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チートルーレット!~転生時に貰ったチートがとても酷いものだったので、田舎でのんびりスローライフを送ります~  作者: 宮本XP


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第343話 無限スキー板ニス地獄


「というわけで、ニスを塗っていました」


「そうか……」


「ここ一週間ほど、ずっとずっとニスを塗っていました」


「うむ……」


 二ヶ月ぶりに再会したユグドラシルさんと、僕は自室にて雑談を交わしていた。なにせ二ヶ月半ぶりだ。話題は尽きない。


 とりあえず最初は世界旅行中の思い出話を聞いてもらっていて……まぁ最終的に、旅とは関係ない愚痴のようなものを聞かせてしまっている現状があるけれど。


「一週間、ずっとスキー板にニスか」


「希望者が殺到しまして……」


 スキー板に滑るニスを塗ったことにより、母は圧倒的なスピードを手に入れた。

 それを見た他のスキーエルフ達も、僕のニスを求めて群がってきたのだ。


 まぁみんなの気持ちはわかる。誰だってスピードは欲しい。僕も欲しい。


「そんなわけで、ずっと雪エリアに常駐する日々です」


「お主が雪エリアに常駐なのか?」


「わざわざ僕の家に来てもらうのも大変でしょうし、それが一番手っ取り早いかなと。僕としても、そっちの方が楽そうですし」


 来客があって、応対して、ニスを塗って――それを繰り返すのは、大変だし面倒そうだと思ったのだ。


 それならばと、雪エリアに常駐だ。雪エリアのかまくらに居座って、スキー板を差し出されたらニス、差し出されたらニスを繰り返していた。

 魔力回復用の薬草をもしゃもしゃしながら、ずっと頑張っていた。


「今日も一日雪エリアで作業していたんですよ。もうしばらくは雪エリア通いが続く日々になりそうです」


「大変じゃのう……」


「『ニス塗布』自体はすぐ終わるのですが、いかんせん人が多くて……」


 捌いても捌いても人がやってくるのだ。

 そんな感じで、無限スキー板ニス地獄が開催中なのである。大変なのである。


「あ、ユグドラシルさんのスキー板も一応ニスを塗っておきました」


「ん、そうか。ありがとうアレク」


「いえいえ」


 僕が旅をしている間、ユグドラシルさんもスキーを楽しんでいたそうだ。


 娯楽を楽しんでいる姿を人に見せたがらないインドア派のユグドラシルさんではあるが、やはり雪エリアでのスキーには興味があったらしい。

 それに気付いたナナさんが、ユグドラシルさんを連れ出し、雪エリアでスキーに興じたとのことだ。良い判断だと思う。やるじゃないかナナさん。

 

