第426話 ラフトの町の冒険者クリスティーナ3
なんやかんやでクリスティーナさんとはだいぶ仲良くなれた気がする。
軽いスキンシップもあったりなんかして、僕達はだいぶ仲良く――
……というか、失敗したなぁ。
僕が余計なことを言わなければ、もうちょっとスキンシップが続いていたであろうに。
痛恨の極みである。アレクシス一生の不覚。口惜しや。あな口惜しや。
まぁそんなことがありつつも、クリスティーナさんとの会話は続く。
「んで――メイユ村?」
「そうです。故郷のメイユ村です」
「故郷を出発して、三ヶ月か」
「そうなんです。故郷のメイユ村を出発して三ヶ月。数々の困難や苦難を乗り越え、ようやくラフトの町にたどり着いたのです」
なんて話をしたわけだが……ちょいと話を盛りすぎただろうか?
艱難辛苦を乗り越えて、約束の地ラフトの町へたどり着いた僕であった。――みたいなノリで話してしまったが、実際にはそこまでの苦労はしていない気がする。
旅には同行者としてジスレアさんが付いてきてくれたし、途中からはスカーレットさんもいた。実際に苦労したのは忘れ物と顔面対策くらいで、旅の道中は気楽なもんだった。
そう考えると……どうなんだろうね。
さっきクリスティーナさんにも伝えたように、この旅には『優秀なエルフは若いうちから外の世界を知って、見聞を広めておくべき』なんてテーマがあったりする。
果たして――僕はその目的を達成できているのだろうか? 世界を回り、世界を知って、知識や経験を得ることができているのだろうか? その辺り、いったいどうなのだろう……。
「僕はこの旅で、成長できているんでしょうか……?」
「急になんだよ……。知らねぇよ……」
……まぁ知らんわな。今日初めて会ったクリスティーナさんに、僕の成長度合いがわかるはずもなかった。 というより、あまりにも唐突すぎる問いかけだった。
「わかんねぇけど三ヶ月も旅してきたんなら、いろいろと成長してんじゃねぇか?」
「そうですかねぇ」
わからないながらもクリスティーナさんはそれっぽくフォローしてくれた。さすがはクリスティーナさん。良い人。
「成長できていたらいいのですが……でも僕とか、ジスレアさんに頼ってばっかりだからなぁ」
「ん? 誰だ?」
「あ、そういえば言っていなかったですね。実は僕一人で旅をしてきたわけじゃなくて、同行してくれる人がいるんですよ」
「あぁなんだ、仲間がいんのか」
「ええはい。同じ村の人が一人と、人界の人が一人」
「なるほどな。エルフの仲間だけじゃなく、ちゃんと人界を案内できるやつもいるわけだ」
「……そうですね」
まぁスカーレットさんに案内をしてもらった記憶は、あんまりないのだけど……。
スカーレットさんは、そういう案内役とか先導役って感じでもなくて、なんというか――時々威光を示す人?
うん。たぶんそんな感じだろう。とりあえず今のところ、そんな感じの人だと思う。
「というわけで、三人ですね。三人パーティで旅をしてきました」
「でもよ、今アレクは一人だろ? 他の二人はどうしたんだ?」
「あー、ギルドまでは一緒に来たのですが、今はちょっと――ギルド長? ギルド長さんと話があるそうで、別行動です」
「あん? ギルド長? なんだそりゃ、なんか悪いことでもしたのか?」
「違いますよ……」
何故クリスティーナさんは、僕や僕達のパーティメンバーが悪いことをしていないか常に疑ってかかるのか。
「ちょっと世話になったとか、そんな感じですかね。軽く挨拶しているらしいです」
「ふーん? アレクは付いていかなかったのか?」
「…………」
付いていきたかった。そりゃあ僕だって付いていきたかったさ……。
「んー……僕がギルドに来たのは、今日が初めてなのですよ。それで二人がギルド長と話している間、僕はギルド内をいろいろ見学していて構わないと、そんなことを言われまして――」
「見学してたか?」
「…………」
見学はしていなかった。椅子に座って空気になるよう努めていた。
「最初見たとき、どっかの子供が迷い込んだのかと思ったわ」
「迷子扱い……。そうですか、そんなふうに見えましたか……」
「まぁそんな感じだったから、アタシも声を掛けたんだけどよ」
「……ほほう?」
そっか、それで心配して声を掛けてくれたのか。さすがはクリスティーナさん。良い人。
だがしかし、そうだとすると――クリスティーナさんの『おいおいおい。いつからここは、子供の遊び場になったんだ?』ってセリフはどうだったんだろう?
