第325話 特別な感情を抱いているとかじゃないです
ディース教の教会を訪れ、教会のお爺さんと会話を交わしてから、僕達は教会を後にした。
「なかなか興味深かったです」
「ほー」
創造神ディースの逸話やら、教会の成り立ちなんかについて軽く聞かせてもらったのだけど、なかなかに興味深い内容だった。
今度ディースさん本人に、実際のところはどうなのか聞いてみても面白いかもしれない。
「エルフ界の教会とは、いろいろと違うところがあって面白かったです。なんだか似ているところも多かったですが」
「似ているところ?」
「鑑定とか通話の魔道具を置いてあるのは、エルフの教会も一緒でしたね」
やはり人界でも通話の魔道具は各教会に配備されており、人界の首都っぽいところに存在する総本山っぽい教会に繋がっているらしい。
そして、鑑定の魔道具も置いてあるそうだ。
普通に鑑定をお願いすることもできたのだけど……とりあえず今回はやめておいた。
やっぱり僕のステータスは、いろいろとおかしいからね……。
そのうち人界で鑑定することもあるだろうけど、場所とタイミングは考えた方がよさそうだ。
「俺としては、アレクの話が面白かったな。世界樹様ってのは、そんなに頻繁に現れるのか?」
「そうですね、結構いらしてくれます」
教会での会話中、エルフの神についての話にもなったのだ。そこで僕は、ユグドラシルさんのことも少し話した。
「二週間に一回くらいは来てくれます」
「……さすがに来すぎじゃないか?」
ユグドラシルさん、結構暇だから……。
二週間に一回も、それなりに自重した上でそのペースなんじゃないかってくらい暇な人だから……。
逆にディースさんは、ほぼ地上に姿を見せることがないらしい。
年がら年中僕を見ているという話だし、ディースさんも結構暇なんじゃないかと思うんだけどな……。
「それにしても、創造神様の神像がなかったのは少し残念でしたね」
「あー、神像か。なんだか気にしていたな」
人族の町にはディース神像があると本人から聞いたのだが、残念ながらこの教会にはなかった。
ちょっと見たかったんだけどねぇ。
「カークおじさんは見たことありますか?」
「ん? あぁ、あるぞ? なんというか……なかなかインパクトのある像だったな……」
「ほう……」
インパクトか……。インパクトとなると、それはやはり……胸だろう。
あれを忠実に再現しているとすれば、結構なインパクトだろうなぁ……。
「…………」
「……あ、えぇと、ジスレアさんは見たことありますか?」
「ある」
「そうですか」
「うん」
「そ、そうですか……」
ディース神像について、何やら反応を見せたジスレアさん。一応話を振ってみたのだけど、言葉少なめで、これまたなんともいえない反応だった。
なんだろう……。やはりエルフとして、何かしら思うところがあったのだろうか……。
「でだ、アレクは寄付をしていたみたいだが」
「あー。そうですね。一応は心ばかりのお布施を」
教会のお爺さんは、こんな覆面男にも丁寧に対応してくれた。いろいろ説明してくれて、質問にも優しく答えてくれた。
そのお礼として、帰り際にいくらか包んで渡したのだ。
「あの台詞はなんだったんだ……?」
「…………」
うん……。まぁ、なんかちょっと変なことを言っちゃったんだよね……。
教会でお話をしてお金を払う。――それ自体は、メイユ村でも毎回やっていた行為だ。
しかし、今回はちょっと意味合いが違う。今回は純粋にお布施しようと思っただけだ。そこに不純な動機はない。
あ、いや、『普段は不純なの?』と聞かれると、それもまた違うのだけど……。
とにかく、今回は真面目で純粋なお布施だった。
なので、教会のお爺さんにお金を渡しながら――
『このお金は、興味深いお話を聞かせてもらったお礼です。感謝の気持ちを込めて、教会と創造神様へ送らせていただきます。それだけです。それ以外の意味はないです。――別にお爺さんに対して、特別な感情を抱いているとかじゃないです』
――などと、宣ってしまった。
……なんだか、微妙にツンデレっぽい台詞な気もする。
ちなみにお爺さんは僕の台詞を聞き、困惑しながら『そりゃそうだろ』って顔をしていた。
「……できたらあのお爺さんに、後でフォローしておいてもらえますか?」
「フォロー?」
「えぇと、『初めて人族の教会に訪れて、勝手がわからず、おかしなことを言ってしまった』と伝えていただけると」
「なるほど……。ああわかった、大丈夫だ」
「あと、『僕はお爺さんに特別な感情を抱いているわけではない』と、改めて伝えてもらえると……」
「あんまり念を押すと逆に怪しく感じるから、それはやめておこうぜ……」
「むぅ……」
やっぱりちょっとツンデレっぽい感じになっちゃっていたのかな……。
◇
教会を後にした僕ら一行は、続いて材木屋さんに訪れた。
「言われるがままに連れてきたが、なんの用があるんだ?」
「はい? 普通に木を見たいだけですけど?」
「うん、それで木をどうするんだ? もしかして買って矢にするのか?」
「矢? ええまぁ、そういうこともあるかもですが……あ、そっか、そういうことですか」
そうかそうか。そういえばカークおじさんは知らないんだな。
僕のことを知らないんだ、この僕が――木工エルフだということを。
……なんかちょっと格好つけて言ってみたけど、『木工エルフ』というワードに、そこまで格好良さは感じないかもしれない。
とかなんとか考えているうちに――
「アレクは木工が得意」
「あ、そうなのか」
ジスレアさんが説明してくれた。
というか、この流れからすると――
「アレクは木で自分の母親の人形を、何十体も作り続けている」
「おぉ……」
予想通り、微妙な説明をしてくれた。
なんだか毎回だな。毎回ジスレアさんは、カークおじさんへの説明が微妙だ……。
それとも、僕が悪いのかな……。確かに言っていること自体は間違っていないわけで、実際に故郷で微妙なことばかりしていた僕の責任なのだろうか……。
「その……アレクはお母さん思いなんだな」
「はぁ……」
軽く引き気味なカークおじさんだが、それっぽいフォローをしてくれた。
まあ、それでいいや……。
「一応他にもいろいろ作っていますけどね、食器とか棚とか玩具とか……。そんなわけで、僕は木工エルフなんですよ」
「木工エルフ……?」
「木工エルフです。それで人界の木材が気になったんですよ」
「なるほど……」
このように、今回の材木屋さん訪問は、わりと真面目な理由だったりするのだ。
木工エルフ的に、真面目に視察しようと思ったのだ。
「それじゃあとりあえず、行くとするか」
「行きましょう」
――こうして僕ら三人は、カーク村の材木屋さんに突入した。
そこでもいろいろと話を聞き、それから木材を選び、お金を払って購入したわけだが……。
またしても僕は――
『このお金は、木材を購入させていただいた代金として支払うものです。それだけです。それ以外の意味はないです。――別におじさんに対して、特別な感情を抱いているとかじゃないです』
などと宣い、またしてもカークおじさんにフォローを頼むこととなった。
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