 そして、我が家にユグドラシルさん用のスキー板が保管されていたので、それにもササッとニスを塗布しておいた。


「金の延べ棒やらニスやら、今日は貰ってばっかりじゃのう」


「いえいえ、そんなそんな……。まぁ、延べ棒はみんなのお供えなので、僕一人で恐縮するのもおかしな話ですが」


 あれは僕一人じゃないから。みんなの想いだから。


「――あ、そういえばもうひとつ、ユグドラシルさんにプレゼントがありました」


「む?」


「ちょっと待っていてください」


 そう伝えてから、僕は世界旅行で使っていたマジックバッグのもとへ移動し――パンを取り出した。


「どうぞ」


「うむ。……うん?」


「カークパンです」


「カークパン?」


 カークパン。いろんな人に配って回ったカークパンだが、このパン配りもユグドラシルさんで最後だ。

 なんだかんだでこれも結構大変だった。最後かと思うと、何やら妙に感慨深い。


「これはなんじゃ?」


「おや、まだ誰からも聞いていませんか?」


「ん?」


「いえ、なんでもありません。そちらカークパンといいまして、人界のカーク村で作られたパンです。日持ちする物を作ってもらったので、まだ普通に食べられます」


「普通に食べられる?」


「ええはい、普通に」


「普通に食べられるというか――普通のパンじゃろ、これ」


「…………」


 おぉう。ユグドラシルさんは、食べる前からこれが普通のパンだとわかってしまうタイプの人らしい。


 ……まぁ結局は普通のパンでしかないわけで、食べる前から普通のパンだとわかるか、食べた後で普通のパンだとわかるかの違いでしかないのだけど。


「なんといいますか……人界のお土産は何がいいか迷った結果、そのパンをたくさん買ってきたんですよね」


「何故普通のパンを……」


「たぶん話の種かなんかにはなったと思うんですよ……」


 たぶんそのくらいにはなったと思う。

 お土産とか、話の種になれたのなら十分だろう。十分役目を果たせたと言える。たぶんきっと。


「うーむ……。いや、うむ。せっかく買ってきてもらったわけじゃからな、感謝する。ありがとうアレク」


「いえ、そんな……」


 むしろそんなふうに丁寧にお礼を言われてしまうと、逆に申し訳ない。


「――でじゃ、アレク」


「はい?」


「今日はいろいろ貰ってしまったわけじゃが――わしからもアレクにプレゼントがある」


「プレゼントですか?」


「少し待っておれ」


 そう言うと、ユグドラシルさんはベッドの下に手を伸ばした。


 ……ベッドの下?

 あぁ、そこにプレゼントを隠していたのか。サプライズだ。ユグドラシルさんがサプライズを演出しようとしている。


 でもユグドラシルさん、ベッドの下を探るのは、あんまりよくないですよ……?

 まぁ僕はベッドの下に何も置いていないからいいのだけど、一般的には、あんまりよくないと思うのです。


「うむ。これじゃ」


「あっ……。あぁ、いえ、ありがとうございますユグドラシルさん」


「うむ」


「でも、いいんですか……?」


「……うむ」


 僕はユグドラシルさんから――世界樹の枝をいただいてしまった。


「えぇと、ありがたいです。僕としてはとてもありがたいのですが……たぶんこれって、世界旅行から帰ってきたお祝い的なやつですよね?」


「そうじゃな……」


「なんかもう、ちょろっと旅して、ちょろっと帰ってきただけで貰ってしまっているのですが……?」


「…………」


 いいのだろうか。ちょこちょこ村を出たり入ったりするだけで、それだけで世界樹の枝を貰ってしまっている。これでいいのだろうか……。


「……うむ。次からは、旅の日数を更新したら渡すことにしよう」


「更新?」


「前回が二ヶ月じゃったから、次は二ヶ月以上旅をしてきたら渡そうと思う」


「はぁ……」


 ユグドラシルさんもさすがに渡しすぎだと考えたのか、ちょっとだけ条件を付けてきた。

 ……まぁその条件も、わりかし緩めな感じがするけれど。


 旅の日数を更新したらか……。

 よくよく考えると、今までもそうだったな。


 世界旅行後にユグドラシルさんに枝を貰ったのは、第一回と第二回と第四回の後だった。

 そして――第一回が二日。第二回が一ヶ月。第三回が二日。第四回が二ヶ月の旅路であった。

 偶然にも、毎回更新したときに枝を貰っていたんだ。


「……そういえば、全部去年の出来事なんですよね」


「うん?」


「初めて世界旅行に旅立ったのも、去年なんですよ」


「ん? ああ、一回目も去年のことか?」


「そうですね」


「……それで、前回のは四回目か?」


「……そうですね」


 第一回が去年の春で、第四回が去年の冬だったかな……。


「一年で、ずいぶん往復したのう……」


「ええまぁ……」


 二年の予定だった世界旅行。その世界旅行が、去年一年で四回終わっているという矛盾。

 不思議だ。何故こんなことになったのだろう。とてもとても不思議……。





 next chapter:世界樹のギター

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