第364話 地球は大丈夫なんですか?
世界旅行中、自分をずっと召喚しておいてほしい。――それが、ミコトさんのお願いなのだそうだ。
「どうかしたのかアレク君。なんだか真っ赤な顔で、死んだ目をしているけど」
「…………」
……現在僕は、ずいぶんと不思議な顔をしているようだ。
恥ずかしい。とても恥ずかしい勘違いをしてしまった。
……まぁ最初からそんなお願いではないだろうと予測していたので、正確には『勘違い』ってわけでもないんだけどさ、それにしたって恥ずかしい。
「えぇと、なんでもありません」
「なんでもないって顔ではないのだけど……。なんだろう。私には言えないことかな?」
「いえ、別に」
言えるわけがない。
「ふむ。たぶんアレク君のことだから、少し変わった勘違いや思い違いをしていたのだろうけど、私には想像が付かないな。――ディースならわかるかな?」
「…………」
「今も天界から見ているだろうし、後で推察を聞いて――」
「やめてください。絶対にやめてください。絶対に」
「あ、ああ。うん、すまない。そこまで嫌がるなら、聞いたりはしないけど……」
何気に僕のことを深く理解しているディースさんなら、本当にわかってしまいそうだ。怖すぎる。
「それよりもミコトさん、お願いのことです。ずっと召喚しておいてほしいという話ですが」
「え? あぁ、そうだな。そのことだ」
というわけで、ちょっと強引に話の流れを変えた。
召喚についての話をしよう。僕の勘違いについては、もうあんまり話したくない。
「それでアレク君、お願いできないだろうか?」
「ええはい、それは全然構わないんですけど……いくつか質問してもいいですか?」
「なんだろう?」
「えぇとですね……」
ふむ。何から聞けばいいのかな。
いろいろと気になる点はあるのだけど、やっぱり一番は――
「地球は大丈夫なんですか?」
「うん。やっぱりそこだよね」
「はい。地球は……」
……うん。尋ねた後で思ったけど、なんともスケールの大きい質問だな。
『地球は大丈夫なんですか?』とか、質問として壮大すぎる。自分の台詞ながら、もはやちょっと面白い。
さておき、やっぱりそこが一番気にかかる。
確かミコトさんは、地球を含めていくつかの世界を管理しているという話だった。
名前はなんだったかな? 転生前に候補として勧められた世界で、リエ……リエトゥ……?
うん。もう忘れちゃったけど、リエなんとかという世界も管理していたはずだ。そういった世界の管理は大丈夫なのだろうか。
「第一回世界旅行前の話でも、そこが問題になりましたよね」
「そうだね。召喚されている間、私の存在はただの召喚獣になってしまうから」
……今さらながら、それもだいぶ問題だよね。
一時とはいえ、神様が神様の力を失っちゃうって、相当な緊急事態だと思うんだけど……。
「それはまずいってことで、召喚しっぱなし案は却下されたと思うのですが」
「うん。ただまぁ、いろいろ考えてみると……結構大丈夫かなって」
「そうなんですかね……」
なんだか、だいぶ大雑把で漠然とした予想っぽく聞こえるが……。
「そもそもの話として、私が普段やっていることは、そこまで多くないんだ」
「そうなんですか?」
「神として世界に干渉することは、ほぼないから」
「ほう?」
あ、でもそんなことも言っていたっけ? 下界の細々とした問題に手は出さないって、聞いた気がする。
「例えば……前世でアレク君は地球の日本に住んでいたけれど、日本にも問題や課題はあっただろう?」
「まぁ、そうですかね」
「少子高齢化とか、人口減少による人手不足とか、長時間労働とか、東京一極集中とか、超えられないベスト8への壁とか」
……最後はなんの話だ?
「なかなかに解決が難しい問題も多くあるけど、そういった問題に私は手が出せない。日本の円安をどうにかすることも、私にはできない」
「……日本って、今円安なんですか?」
「……まぁ、例えばの話だよ」
「そうですか……」
なんかリアルな話っぽく聞こえたけど……。
どうなんだろう。円安なのかな。
といっても、それだけじゃ現在の日本経済がどういう状況なのかはわからない。悪い円安じゃないといいな……。
「じゃあ逆に、世界の管理ってのはどんなことをしているんでしょう?」
「ん? そうだな、例えば……人類の滅亡を回避するとか」
「人類の滅亡……?」
なんだか急に怖いことを言いだしたなミコトさん。
怖いというか、胡散臭いというか……。まぁ地球の神様が言っていることなのだから、紛れもなく真実なのだろうけど……。
「えっと、それは具体的にどういう?」
「地球に巨大隕石とかがぶつかりそうなときとか、どうにかする」
「巨大隕石をどうにか……?」
え、じゃあミコトさんがどうにかしないと、地球に巨大隕石がぶつかっていたの?
というか、どうにかって……?
「地球の上空何万キロメートルを隕石が通過――なんてニュースを見たことはなかったかな?」
「あ、はい。たまにN◯SAとかが言っていましたね」
「あれとか、私がズラしていた」
「はぁ……」
そうなのか……。
なんだろう。なんとも言えない。お話がファンタジーすぎて、よくわからない。
「えぇと、ありがとうございました」
「うん」
とりあえずお礼を伝えておいた。
元地球人として、地球を代表して感謝を伝えておいた。
「ひとまず今後二年ほどはそういった危機もなさそうだし、大丈夫かなって」
「はー、そういうのもわかるものなんですね」
「うん。たぶん大丈夫」
たぶんて。
「一応ディースや知り合いの女神にも見ててもらうようにお願いしたから、問題ないと思う」
「はぁ……」
なんか料理中に、『ちょっと鍋見てて』ってお願いしているような雰囲気だな……。
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