第336話 エルフの至宝2
「パンですか?」
「カークパンです」
「はぁ、カークパンですかー」
世界旅行から帰ってきた僕は、お土産のパンを村中にばら撒いていた。
その途中で教会にも来たのだが、当然ここでもパンをばら撒いていた。
そうして渡されたパンを手に、ローデットさんは少し不思議そうにしている。
「見た目は普通のパンですねー」
「そうですねぇ」
中身も普通のパンですから……。
というか、みんなに言われるなこれ。
初めて人界のパンを見た人からは『普通のパンに見える』と言われ、人界のパンを知っている人からは『普通のパンだよね?』と聞かれる。
――そして、結局は普通のパンなのだ。
「まぁ後で食べてみてください」
「ありがとうございますー」
そして『普通のパンですー』なんて感想を漏らしてくださいな。
「それにしても、今回の旅は長かったですねー」
「まぁ、そうですかね……」
二年の予定が二ヶ月で帰ってきたというのに、もはやそういう感想をもたれてしまうのか……。
「旅はどんな感じでしたかー?」
「んー。そうですね、結構楽しかったですかね」
うん。楽しかったと思う。
そりゃあ苦労もあったし、結果的には道半ばで帰ってきてしまったわけだが、旅自体は楽しかった。少なくとも、早く帰りたいと願いながら続けていた旅ではなかった。
「ジスレアさんがいてくれるので危険なんてありませんし、人族のみんなも優しかったです。そこまで多くの場所を回れたわけでもないですが、いろいろと興味深かったですね」
「なるほどー。いくつか村を回れたんですよね?」
「ええまぁ、四つほど。――あ、それで早速ですが、鑑定をお願いしてもいいですか?」
「いいですよー?」
「ありがとうございます。実は、旅の間に鑑定をしてこなかったんですよね」
「そうなんですか?」
「そうなんですよ」
などと話をしながら、サッとお金を取り出す僕と、サッと受け取るローデットさん。
この辺り、例え二ヶ月ぶりであろうと阿吽の呼吸である。
「人界では鑑定する場所がなかったんですか?」
「いえ、人界にも教会はあって、そこで鑑定できるらしいんですけど……なんだかタイミングを逃してしまって」
やっぱり僕のステータスって、ちょっと変だからね……。
称号欄も変わっているし、複合スキルアーツの光るシリーズも、変わっている度合いなら相当なもんだ。
そんなわけで、あんまり多くの場所で自分のステータスをポンポン開示したくなかった。
そうやって迷っているうちに、結局鑑定せずに帰ってきてしまったのだ。
――ちなみに、僕が回った四つの村の教会には、若い女性がいなかったりしたのだが、それは別に理由ではない。それでなんとなく鑑定する気にならなかったわけではない。
「んー、やっぱりこの教会が一番ってことですね?」
「え? あぁはい、そうですね」
なんかちょっといい笑顔で言われて、思わず同意してしまった。
まぁ慣れ親しんだ教会だし、なんだかんだでローデットさんとの付き合いも長い。僕的にこの教会が一番なのは間違いないだろう。
「ではでは、早速鑑定したいと思います」
「どうぞー」
「なんせ二ヶ月ぶりの鑑定ですから、ちょっとわくわくします」
「頑張ってくださいー」
「ありがとうございます」
さぁさぁ、二ヶ月の旅を終え、僕のステータスはいったいどのように変化したのか。
いざ、鑑定だ――
名前:アレクシス
種族:エルフ 年齢:16 性別:男
職業:木工師
レベル:27(↑1)
筋力値 19(↑1)
魔力値 15
生命力 10(↑1)
器用さ 35(↑1)
素早さ 6
スキル
剣Lv1 槌Lv1 弓Lv1 火魔法Lv1 木工Lv2 召喚Lv1 ダンジョンLv1
スキルアーツ
パリイ(剣Lv1) パワーアタック(槌Lv1) パラライズアロー(弓Lv1) ニス塗布(木工Lv1) レンタルスキル(召喚Lv1) ヒカリゴケ(ダンジョンLv1)
複合スキルアーツ
光るパリイ(剣) 光るパワーアタック(槌) 光るパラライズアロー(弓)
称号
剣聖と賢者の息子 ダンジョンマスター エルフの至宝(New)
「お、レベルが上がって――うん?」
「おや?」
とりあえずレベルが上がっていた。レベル27だ。『筋力値』『生命力』『器用さ』が上がっている。『素早さ』は上がらない。
うん。それはいい。それはいいんだけど……。
「エルフの至宝……?」
エルフの至宝……そういえば、確かジスレアさんもそんなことを言っていた。
ラフトの町の検問で、『アレクはエルフの至宝とまで呼ばれている』とかなんとか、門番のケイトさんに伝えていた。
まさか、あのときの話が広まって、僕にこんな称号が付いたのか?
