第505話 新春パン祭り
年が明け、去年の間から準備していた新春パン祭りが、満を持して開幕し――
――そして終了した。
「無事に終わりましたね」
「うむ」
いやー、良かったね。良いお祭りだった。
村の人達にも喜んでもらえて、大盛況のうちに閉幕することができた。何よりである。
思えばあっという間だった気がする。いろいろと準備を重ねてきたが、始まってしまえばあっという間で、いつの間にかパン祭りも終了していた。
……うん、本当にあっという間だった。
まるで、お祭りそのものの描写が丸々カットされてしまったかのような……。
さておき、そんなこんなでお祭りが終わり、後片付けも終わり、僕は家に帰ってきた。
お祭りに来てくれたユグドラシルさんも一緒である。
「ユグドラシルさんも、今回はありがとうございました」
「……うむ」
「ユグドラシルさん?」
「うーむ……」
何やら黙り込んで考え込んでいる様子のユグドラシルさん、いったいどうしたというのだろう。
「のうアレクよ、あの小さい馬車――人力車と言ったか?」
「あぁはい、人力車ですね」
「……何故わしはあれに乗せられたのじゃ?」
「…………」
……なるほど。そうか、そこに引っ掛かっていたのか。
まぁ言うまでもなく、あれは――お神輿である。
お祭り企画の一環として、ユグドラシルさんにはお神輿に乗ってもらいたかったのだ。
そこで用意したのが人力車。ユグドラシルさんには人力車に乗ってもらい、大ネズミのモモちゃん引いてもらい、村を一周してきてもらった。
……あ、いや、二周か。パンを撒く前と後で乗ってもらったから、村を二周してもらった。
「……でもそうですね。ユグドラシルさんには申し訳ないことをしてしまいました」
「む?」
「人力車を流用するのではなく、お祭り用の豪華な乗り物を新しく用意したら良かったですね。もっと別の台車か、あるいは人が担ぐようなタイプの物を」
せっかく作った人力車があったので、ついついそれで間に合わせてしまった。やはりちゃんと専用のお神輿を作ればよかった。
これじゃあユグドラシルさんがご立腹なのも納得で――
「……そこではない」
「あれ?」
「そこではなく、そもそも何故乗せられたのかという話じゃ」
「あー……」
まぁそれもそうか。お神輿が地味だからと憤慨するユグドラシルさんではなかったか。
というかそもそも、そこにこだわりもなさそうなユグドラシルさんであった。
「で、あれはなんじゃったのじゃ? 突然お主から人力車に乗るよう促され、乗るやいなやモモが引っ張り始めて、何事かと思ったわ……」
「それはその、すみませんでした……」
いろいろとスケジュールが立て込んでいて、詳しく説明する時間も取れず……。
あとはまぁ……勝手にこんなイベントを企画して、ユグドラシルさんに怒られたりしないかなって、というかたぶん怒られるよねって、とはいえ是非とも乗ってもらいたいんだよねって、そんなことを考えていた僕もいたりして……。
「なんというか、前世であったやつなんですよ。前世でも似たような催しが開かれていまして、それをここでも再現してみようと思った次第であります」
「……なんなのじゃお主の前世は。毎度のことながら、謎の文化が多すぎる」
まぁ実際にはかなりアレンジが加えられているんだけどね……。
僕の前世でも、大きなネズミが神様を人力車に乗せて引っ張る文化なんてものはなかった。
「……まぁよいわ。村のみなも喜んでいたようじゃし、そこまで文句は言わん」
「おぉ、それはまた……」
なんというサービス精神であろうか。さすがである。さすがは慈愛の女神ユグドラシルさん。
「ありがとうございます。ユグドラシルさんの寛大なお心に感謝します」
「うむ」
「では、来年もよろしくお願いします」
「…………」
よかったよかった。来年も良いパン祭りが開けそうだ。
「あ、そうだ、ユグドラシルさん」
「……なんじゃ?」
「改めてになりますが、あけましておめでとうございます」
「あぁ、うむ。おめでとう」
何やら今までは忙しくて、正月気分もあんまり味わえていなかった。お祭りが終わり、ようやく一息付けた感じだね。
というわけで、ここらでユグドラシルさんにも新年の挨拶をば。
「ではユグドラシルさん、こちらをどうぞ」
「うん? なんじゃ? 木箱?」
僕はマジックバッグから木箱を取り出し、テーブルに置いた。
「どうぞ開けてみてください」
「ふむ…………パン?」
「そうですね。パンです」
「これは、アレクが撒いていた物と同じパンか?」
「そうなります」
ポケットティッシュの包装紙に包まれており、中はよく見えないが、ユグドラシルさんの推察通りパンである。
メイユパンとルクミーヌパンが十個ずつ、合計二十個のパンが木箱に敷き詰められていた。
「そうか、あのパンか」
「そういえばユグドラシルさんは、もう食べてみましたか?」
「うむ。わしもアレクが撒いていたパンをいくつか手に入れて、そのうちひとつを食べてみた。……まぁ中身は普通のパンじゃったが」
「そうですねぇ……」
やはりそこも改善点だろうか……。来年はもうちょっと考えてみようかね。
「見た目は良かったがのう。可愛らしいパンじゃった。村の名前が入っているのも良いと思う。それに、味も別に悪いものではなかった」
「ほうほう」
見た目の部分ではユグドラシルさんからも高評価をいただけた模様。やはり小さくしたのと焼き印を入れたのは正解だったな。
「で、そのパンが二十個か。……しかしまた、ずいぶんと丁寧に包装したのう。この木箱はわざわざ作ったのか?」
「ええはい。――自信作です」
「自信作? ……うん? なんじゃ? 妙に重たいが」
「ふふふ……」
「木箱の重さか? いやしかし、これは…………む?」
気付いたらしい。実際に手に取ってみて、この木箱がただの木箱ではないことに――実は二重底になっていることに、ユグドラシルさんも気が付いたらしい。
「なんじゃこれは……」
パンが敷き詰められていた一枚目の底を持ち上げると、その下には――何枚もの金貨が敷き詰められていた!
っていうか――敷き詰めてみた!
「お納めください」
「そう言われても……」
「あれです。いわゆる延べ棒です」
「延べ棒……? あぁ、いつものあれか……」
毎年恒例のあれである。ダンジョンに設置してある等身大ユグドラシル神像へのお賽銭だ。いつもは金の延べ棒に変換して納めていたのだが、今回はちょっぴり趣向を変えてみた。
「しかし、何故こんな形で……」
「これも前世であったやつなのですよ」
「お主の前世は本当に……」
まぁ本当にあったかどうかは僕も知らんかったりする。時代劇の中でしか見たことがない。
「とにかくユグドラシルさん、どうぞどうぞ」
「うぅむ……。何やら妙に悪いことをしている気分になるのう……」
実際にはなんにも悪いことなんてしていないんだけどね。
でもまぁ……できたらユグドラシルさんに『お主も悪よのう』ってセリフを言ってみてもらいたくもある。
next chapter:おや!? フリードリッヒ君の様子が……!
お話のストックがなくなってきてしまいました(´・ω・`)
というわけで、今までは奇数日に投稿していましたが、これからは週二回の投稿――月曜日と金曜日の投稿に変更させていただきたいと思います。誠に申し訳ございません。よろしくお願いいたします(´・ω・`)




