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チートルーレット!~転生時に貰ったチートがとても酷いものだったので、田舎でのんびりスローライフを送ります~  作者: 宮本XP


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第354話 アレクはせっかち


 森を進み、僕とジェレッド君は『世界樹様の迷宮』に到着した。


「到着ー」


「到着だな」


「あ、ちょっと待っていてジェレッド君」


「うん?」


 ダンジョンへ入るのを少し待ってもらい、僕はダンジョン入口の『二代目等身大リアルユグドラシル神像』の前に置かれたお賽銭箱(さいせんばこ)へ、硬貨を投入していく。


「あぁ、じゃあ俺も入れていくか」


 僕の様子を見ていたジェレッド君も、お賽銭箱に硬貨を数枚投入した。


「まぁ世界樹様からすると、そんなには入れないでほしいってことらしいんだけどねー」


「じゃあアレクも、もうやめろよ……」


「まぁまぁ」


 これでもかってくらいお賽銭箱に硬貨をねじ込んでいた僕に対し、ジェレッド君からの鋭いツッコミ。仕方ないので投入作業もそこそこで終了し、僕達はダンジョンへの階段を降りていく。


「とりあえず1-4まで移動か」


「そうだねぇ」


 1-4エリアのワープ装置から、お目当てのエリアまで飛んでいこう。

 そのために、1-1から1-3までのエリアを順番に攻略していくわけだが――


「……最近思うんだけどさ」


「ん?」


「この移動、面倒くさくない?」


 ダンジョン到着後、何はなくとも3エリアを攻略しなければいけないのって、少し面倒じゃない? そんなことを最近よく思う。


「面倒? 面倒に感じるのは、それはアレクが――」


「うん?」


「あー……アレクが、せっかちなだけじゃないか?」


「ふむ」


 なんでかな。ジェレッド君は特に変わったことを言ったわけでもないのに、なんでか微妙に気を遣われた気分になった。


「少なくとも、俺はあんまり気にならないかな」


「そう? ちょっとだけダルくない? 一番最初にワープ装置があった方が楽じゃない?」


「それは確かにそうかもしれないけど……でも世界樹様が作ったダンジョンなんだし、なんか意味があるんだろ」


「…………」


 ないんだ……。意味なんてないんだ……。

 このダンジョンは、世界樹様ではなく僕とナナさんが作ったダンジョンなんだ。僕達が後先考えず適当に作った結果、こういう構造になっただけで、深慮(しんりょ)熟慮(じゅくりょ)もないんだよジェレッド君……。


「それに、そこまで大変でもないだろ? 今移動している1-1だって、戦闘なしでそのまま通り抜けられるし」


「まぁそれはねぇ」


 1-1エリアは劇場エリアと大ネズミエリアに分かれているので、劇場エリアの方を通ればそのまま素通りできる。

 というわけで今回も、劇場ルートで進んでいく。今更大ネズミと戦うこともないしね。


 そうして戦闘なしでダンジョンを進み、僕達は1-2エリアへ。


「このエリアだって戦闘なしだぜ?」


「ふむ」


 1-2エリアは、小銭スライムと宝箱のエリア。

 倒すと小銭を落とす小銭スライムだが、相手は逃げるだけで、こちらへは向かってこない。なので、やはりここでも戦闘する必要はない。


 ――まぁ、僕は戦う気満々だが。


「……なんで剣出してんだ?」


「ちょっと戦うから、ジェレッド君は荷物を持っていてくれるかな?」


 マジックバッグから世界樹の剣を取り出した僕は、バッグの方だけをジェレッド君に預けた。


「いや、だからなんで……。というか、戦うなら弓使えよ……」


「それじゃあ意味がないから」


「意味って……」


「今日こそは――追いつける気がするんだ」


 結構なスピードで逃げ回る小銭スライムに、僕は追いつけたためしがない。


 いつの日か、あのスライムを剣で倒すのだと意気込んでいる僕だが――今日こそが、その日な気がする! なんとなく!


「じゃあ行ってくるね!」


「そんなことを毎回しているから、最初の移動が大変なんだよ……」


 大丈夫大丈夫。すぐに終わるさ。

 今日こそササッと追いついて、サクッと倒してやるんだ!



 ◇



 結局追いつけず、僕は小銭スライムを弓で倒した。


「ごめんねジェレッド君。結構時間かかっちゃった……」


「別にいいけどよ」


 こんなダメな僕のことも笑って許してくれる。さすがは親友のジェレッド君だ。


「それよりアレク、もう宝箱開けちまったけど」


「あ、うん。全然いいよ」


 僕が小銭スライムを追いかけ回している間に、ジェレッド君は宝箱の回収作業に回っていたらしい。


「アレクもいるか?」


「ん、何かいい物が出たのかな?」


「矢が十本出た」


「ほうほう」


 まぁ当たりの部類だろう。十本ということで数は若干少なく感じるが、宝箱産の矢はなかなかに品質が良い。エルフからしてもそこそこ良い矢で、実用に耐えうる物だ。


「半分アレクにやるよ」


「いいの? でも、結構待たせちゃったから――」


「いいよいいよ」


「ありがとうジェレッド君」


 さすがは親友のジェレッド君だ。快く矢をわけてくれた。

 もちろん僕も、小銭スライムを倒して得た小銭をはんぶんこにしたが、なんだかそれだけじゃあ釣り合いが取れていない気がする。


 ――優しき親友の心遣いに、僕ももっと応えねば!


「じゃあ、次のエリアは任せて!」


「え?」


「ジェレッド君のために、良い物を取ってくるから!」


「えぇ……?」


 次はエリアは、1-3エリア。

 ――カラートードが出現するエリアだ。


 ジェレッド君のために、格好良い(がら)のトード皮をゲットしてこよう!



 ◇



 ろくな柄が出なかった。


 虎の顔が大きくプリントされた柄とか、ナナさんはいったい何を考えているのか。

 ……あ、でも僕からしたらどこぞの地方のおばちゃんスタイルだけど、この世界では案外格好良い物だったりするのかな?


「ジェレッド君、いる?」


「いらないなぁ……」


「そうかぁ」


 やはりいらんか……。別にジェレッド君はおばちゃんを連想したわけでもないだろうが、やっぱりいらんらしい。


「それじゃあとりあえず、ジェレッドパパさんに預けてこようか」


「……またうちに、わけのわからないトードの皮が増えるのか」


 そこは申し訳ない……。重ね重ね申し訳ない……。

 だけどジェレパパのホムセンは、もうすっかりトレーディングトード皮ショップとしての仕組みが出来上がってしまっているので……。


「でもまぁ、世界樹様が俺達を楽しませようと、せっかく用意してくれたトードの皮だしな……」


「…………」


 ……申し訳ない、それも僕達だ。深慮も熟慮もない僕達だ。

 そりゃあ僕達も、みんなに楽しんでもらいたいって気持ちで始めたことに違いはないけれど……基本的には、面白がって作っただけだったりもする。いやはや、誠に申し訳ない。





 next chapter:パリエアコン

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