命に別条はないっぽいのは良かったけど……だがしかし、これは喜んでいいことなのだろうか。
病気、あるいは状態異常とかでもないのだとすると――じゃあなんなの? なんか普通にネズミからシマリスへと変貌しちゃったってこと?
えぇと、これを良かったと言ってしまっていいのかな……。当の本人はどう考えているのだろう……。
「キー?」
「あぁ、うん、えぇと……」
「キー」
「あ、いやいや、全然それは……」
なんか丁寧に『ご心配おかけしました』とか言われてしまった。
むしろ僕としては、現在進行形で心配している最中なのだけど……。
とりあえず本人的には、自分がシマリスになってしまったことをそこまでは気にしてはいない感じなのかな……。じゃあ僕達も、そこまで深刻に捉えなくていいのかな……。
「まぁ元々病気ではないと思っていた」
「あー、やっぱりそうですかね」
「毛並みも良いし、綺麗な縞模様だし」
「キー」
そう言って、縦縞をなぞるようにヘズラト君をなでるジスレアさん。
なんとなく僕もつられてなでてみる。うん、ふわふわだ。
「それで、もっと詳しく状況を知りたいのなら――教会へ行くべきだと思う」
「教会ですか?」
「教会で鑑定をしたら、もう少しいろいろわかると思う」
「あ、そうですね。それは確かに」
……というか、確かヘズラト君も同じことを言っていた。
『ひとまず鑑定をしたらどうかと思うのですが……』的なことを言っていたような気がする。
しかしながら僕は焦ってしまい、『いいから病院に! 病院だよぅ!』的な感じで、ヘズラト君を無理やりここまで連れてきたのだ。
……あぁいや、正確にはそれすら違っていたかな。
移動中は、むしろヘズラト君の方が先行していた。病人かもしれないヘズラト君の背中に乗るわけにもいかず、二人とも徒歩でここまで来たのだが……その結果、むしろ僕が後を付いていく形になっていた気がする。
うぅむ……。何かと滑稽に見えたかもしれない一連の僕の動きだったが、それだけヘズラト君のことを心配していたのだと、そう思ってくれるとありがたいな……。
◇
というわけで、村の教会にやってきた。
「というわけなのですよ」
「はー、そうなんですかー。大ネズミのリンゴちゃんが、大きなシマリスのリンゴちゃんになっちゃったんですかー」
「そうなんです。それでどうしたものかと」
「んー、でも綺麗な模様ですねー」
「キー」
ここでもローデットさんが、縦縞をなぞるようにリンゴちゃんをなでりなでりしている。
ふむふむ。なかなかに評判が良い。
もちろん大ネズミ時代から、それはそれは可愛らしいことで評判のヘズラト君ではあったが、やはりシマリスの縦縞と尻尾は魅力である。
「それでですね、鑑定したらいろいろわかるはずだと、ジスレアさんやリンゴちゃんから言われまして――いや、もちろん僕もわかっていましたよ? 薄々はわかっていた気がします。ただ、優先順位的にまずは診療所へ行っただけで……」
「はぁ」
「さておき、そういうわけで鑑定にやって来ました」
「なるほどー。そうですね、リンゴちゃんも気になっているでしょうし、さっそく鑑定しましょうかー」
そうね、ローデットさんの言う通りだね。リンゴちゃんだって気になっているよね。それは僕も思った。本当にそう思った。
だからこそ、ジスレア診療所から教会まで急いで来たのだ。せっかく診療所に行ったにも関わらず、治療費を払ったにも関わらず、ジスレアさんとそこまでお喋りもせずにここまで来たのだ。そのあたり、ちょっと褒めてもらってもいいと思う。
「ではお願いします。こちら鑑定代となります」
「はーい、ありがとうございますー」
何はなくとも鑑定代。僕はリンゴちゃんの鑑定代をローデットさんに手渡した。
いやいや、いいんだリンゴちゃん。ここは僕が持つとも。僕に払わせておくれよ。
「あ、こちらもどうぞ。教会へのお布施です」
「これはこれは、ありがとうございますー」
続いて、鑑定代とは別にお布施も手渡した。
「あ、ついでにこちらもどうぞ。迷惑料です」
「いつもありがとうございますー」
続いて、鑑定代とお布施とは別に迷惑料を……あ、よくよく考えるとこれはいらなかったか。
迷惑料――いわゆる口止め料なのだが、今回のは別に隠したいことでもないし、払う必要もなかった。
でもまぁいいか。今更返してほしいとも言わないし、返してほしいとも思っていない。
なんだったら、なんの代金でもいいからさらに追加で受け取ってほしいくらいである。
「じゃあリンゴちゃん、鑑定してみて」
「キー」
諸々代金を支払ったところで、いよいよ鑑定だ。
これで今回の現象について、ある程度は解明できるだろう。あの光はなんだったのか。この変化はなんなのか。いったいリンゴちゃんに何が起こったのか。鑑定で明らかになるはずだ。
はてさて、注目の鑑定結果は――
名前:リンゴ
種族:大シマリス(New) 年齢:2
職業:大ネズミ見習い
レベル:10(↑1)
筋力値 9(↑2)
魔力値 4(↑1)
生命力 4(↑1)
器用さ 7(↑2)
素早さ 14(↑2)
スキル
大シマリスLv1(New) 大ネズミLv1 剣Lv1
スキルアーツ
エアスラッシュ(剣Lv1)
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