第386話 仮面シリーズ2
いよいよ三日後。三日後に、僕は第五回世界旅行へと出発する。
今日はそのための準備として、黙々と荷造りを進めていた。
とりあえず必要そうな荷物を、手当たり次第にマジックバッグへ詰め込んでいく。
そんな作業中の僕の元へ――ナナさんがやってきた。
「それにしても……ずいぶんたくさん作りましたね」
「ん? んー。まぁそうねぇ」
ナナさんが言っているのは、テーブルに置かれた自作の仮面のことだ。
人界旅行中、僕は顔を隠さなければならないので、そのために作った仮面シリーズ。
第四回世界旅行が終わり、メイユ村へ戻ってきてから一年ほどが経過したが、その間ちょこちょこ地道に作り続けたことで、今ではテーブルに収まり切らないほどの量がある。
「全て持っていくのですか?」
「そのつもり。実際に使ってみないと、どれが有効かわかんないし」
やはり僕が人界を旅する上で関門となるのが――門番のケイトさんだろう。
そのケイトさんの守りを突破するには一体どの仮面が有効なのか、とりあえず全部持っていって試してみよう。
「それぞれ解説していただいてもよろしいですか? 興味深い仮面がいくつも――というか、謎の仮面がいくつもあります」
「ふむ……。まぁ僕も結構趣味に走っちゃった部分があるからねぇ」
深く考えず、なんとなくで作ってしまった仮面がいくつかある。
解説してほしいというのなら解説しよう。むしろ僕としても、解説を聞いてほしかったりする。
「そうだな、それじゃあいくつか手に取ってみてよ。どんどん解説していくから」
「ありがとうございます。では手始めに――こちら」
そう言ってナナさんが初めに手に取った仮面は――
「ドミノマスクだね」
「女王様マスクですか」
「ドミノマスクだと言うのに……。ドミノマスクの黒バージョンだね」
なんとなく仮面の中では基本というかベーシックというか、そんなイメージがある仮面だ。
確かこの仮面は、実際に装着して戦闘したこともあったっけかな?
「なるほど。――ではこちらは?」
「能面だね」
「こちらは?」
「般若面だね」
「レリーナ様ですか?」
「…………」
確かにレリーナちゃんにインスパイアされて作った仮面ではあるが……。
とはいえ、実際にレリーナちゃんを連想してしまうのは、本人も不本意だと思うよ? ……まぁ本人の実父も連想していたくらいだけど。
「続いて、こちらは?」
「セルジャン面だね」
「そんな名前なのですか……。いやしかし、恐ろしい物を作られましたね」
「これを付けて、お遊戯会で『森の勇者セルジャン物語』を演じようとしたのだけど、父から猛烈な反対に遭ったよ」
「そりゃあそうでしょう……」
ちなみに同系統の仮面としてユグドラシル面も作ろうとしたのが、本人に話したところ、作成すら禁じられてしまった。
「ではこちら。これはまた、ずいぶんと手間がかかっていそうですが……」
「フルフェイスヘルメットだね」
「えっと、バイクとかの?」
「そうね。すっぽりかぶる感じで」
試しに作ってみた。……まぁ試しに作るにしては、あまりにも手間が掛かる代物だったが。
しかし実際にかぶってみたところ、重いし暑いし邪魔だし……それでいて本当に頭部を衝撃から守れるかも不明だというのだから、一体なんでこんな物を僕は作ってしまったのか。
「ではこれは……これはなんですか?」
「メガネだね」
「まぁメガネなんでしょうけど……」
「レンズが入っていないから伊達メガネかな。……あ、試しにちょっと曲げてみて?」
「え、こうですか……? おぉ、曲げても戻る……」
「形状記憶メガネなんだ」
「はぁ……」
軽くて柔らかい形状記憶伊達メガネ。『ニス塗布』で作ってみた。
「メットにメガネと、仮面からはだいぶ離れてしまいましたね……。えぇと、ではこちらは?」
「ドミノマスク(白)だね」
「色違いですか?」
「やっぱり黒色だと、ちょっぴり女王様感が出てしまうから……。それで白バージョンを作ってみたんだ。色なんて『ニス塗布』でどうにでもなるしさ」
「なるほど、白いドミノマスクですか。なんとなくですが、タキシードが似合いそうな予感がしますね」
「タキシード? ……あぁ、タキシードね。でもそれは似合うっていうか、ただのコスプレになっちゃうんじゃない?」
というか、その人が着てるの実際には燕尾服だけどな。
「では、次にこちらですが」
「狐面だね」
「ほうほう。他の動物はないのですか?」
「他の?」
「イノシシとかどうでしょう? イノシシの被り物をして、上半身裸の二刀流なんてどうでしょう?」
「それもまたコスプレじゃないか……」
まぁその人も、素顔はイケメンだっていう話だけど……。
「しかしマスター、そうは言いますが、コスプレグッズにしか見えない仮面も数多くありますよ?」
「む……」
「これとかこれとかこれとかそれとか、もうただのコスプレで、ただのパクリではないですか?」
「いや、その、ちょっと趣味に走りすぎて……」
確かにそう言われても仕方ない仮面が、テーブルにはまだまだたくさんある……。
バッタをモチーフにした仮面、宇宙警備隊っぽい仮面、宇宙刑事っぽい仮面。
コウモリをモチーフにした仮面、クモっぽい仮面、アメリカっぽい仮面。
虎っぽい仮面、獣の神っぽい仮面、赤色の処刑マシーンっぽい仮面。
三倍速くなりそうな仮面、石の仮面、黒い契約者っぽい仮面。
鉤爪を付けたスペイン人っぽい仮面、ズェアって言いそうな白い仮面、パプアニューギニアのシャーマンっぽい仮面。
いろいろと問題がありそうな仮面シリーズが、テーブルにはずらりと並んでいる。
ちなみにパプアニューギニアのワールドなヒーローっぽい仮面は、大きいので壁にかけられている。
なんだろうね……。ちょっと楽しくなってしまい、ダメな方向に進んでしまった感は否めない……。
「ま、まぁそれらはあくまで趣味で作った感じだから……」
「ですが、旅には持っていくのですよね?」
「それは……ケイトさんがどんな判断を下すかわからないし……」
これだけ種類があって、これだけバラエティに富んだ仮面群なら、たぶんどれかで通してもらえるんじゃないかなって……。
「とりあえず僕的に、実際に使うとしたら――これか、これかな」
そう言って僕が手に取った仮面は――
「黒いドミノマスクと、メガネですか」
「うん。特にメガネだよね。メガネでいけたら嬉しい」
これなら付けていても楽だ。窮屈さや不便さも感じないし、長時間の着用も問題ないだろう。
「……どうなんでしょう。それでいけますか?」
「うん?」
「仮面は、マスターのイケメンを隠すためですよね?」
「えぇと、まぁ」
「メガネでは、イケメンを隠すことができないと思うのですが?」
そんなにイケメンイケメン言われちゃうと、少し照れるのだけど。
「イケメンなんて、メガネがあってもイケメンですよ」
「んー、やっぱり厳しいかな。隠せないかな」
「メガネをかけていようがイケメンはイケメンですし、美少女は美少女です。――メガネを外すと美少女なんて存在は、実際には存在しないのですよ」
「…………」
それは、なんだか夢がない話だなぁ……。
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