セリフのチョイスをだいぶ間違っているんじゃないかな? もうちょっと迷子向けのセリフはなかったものか。
「アレクはなんであんなに縮こまってたんだ?」
「あぁ、それはですね……」
むぅ。僕としては、あんまり話したい理由ではないのだけど……。
「なんというか、心細くて」
「心細い?」
「周りを見ても、なんだか怖そうだったり強そうだったりする冒険者ばかりじゃないですか。そんな中、のんきにギルド見学する気にもなれなくて」
「はーん?」
「だもんで、黙って大人しく座ってました」
黙って大人しく、空気になっていました。
「なるほどなぁ。……ならさ、そう言えばよかったんじゃねぇか?」
「はい?」
「二人の同行者とやらに、そう言って付いていけばよかっただろ」
「えぇ……? 『一人じゃ心細いから、僕も連れていって』と言うんですか? イヤですよそんなの。情けない男だと思われるじゃないですか」
「…………そっか」
妙に長い間を空けてから、クリスティーナさんは『そっか』と一言だけ言葉を返した。
なんだろう。何やら含みを感じる。そんな間だった。
まぁよくよく考えてみると、僕が付いていかなかったことで、こうしてクリスティーナさんと出会えたわけで、だとするとこれで正解だったな。
結果的には良かった。とても良い方向に転がった。
「んで、アレクは同行者が戻ってくるまで、ここでじっと待ってんのか?」
「そうですねぇ。僕も気になることはたくさんあるんですよ。とりあえずギルドカードとか気になりますよね」
すぐに作れるらしいし、待っている間に作ったらどうかとジスレアさんにも勧められた。
気になるねぇ。やっぱり一番気になるのはギルドカード。
「まだ持ってねぇのか?」
「まだなんですよ」
「じゃあ作ってきたらどうだ? あそこの受付でやってるぞ?」
「ふむ……」
クリスティーナさんが指差した先の受付カウンター。そこには男性のギルド職員がいた。
男性の受付員。……男性である。男性かぁ。
男性はさておき、確かに作っておいてもいいかもね。
ジスレアさんとスカーレットさんが戻ってきたら、それまで僕が何をしていたか聞かれるかもしれない。
カードさえあれば、二人に胸を張って、『ギルドカードを作っていました!』と答えることができる。
カードがなければ、『怖くて動けませんでした。空気になって、ただただ時間が過ぎるのを待っていました』と答えることになる。それは、あまりにも情けない……。
「ふーむ……。ではそうしますか。作ってきますか」
「そっか」
「じゃあ行きましょうか」
「あん? ……え、アタシも行くのか?」
「え?」
え、あ、違うの? 付いてきてくれないの?
そうなのか……。なんかこのまま付いてきてくれる流れかと思った……。
やっぱり一人で歩き回るのは不安なので、できたら一緒に来てほしいのだけど……。
「んー、まぁいいけどな。アタシは別に付いていっても――」
「そうですか、そういうことであるならば」
「あん?」
「わかりました。――お金を払います」
「なんでそうなんだよ……。というか、わかってねぇからな? アレクは毎回そう言ってっけど、さっきから何もわかってねぇからな?」
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