第499話 二番目の女
――ルクミーヌ村に到着した。
大ネズミのフリードリッヒ君が引っ張る人力車に乗って森の中を進む――そんな、どことなくコミカルで、ちょっとだけシュールで、それでいてメルヘンチックな移動を終え、僕達はルクミーヌ村に到着した。
「案外大丈夫だったね」
「キー」
何かと初めてづくしだった。フリードリッヒ君が人力車を引くのも初めてで、僕が荷台に乗るのも初めてで、森の中を走行するのも初めてのことだったけれど――案外大丈夫だった。案外安全な人力車での移動だった。
「……といっても、フリードリッヒ君が気を付けてくれたからだよねぇ」
「キー」
気を付けてというか、気を遣ってというか……。
ビビる僕に気を遣ってくれて、フリードリッヒ君はかなりゆっくり走ってくれたのだ。結構な安全運転であった。
まぁそんな安全運転のおかげで安全に村まで移動できたわけで、フリードリッヒ君には感謝である。
あとは、ユグドラシルさんにも感謝だね。世界樹パワーで獣道を引いてくれたユグドラシルさんに感謝。おかげで人力車でも楽に移動することができました。ありがとうございますユグドラシルさん。
「それで、フリードリッヒ君的にはどう? 何か気になることはあった?」
「キー」
「おー、そっかそっか。ありがとうフリードリッヒ君」
僕とジェレパパは素晴らしい人力車を作ってくれたと、フリードリッヒ君から大層褒めちぎられた。
うんうん、それなら良かった。そう言ってくれると僕も気分が良い。さすがはフリードリッヒ君、持ち上げ上手。
「キー……」
「あー、まぁね、それはそうだよね……」
しかし素晴らしい人力車であるがゆえに、ちゃんと制御できるかがちょっぴり不安とのことだ。
もっとスピードを出せるはずで、そのとき人力車を上手く乗りこなすことができるかどうかが不安だと……。
……まぁ正確に言えば『乗っている』のは僕なのだが、正直僕は何もしていないので、『乗りこなす』のはフリードリッヒ君ということになるのだろう。
「キー」
「なるほど……」
ちゃんと曲がれるか、ちゃんと止まれるか、そんなことをフリードリッヒ君が心配している。
……そしてそんなことを言われちゃうと、僕も少し心配になってしまう。ちゃんと曲がれなかったとき、ちゃんと止まれなかったとき、いったい僕はどうなってしまうのだろう……。
まぁ一応ブレーキっぽい物は付いているんだけどねぇ。
荷台の前方部分、そこから地面に向かって棒が伸びているのだ。停車中はこれがスタンドになるのだが、この棒を地面にこすらせればブレーキとなる。
……それをブレーキと呼ぶのはちょっぴりおこがましいような気もするが、一応はブレーキだ。
「んー、でもまぁ、そのあたりの試運転はまた今度やろうよ。ひとまず今回は大成功。ここまで運んでくれてありがとうねフリードリッヒ君」
「キー」
今日はもう十分だろう。十分な成果を得た。無事に森を抜けてルクミーヌ村に到着できたことに僕は満足だ。
最高速へのチャレンジや、そこからのブレーキ試験は、また今度にしようじゃないか。
そしてその際は、やっぱりジェレパパに協力してもらいたいところなのだけど……。できたら僕の代わりに荷台へ……。
「さてさて、それじゃあこれからルクミーヌ村での手紙配達だ」
「キー」
「各お家に手紙を配って回るのだけど――ただ、その前に人力車から鞍に変更してもらってもいいかな?」
まぁこのまま人力車でもいいんだけどさ、でもやっぱり鞍移動も捨てたもんじゃないと思うのよ。
ジェレパパにも良い鞍を作ってもらったし、なんだかんだで鞍での騎乗も回数をこなしてきたし、これでもう乗らないってのも、それはあまりにももったいないじゃないの。
そういうわけで、個人的にはこれからも鞍移動を続けたい気持ちがある。
「キー」
「そっかそっか、ありがとうフリードリッヒ君」
「キー」
「おぉぉ……。フリードリッヒ君!」
フリードリッヒ君も快諾してくれた。むしろ僕を背中に乗せることは無上の喜びとまで言ってくれた。
嬉しいことを言ってくれる。なんて愛らしいんだフリードリッヒ君!