いやでも、早くない? さすがに早すぎない? あれから一ヶ月しか経っていないというのに、もう称号?
「ローデットさん、これはいったい……」
「へー、エルフの至宝ですかー」
「あれ?」
なんだかローデットさんのリアクションが薄い。ここはもっと驚くところじゃないの?
何やら妙に納得している様子だけど……。
「ひょっとしたら付くかなーって思っていたんですけど、本当に付きましたねー」
「はい? 思っていた? え、思っていたとはどういうことですか?」
「アレクさんは、前からそう呼ばれていたじゃないですかー」
「……え?」
前から? 何それ、どういうこと……?
検問を突破するためにジスレアさんが作った大袈裟な二つ名かと思っていたんだけど……そういうわけじゃないの?
「えっと、僕はこの前初めてジスレアさんからそんな話を聞いたんですが……」
「あれ? そうなんですか? みんな呼んでますよー?」
みんな……?
「みんな僕のことを、陰でそんなふうに呼んでいるんですか……?」
「いえ、別にそんな陰口みたいな感じじゃなくて……それこそ称号みたいな感じで」
「称号……。知りませんでした。いつからですか?」
「え? えーと、いつからと聞かれても、ずっと前からですねー。アレクさんが二歳くらいの頃からですか?」
「二歳!?」
二歳の頃からだと……!?
知らんかった……。僕はそんな昔から、エルフの宝物扱いされていたのか……。
「まぁアレクさんに直接伝える言葉でもないですしねー。『メイユ村にはエルフの至宝と呼ばれる少年がいる』とか、そういう感じで広まっていったらしいですー」
「なんですかその噂話……」
なんかの都市伝説みたいだ……。
というか、誰か言ってくれたらよかったのに。『お前エルフの至宝だって噂されてるよ?』みたいな感じで、誰か教えてくれたらよかったのに……。
いや、別にそれを知っていたからどうだってわけでもないけどさ……。
「その噂を聞いて、他の村からアレクさんを見に来る人がいたり、メイユ村に移住してくる人がいたり――」
「え?」
「はい?」
「移住ですか……?」
「はい。アレクさんの成長を見守ろうと、移住してくる人達は結構いますよー?」
「えぇ……?」
それもまた知らなかった……。
僕の成長を見守るために、わざわざ他の村から移住した人がいるだなんて……。知らんうちに、見守られていたなんて……。
……でも、大丈夫かな。
僕の見てくれはともかく、内面だったり行動だったりは、かなり残念な子だった気がしないでもないのだけど、移住組のみなさんは見守っていて、がっかりしなかっただろうか……。
「確かにメイユ村の人口が増えているような気はしていたんですよね……。てっきり村の近くにダンジョンができたせいかと思っていたのですが」
「ダンジョンですかー。その可能性もあるかもしれませんけど、人口がどんどん増えていったのはもっと前からですねー。アレクさんが生まれてからですー」
「そうなんですか……」
「あ、よく考えたらダンジョンもアレクさんが作ったものですし、全部アレクさんのおかげですねー」
「あぁ、そういえば……」
そうか、全部僕か。知らん間に僕は、村おこしに一役も二役も買っていたのか……。
もういろいろと新事実が目白押しでパニックだが、とりあえず家に帰ったら、村長である父に褒めてもらおうかな……。
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