第388話 牧場エリア
「牧場エリアですか?」
「うん」
7-1エリアを、一体どんなエリアにするのか。
そんな議題のダンジョン会議中、僕がナナさんに提案した新たなプランは――牧場エリア。
先程までは、『次回まで引っ張る』『引っ張らせない』などキャッキャッしていた僕達だったが、ようやく発表に至った。
もしもこのやり取りを見ている人がいたら、きっとヤキモキしていたに違いない。結局、次回まで引っ張る形になってしまったのかな? だとしたら申し訳ない。
「牧場エリア……。マスターは『牧畜』スキルを破棄したのですよね?」
「まぁそうだね。再抽選でそっちは破棄したね」
チートルーレットレベル35の再抽選権で、最初に僕は『牧畜』スキルを手に入れた。
しかし悩んだ末にそちらは破棄し、再抽選権を行使。そしてその結果、僕はポケットティッシュを獲得した。
ポケットティッシュが当たった瞬間は、大失敗だったと落ち込んだりはしたものの――ポケットティッシュの全容が解明されるにつれ、やはりこの選択は間違いではなかったかなと、改めて思い直している僕だったりもする。
さておき、そんなこんなで『牧畜』スキルは破棄された。
『牧畜』スキルは僕にとって、すでに失われた可能性。もうなくなってしまった未来のひとつなのだ……。
「なのに牧場エリアなのですか?」
「確かに『牧畜』スキルは取らなかったけど――牧場があって家畜がいたら、それだけで牧畜はできるでしょ?」
天界でミコトさんと、そんな話をしていた記憶がある。
というか、それも僕が再抽選を選択した理由のひとつだ。
「とはいえ、正直僕なんてど素人だからね。そう上手くはいかないかもしれない」
「それはそうでしょうね」
「だからまぁ――誰かがやってくれないかなって」
「……誰かが? え、どういうことですか?」
「とりあえずダンジョンに牧場エリアを作ったら、誰かが牧畜を始めてくれないかなって」
「えぇ……?」
天界で『牧畜』スキルを取得しかけて、いろいろと牧畜のことを考えているうちに、僕もやってみたいと思うようになった。
だが結局『牧畜』スキルは破棄したわけで、僕には上手くできないかもしれない……。
――ならば、もう他の人に任せよう。誰かやってくれ。そして、僕に牧畜を学ばせてくれ。
「確かに牧場エリアを作るとしたら、それが現実的なプランなのかもしれませんが……。そうは言いましても、牧場エリアとは、いったいどうしたらいいのでしょう? 何から始めたらいいのでしょうか?」
「とりあえず……牧草地にでもしたらいいのかな?」
なにせ僕は素人。その辺もざっくりだ。
とりあえず草を生やして川でも流しておけば牧場になるんじゃないの? ダメなの? そんな簡単なことではない?
「草を生やしただけでは……また農場にされますよ?」
「ふむ……」
そういえば、3-1農場エリアも元々は草原エリアだったな。
それがいつの間にか開墾され、農地にされていた……。
「……草を強くしようか? いくら耕されても、すぐ草が再生するようにしてしまえばいい」
「そんな解決法ですか……? いえ、あるいは家畜からすると嬉しいことなのかもしれませんが……」
耕しても耕しても草が生えてくるのなら、さすがに農業エルフ達も諦めることだろう。そうしたら畜産業エルフの出番だ。
「ある意味、今の農場エリアが理想だよね。みんなが勝手に農業を始めてくれたように、誰かが勝手に牧畜を始めてくれたらありがたい」
「そう上手くいきますかね……」
どうだろうなぁ。もし誰も始めてくれなかったら……ユグドラシルさんを頼ろうかな。
『牧畜をしてほしいのじゃ』とでも看板を立てておけば、たぶんみんなも協力してくれるはず……。
「――あ、そういえば農場エリアで思い出したんだけど」
「はい? なんですか?」
「農場エリアで野菜とか果物を作っている人と、契約をしてきたんだ」
「契約ですか?」
「青果物を定額で譲ってもらえる契約」
この前、そんな契約を結んできた。
農場エリアに寄ったら、ある程度は好きな物を貰える契約。
「つまりは――サブスク」
「サブスク……?」
「青果物サブスク」
青果物サブスクリプション契約。
