第501話 完璧なアレク人形
――完成した。
ようやくアレク人形が完成した。
「どうかな?」
「いいんじゃない?」
「……うん、いいと思うよ?」
長いこと作っていた等身大アレク人形が完成し、リアル系ニスの塗布も終わったので、リビングにて家族みんなに見てもらった。
なにせ自分の人形の出来なんて、自分ではよくわからんからねぇ。
そういうわけで確認してもらったのだけど――とりあえず母からは高評価をいただけた。
そして父は……うん、父は若干引いているような気もする。まぁ物が物だけに、出来が良くても引かれそうではある。
「ナナさんはどう?」
「完璧かと思われます」
「ほうほう。完璧とな?」
「アレク坊ちゃんは口さえ開かなければ完璧なので、口を開かないアレク人形は完璧です」
「…………」
……まぁわかっていた。ナナさんに話を振れば、そんな軽口が返ってくるのはわかっていた。
というか、ナナさんもそうだからね? ナナさんも口を開けばかなり残念な人だからね?
「それにしても、ここ数週間の追い込みは鬼気迫るものがありましたね」
「あー、それはねぇ……」
一ヶ月ほど前、世界旅行中に書いた手紙が家に届いたのだが、それをみんなに配っていたところ、何やらレリーナちゃんの不興を買ってしまったもので……。爆買いしてしまったもので……。
だいぶ危ういところだった。それこそ本当に口が聞けない状態にされかねんかった。物言わぬ人形のようにされるところだった……。
というわけで、どうにかレリーナちゃんのご機嫌を取ろうと考え、それにはアレク人形のプレゼントしかないと、必死になって作業を進める一ヶ月だったのだ。
……まぁ、それでもルクミーヌ村の手紙配達だけはしっかり終わらせてから作業を開始した僕だったりもするのだけれど。結局ルクミーヌ村でも五日掛けちゃったりもしたのだけれど。
「でも本当に良い出来ね」
「ありがとう母さん。やっぱり自分ではよくわからないけど、母さんがそう言うならそうなのかな」
「玄関に飾りたいくらいだわ」
「え? いや、それはちょっと……」
こんな自分と瓜二つの人形を玄関に飾るとか、さすがにそれはちょっと……。
というか、そう考えると母はすごいな。何故普通に飾っていられるのか。もうかれこれ三年以上玄関に新型等身大リアル母人形を飾っていると思ったが、何故平然としていられるのか。父は未だに平然としていられないくらいなのに。
「そもそもさ、片方が母さんの人形なら、もう片方は父の人形が妥当じゃない?」
「まぁパパでもいいわ」
おぉ、そうなのか、父でもいいのか。
でもまぁ、やっぱり僕的には男性の人形とかあんまり興味がないのだけど……。
「んー、父がどうしてもって言うなら作るけど?」
「僕は何も言っていないよ……。作らなくて大丈夫だよ……」
「そう?」
そうなのか。せっかくなら、髪を緑色に染めて、緑色のタイツを履いた『エメラルドグリーン』バージョンの父を作ろうかと思ったのだけど、そうも遠慮するならやめておこうか。
「兎にも角にも、どうやらみんなの目から見ても問題なさそうだし、さっそくレリーナちゃんに納品してくるよ」
「おや、もうですか。完璧なアレク坊ちゃんとももうお別れですか。少々名残惜しいですね」
もはや人形の方が本体みたいな扱いじゃないか。完璧でないアレク坊ちゃんに、そこまで不満があるというのか……。
「なにせ完璧ですからね。きっとレリーナ様にも喜んでいただけるはずです」
「……うん、まぁそうね。そうだといいね」
改めて考えると、それもどうなのって話だけどねぇ。
完璧に再現された完璧な僕の人形でそこまで喜ばれるのも、なんだかレリーナちゃんが心配になってきてしまうのだけど…………まぁ今更か。レリーナちゃんが心配なのは、今に始まったことではなかった。
「それで、どうやって運ぶのですか? 私としては、人力車での運搬をお勧めしますが」
「……なんでよ?」
「何やら見た目が面白そうなので」
「……マジックバッグを使うよ。普通に入るでしょ」
なんでそんなシュールな映像を提供せねばならんのか……。
普通にマジックバッグを使うつもりだ。すでにそれ用のマジックバッグも持ってきてある。
「えぇと……でもどうやって入れたものかな」
人形の上からマジックバッグを被せるように収納したらいいんだけど……マジックバッグって、開け口を広げた状態で逆さにするのは、あんまりよくないんだよね。
それで中の物が全部出てしまうってこともないのだけど、安全を考えてやらないのが習わしだったりする。
例えば、逆さにしたマジックバッグに手を入れ、うっかり大きな木材のことを考えたり探ったりしてしまった場合、バッグから木材が落下してくる危険があったりするわけだ。ドーンって落っこちてきて、足とかにドーンである。
まぁ僕に限ってそんな凡ミスをするはずがないと確信しているが、何事も用心するに越したことはない。というわけで、もうちょっと別の収納方法を考えよう。
「んー、いったん寝かせようかな? 人形を横にしてからマジックバッグに入れる感じで――」
「では私がやりましょう。アレク坊ちゃんはマジックバッグの方をお願いします」
「え? あ、えぇと……うん、じゃあお願いしようかな」
こんな力作業をナナさんに任せるのもどうかと思ったけれど……実際『筋力値』もナナさんの方が僕より上だし、ナナさんも『木工』スキルを持っていて木材の扱いに長けているしで、断る理由がなかった。……とはいえ、モニョる。なんかモニョる。
「僕も手伝うよナナさん」
「おや、ありがとうございますセルジャン様。ではセルジャン様は、アレク坊ちゃんの肩あたりを支えていただけますか?」
「……うん、アレク人形の肩ね」
「しっかりニスで固められているようですし、簡単にアレク坊ちゃんの腕がもげるようなことにはならないでしょう」
「うん……」
もうちょっと言い方はないものかナナさん。
手伝ってもらっている以上、あまり文句も言えないが、アレク人形をアレク坊ちゃんと言うのをやめてくれんだろうか。
「ではアレク坊ちゃん、マジックバッグにアレク坊ちゃんの収納を」
「……うん」
……まぁいいや。さっさと入れてしまおう。
父とナナさんが協力してアレク人形を床に寝かせてくれたので、僕はマジックバッグを構え、アレク人形を――
「何やら死体を袋に詰めているような光景ですね」
あまりにも……。あまりにも例えが悪すぎる……。
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