第383話 とても感動的な再会
明日から、ミコトさんはアレクルームに泊まることが決まった。
そのために今日僕はアレクルームの清掃、ミコトさんは村で生活物資の調達、そんな予定も決まった。
だがしかし、実際に行動に移る前に、僕の方からミコトさんに確認しておきたいことがある――
「地球は大丈夫ですか?」
「ふむ」
これからしばらくミコトさんは地球の管理ができなくなる。
前にも聞いたことだけど、本当に地球は大丈夫なのだろうか? その辺りの準備はしっかり終わっているのだろうか?
「うん。地球もリエトゥムナも他の世界も大丈夫だとは思うけど――一応今日天界へ戻ってから、最終確認をしておくよ」
「ほうほう。では、よろしくお願いします」
これで地球や他の世界が崩壊なんてことになったら、さすがに寝覚めが悪い。悪すぎる。そこはしっかり天界でのチェックをお願いしたい。
「天界……。天界といえば――」
「はい?」
「大ネズミのトラウィスティアも、そろそろ戻したらどうだろう」
「あぁ、トラウィスティアさんですか……」
うっかり天界へ置き去りにしてしまったトラウィスティアさん。
なんやかんやあって、そのまま一週間ほど天界に滞在してもらっていたのだけど……。
「ディースさんの方は、もう大丈夫なんですか?」
「うん、もう大丈夫。……というか、いつものことではあるんだ。アレク君が下界に戻った後はいつもそんな感じになって、数日もすればだいぶ落ち着く」
「なるほど……」
トラウィスティアさんの置き去りに気付いた僕が、ひとまずミコトさんに状況を確認したところ、トラウィスティアさんは一瞬慌てたものの、改めて召喚してもらえばいいだけだと思い直したのか、すぐに落ち着きを取り戻したとのことだ。
まぁ置いていかれたことに少しだけしょんぼりした様子を見せたトラウィスティアさんだったが――それ以上にディースさんがしょんぼりしていたらしい。
僕が下界へ帰ってしまったことで寂しさを覚えたディースさんは、代わりというわけでもないのだろうけど、おもむろにトラウィスティアさんを抱っこして、そのまましょんぼりし始めたのだそうだ。
そんなディースさんを不憫に思ったのか、トラウィスティアさんはディースさんの寂しさを紛らわすため、しばしの間、天界に滞在することが決まったのであった。
「実際トラウィスティアさんは、天界でどんな感じだったんでしょう? 元気にしていましたか? ……借りてきた猫みたいになっていませんでしたか?」
「うん? まぁ基本的にはのんびりリラックスしていたと思うよ? よくディースと一緒に『アレクちゃん視聴室』からアレク君を見ていたりしたな」
「はぁ、そうなんですね」
アレクちゃん視聴室……?
「というか、やっぱりトラウィスティアさんも見ていたんですね……。そんなこともあるかと思って、僕の方からメッセージを送ったりはしていましたけど」
「あぁ、あれはトラウィスティアも喜んでいたな」
天界で頑張っているらしいトラウィスティアさんに向けて、僕も下界からメッセージを送っていた。
毎日就寝前にトラウィスティアさんに軽く語りかけ、おやすみの挨拶をしてから寝るようにしていたのだ。
傍から見ると怪しい独り言でしかなかったが、一応はしっかり見てくれて、しかも喜んでくれていたらしい。であれば、おそらくやってよかったのだろう。
「いつもディースが一緒で、他の女神達からも可愛がられていたようだったけど――やっぱりトラウィスティアはアレク君に会いたいようでね。そろそろ戻してやったらどうだろうか」
「……ほう」
僕に会いたがっているトラウィスティアさん。その気持ちは嬉しいし、とても愛らしい。
……だがしかし、僕的に『他の女神達からも可愛がられていた』というミコトさんの言葉の方に、若干ではあるが気を取られてしまった。
他の女神様達か……。ちょっと羨ましいな。それは羨ましい。僕も会ってみたい。次回のルーレット辺りで、ひょっこり現れてくれないだろうか……。
「アレク君?」
「あ、いえ、なんでもないです。えぇと、そういうことでしたら、さっそくトラウィスティアさんを再召喚しましょう」
「うん。それがいい」
「ではですね……いったんミコトさんを送還しますので、天界の様子を確認してきてもらえますか?」
「ん? そうか、じゃあそうしようか」
トラウィスティアさんが今も僕達を見ているかわからないし、何も知らない状態でいきなり天界から召喚されたら、トラウィスティアさんもびっくりしてしまうだろう。
天界の人達と別れの挨拶なんてものもあるかもしれないし、そこはちょっとミコトさんに確認してきてもらおう。
「では、『送還:ミコト』――――『召喚:ミコト』」
「――我が名はミコト。契約により現界した」
天界での時間なんて、なんの意味も成さないと理解している僕は、ミコトさんをサッと送還して、サッと召喚し直した。
そうしてミコトさんはいつもの登場セリフを消化しつつ、下からにゅっと生えてきた。
「どうでした?」
「うん。もう大丈夫だ。召喚してやってくれ」
「わかりました。では――『送還:大ネズミ』」
ひとまず送還の呪文を唱え、天界にいるであろうトラウィスティアさんを送還する。未だにどこへ送還されたのかは謎だが、とりあえずどっかに送還する。
そして、今度は召喚の呪文だ。
「ではでは――『召喚:大ネズミ』」
「キー」
僕が呪文を唱えると、トラウィスティアさんが下からにゅっと現れた。
……おや? トラウィスティアさんの服装が変わっている。
大きな布を体に巻き付けた感じの、ひらひらした服――キトンだ。普段ディースさんが着ているようなキトンを、トラウィスティアさんも着用している。
今までの天界生活が垣間見える格好で、なんかちょっと面白い。
それはともかくトラウィスティアさんだ。久々の生トラウィスティアさん。
久しぶりの再会で、何やら感動する。結構な感動を覚えている。
「キー!」
「トラウィスティアさん!」
トラウィスティアさんがテテテと走ってきて、僕に抱きついてきた。
やはり寂しかったのだろうか。僕もトラウィスティアさんをギュッと抱きしめ、再会を喜び合う。
「キー! キー!」
「トラウィスティアさーん!」
「キーー!」
良いシーンだな……。なんか前世で見た『数年前に別れた動物と再会したら、まだ自分のことを覚えていて甘えてくるシーン』っぽい雰囲気がある。
今の僕達は、それくらい感動的な再会を演出できたという自負がある。
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