うん。なんか今どきのサービス形態っぽい雰囲気がある。
「えぇと、それはいいのですが……しかしマスターは、これから旅をしてくるのでは?」
「あ、うん。これは僕じゃなくてミコトさんだね。ミコトさんに青果物を渡してもらうようお願いしてきたんだ」
「……その料金を、マスターが払ってきたということですか?」
「そうね」
ミコトさんは生活中、『ダンジョンで魔物を狩って、そのお肉を食べて生きる』なんてことを言っていた。
しかしその生活は、明らかに野菜が足りていない。ビタミンが足りていない。食生活がとても心配。
そんなわけで僕は、旅行出発前に青果物サブスク契約を取り付けてきた。これでミコトさんはダンジョンにいながら、手軽にビタミンを摂取できるはずである。
まぁミコトさんは『召喚獣だし、最悪食べなくても平気』なんてことも言っていたわけで、そんな人のビタミン摂取量を気にする意味があるのかって話ではあるけどね。
「なんというか、ずいぶんと手厚いサポートですね……」
「そうかな? まぁ一応ミコトさんは召喚獣で、僕は召喚主って関係だからさ、これくらいはしておかないと」
僕にできる最大限のサポートをしていこうという心構えである。
できるだけのことはする。出せるだけの金は出すぞミコトさん。
「まぁ私も、ミコト様のことは気にかけておきましょう」
「あぁうん。よろしくねナナさん」
「お任せください。なにせミコト様は、常日頃からうっかり駄女神の雰囲気が濃厚に漂っていますからね。注意深く見守っておきます」
「…………」
コメントしづらい。
「それはさておき、牧場エリアのことですが」
「あ、ごめん。話がそれちゃった」
「いえ、いつものことです。それで、やはり問題は家畜かと考えます。育てる家畜をどうしますか?」
「いつものこと……? あ、えっと、家畜ね。うん、そこだよね。とりあえずそうだな――鶏でも貰ってこようか?」
メイユ村でも鶏を育てている人はいる。その人に頼んで譲ってもらおうか。
「なるほど……。しかしそれだとマスターは、『何やらいきなり鶏を譲ってもらい、ダンジョンへ放す人』になってしまいますが?」
「……まぁそうなるね」
「『突然何を始めようというんだこの子は……』などと思われてしまいそうです」
「うーん……。確かにそれはちょっと問題かも――」
「まぁいつものことなので、問題はないでしょうが」
「ヘイ」
何を言うのかナナさん。なんかその通りな気がしないでもないけれど、もうちょっと気を遣ってくれたまえナナさん。
「ふーむ。いっそのこと、最初はダンジョンポイントで鶏を買ってもいいかもね。買えるよね?」
「買えますね」
「うん。じゃあそうしようかな」
そうしたら『このエリアは牧場エリアなんだな』って、みんなに認知してもらえそうだし……いや、してもらえるか?
ダンジョン内に鶏が数羽いたところで、みんな謎でしかないような気もするけど、どうなんだろう……。
「うん? あれ? でもそうすると……」
「どうかしましたか?」
「そうなってくると、わざわざ牧畜なんかしないで、ダンジョンポイントで鶏をポップさせ続ければいいんじゃないかって、なんかそんな気が……」
「……いろいろと台無しなことを考えますねマスター」
「むぅ……」
つい考えてしまったんだ……。
ダンジョンポイントでポンポン出せるなら、果たしてダンジョンで牧畜をする意味があるのかって……。そんな疑問が、つい僕の中で生まれてしまい……。
「それは違います。違いますよマスター。なんでもかんでも金やダンジョンポイントで解決しようするのは、よくないことです」
「それはそうかもしれないけど……」
「例えるならそれは、豚や牛を育てている人に『スーパーで買えばよくない?』って聞くようなものですよ」
「そっか……」
…………。
……そうなの?
危うく納得しちゃいそうになったけど、そうなの? それはなんか微妙に違う話じゃない?
いや、でもあってんのかな……? なんだろう。よくわかんなくなってきた……。
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