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チートルーレット!~転生時に貰ったチートがとても酷いものだったので、田舎でのんびりスローライフを送ります~  作者: 宮本XP


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第345話 木工シリーズ第七十四弾『仮面』


「うーん。出来はいいんだけど……。でも、やっぱりなぁ。これはなぁ……」


 というわけで、僕が部屋で一人悩んでいると――


「アレクシスさん、よろしいですか?」


「ん? はーい」


 部屋の外から、ノックとともに僕を呼ぶ男性の声が聞こえた。

 ……誰だっけ? なんとなく聞いたことがあるような声だけど、誰だったかな。


 そんなことを思いながら、僕が扉を開けると――


「あ、レリーナパパさん」


「お久しぶりですアレクシスさん」


 レリーナパパだった。敏腕商人のレリーナパパだ。

 レリーナパパが僕の部屋に来るのは、そこそこ珍しい。


「あれ? というか本当にお久しぶりですね」


「ええはい。実は今まで村を離れていまして――」


「あ、よかったら中へどうぞ」


「そうですか?」


「どうぞどうぞ」


「では、お言葉に甘えて」


 扉の前で立ち話もなんなので、レリーナパパを部屋に招き、椅子に(うなが)す。


「そちらへどうぞ」


「ありがとうございます。失礼しま――――ヒッ」


「おや?」


 椅子に座ろうとしたレリーナパパが、突然悲鳴を上げてテーブルから遠ざかった。


「どうかしましたか?」


「そ、それ、それはいったい……?」


「あぁ、これですか……」


 レリーナパパが驚いて飛び退いたのは、テーブルの上に置かれていた『ある物』が原因だったようだ。

 先ほどまで僕が眺めていて、うんうん唸っていた『ある物』。レリーナパパが恐怖におののき、距離を取った『ある物』。


 その『ある物』とは――


「お面です」


「お面……?」


「父の顔をかたどったお面。――セルジャン面です」


 セルジャン面。そんなお面を作ってみた。リアル系『ニス塗布』を使って作製した、とてもリアルな父のお面だ。

 ……正直レリーナパパが恐怖を覚えるのも仕方がない作品である。


「セルジャン面……。あぁ、確かにセルジャンさんのお顔ですね……」


「作り自体は、かなり精巧に再現できたと自負します」


「そうですね……。そうであるがゆえに、まるでセルジャンさんのお顔をそのまま剥いだかのような代物に……」


「…………」


 さすがにその表現はどうなのか。あまりにも怖すぎる説明だ。


「とりあえず付けるとこんな感じです」


「おぉ……。むしろ付けていた方が怖くなくなるとは……」


 すっごく怖いお面なのに、付けると怖くなくなる。そんな不思議なお面。

 ……まぁ顔だけがテーブルに転がっているって状態が、あまりにも怖すぎるから。


「なんとも凄まじい物を作られましたね……。販売しますか?」


「しませんよ……」


 相変わらずレリーナパパは、商売に対して貪欲すぎる。

 とりあえずこのお面は、いろんな意味で売れるような代物じゃないと思う。


「一応旅のために作った物なんですよ」


「旅ですか? あぁ、そういえばアレクシスさんは、お顔が原因で町に入れなかったと伺いましたが」


「そうなんですよ。そんなわけで、ちょっと仮面を作ってみました」


 顔を隠すにはどうしたらいいかを考えていて、悩んだ結果、とりあえず試しに作ってみたのがセルジャン面だ。

 ちなみに型番としては、木工シリーズ第七十四弾『仮面』となっている。


「……その仮面で、人界を旅するおつもりですか?」


「なんかまずいですかね?」


「まずいといいますか……。いえ、どうなのでしょう。遠目に見たら違和感もなさそうですし、案外問題ないのでしょうか……?」


「ふむ……」


 たぶん覆面よりはマシだと思うんだよね。あれはもう遠目に見ても怪しい人だったから。

 あの状態よりかは怪しさも軽減されたはずで、ケイトさんもうっかり町に入れてくれたりしないかなって期待しているんだけど……。


「とはいえ、父のことを思うとあんまり使えない仮面ですよね」


「確かにセルジャンさんも、自分の顔を模した仮面をかぶられるというのは少し戸惑うでしょうか」


「あー、戸惑うくらいならいいんですけどね……」


 まぁ普段から僕は父を戸惑わせることも多いから……。だからまぁ、戸惑うくらいならいいんだ。そのくらいなら……。


「何か問題が?」


「僕が顔を隠したいのは……その、人族を驚かせないためなんですよ」


「そうですね。アレクシスさんのお顔は大変整っていらっしゃるので」


「えぇと、それはその、えぇまぁ……」


 毎度のことながら人に話すには少し躊躇(ためら)われる事情だが、とりあえず僕はイケメンすぎるので顔を隠さなければいけない。そんな事情があるわけだ。


「ですが、そんな理由で作った仮面が父の顔ってのは、どうなんでしょう?」


「と言いますと?」


「『格好良い顔を隠すために、父に変装する』ってのは、父からするとどうなのでしょう……?」


「あっ……」


 つまりは、『あんまり格好よくない人になるために、父の顔を借りる』ということだ。

 ……それを知ったら、父はどう思うだろうか。


 なんだかんだ父はイケメンだ。イケメン種族であるエルフ族の中でも屈指のイケメンだ。

 今までイケメンの名をほしいままにしてきたのだ。イケメンとしてのプライドもあるだろう。


 ……あるのかな? いや、それはちょっとわからないけど。

 あんまり自分の容姿を誇るようなこともしない父だし、プライド的なものがあるかはわからないけど、それでも今回のような仕打ちを受ければ、もしかしたらショックを受けてしまうかもしれない。


「そう考えると、少し悩んでしまって……」


「なるほど……。セルジャンさんの立場から考えますと、確かにあまり愉快な話ではないかもしれませんね……」


「ですよね……。僕としてはセルジャン面を作ったことで、むしろ父が喜んでくれると思っていたのですが」


「……喜びますか?」


「喜ぶでしょう?」


 イケメン対策って理由がなければ、たぶん喜んでくれたと思う。

 例えるなら、愛する我が子が自分の似顔絵を描いてくれたようなものだろう。それがいくぶんレベルアップしたバージョンだ。


「とにかくそんなわけでして、セルジャン面は旅には使わない予定です」


「そうですか。とても精巧に作られていて、少しもったいない気もいたしますが」


「そうですねぇ」


 このままお蔵入りってのも、確かに少しもったいない。

 出来自体はいいものなのだ。とてもリアルに作れた。とてもリアルな父の顔面なのだ。


「ふーむ。それなら――ダンジョンの劇で使いますかね」


「劇で?」


「このお面をかぶって父の物語とかを演じたら、楽しそうじゃないですか?」


 ダンジョンのお遊戯会で、セルジャン面をかぶって父の物語を上演するってのはどうだろう?

 なんか劇っていうよりも『セルジャンごっこ』って雰囲気になりそうな予感もするが、結構盛り上がる気がする。


「うん。なんか良さそうですね。それなら父も喜んでくれるのでは?」


「喜びますかね……?」


「喜ぶでしょう?」


 例えるなら、愛する我が子が学校の作文で『ぼくのお父さん』を発表するようなものだろう。それがいくぶんレベルアップしたバージョンだ。


 良い案な気がする。今度母とかレリーナママとかジスレアさんに、父の過去をいろいろ聞いてみようか。

 そして父の物語を――『森の勇者セルジャン物語』を、いつか開演しよう。みんなも喜んでくれるし、きっと父も喜んでくれるはずだ。





 next chapter:仮面シリーズ

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