「しかしだとすると……この人力車はどうしようか」
「キー」
愛らしいフリードリッヒ君を撫で回しながら、二人で思案する。
なにせマジックバッグには入らない代物だ。いったいどうしたものか。
「どこか止めておく場所があるといいんだけど……」
「キー……」
「どこかに駐車場が……」
「キー?」
駐車場。人力車を止める駐車場。コインパーキング的なものがどこかに……。
……まぁないか。この村に――というかこの世界にそんなものがあるはずもなかった。
うむ、なかなかに興味深いな。僕は今、この世界で初めて駐車場を探してうろうろする人になったわけだ。歴史的な一幕である。
「キー」
「そうだね。誰かにお願いしようか」
誰かにお願いして、家の庭とかに置かせてもらおう。
となると、お願いする相手は――
「んー、じゃあ村長さんのところに行こうか? 何やら未知の乗り物で村に乗り付けちゃったこともあるし、挨拶がてら村長さんのお家へ」
うん、それがいい。ルクミーヌ村の美人村長さんに会いに行こう。
それで挨拶をして、手紙を渡して、それから美人村長さんのお家の庭に人力車を置かせてくれるようお願いしよう。
「……あ、それとも別の人のところへ行った方がいいのかな?」
「キー?」
「なんというか……レリーナちゃんのときみたいに、守った方がいい順番とかあったりするのかな?」
「キー……」
その辺り、どうなのだろう。とりあえずフリードリッヒ君の指示を仰ぐ。
なんと言ってもフリードリッヒ君は軍師フリードリッヒ・ヴァインシュタイン二世君なのだ。メイユ村での手紙配達も、軍師のおかげですべてが上手くいった。ここでもその手腕に期待しよう。
……というか、僕はもっとフリードリッヒ君の話を聞くべきだよね。
真面目で頭が良くて気が利いて、とても常識がある常識鼠のフリードリッヒ君なのだ。そんなフリードリッヒ君の言うことをもっと理解して、もっと学んでいくべきだと思う。
さすれば僕も、もうちょっとしっかりした人に成長できる気がする。
そんなことをぼんやり考えながら、熟考しているフリードリッヒ君の言葉を待っていると――
「キー」
「あ、そうなんだ」
ここは別にいいらしい。ルクミーヌ村では、そこまで順番に気を遣うことはないのだそうだ。
「ルクミーヌ村っていうと、やっぱりこの村で最初に仲良くなったディアナちゃんとか、何かとお世話になっている村長さんとか、フルーツ店の娘さんとか、知り合いもそれなりに多くて、手紙を届ける相手もそれなりに多いわけだけど――」
「キー」
「ふむ。ディアナちゃん?」
「キー」
「へー」
フリードリッヒ君が言うには、確かにディアナちゃんはちょっとだけ順番を気にするかもしれないとのことだ。
だけどディアナちゃんなら、きちんと事情を説明すればきっと理解してくれるはずだと、そう助言を賜った。
なるほどなるほど。確かにそうかもしれない。なんかそんな気がする。
すごいなぁフリードリッヒ君。いつも僕に的確なアドバイスを授けてくれる。もはや人生の先輩である。
実はまだ二歳だったりするんだけど、尊敬できる人生の大先輩といった雰囲気をかもし出している。
よしよし、じゃあそうしようか。その予定でいこう。まずは美人村長さんのお家へ行って、その次にディアナちゃんのお家へ向かおう。
でだ、もしもその順番をディアナちゃんに知られてしまったとしても、その際はしっかり正直に事情を説明して――
「お、アレクじゃーん」
「おお?」
噂をすればなんとやら。前方からディアナちゃんが現れた。
「何々? アタシに会いに来たの?」
「うん、二番目に会おうと思っていたんだ」
「…………」
「あっ……。あ、その、違くて、そういう意味じゃなくて……」
「…………」
おぉぉ……。間違えた……。
正直に全部話さなきゃって、それだけで頭がいっぱいになってしまい……。何やらだいぶ間違った受け答えをしてしまった気がする……。
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