表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートルーレット!~転生時に貰ったチートがとても酷いものだったので、田舎でのんびりスローライフを送ります~  作者: 宮本XP


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

310/748

第307話 カーク村


 そわそわしたり、病気になったり、怪我をしたり、棒切れでしばかれたり、父に関して衝撃の事実を知ってしまったり……。


 いろいろと濃い二週間ではあったが、ようやく僕達は、最初の目的地であるカーク村にたどり着いた。


「おー、見えてきました。あれがカーク村ですか」


「うん。一日遅れちゃったけど」


「いえいえ、ほぼジスレアさんの読み通りですよ。さすがですね」


「ありがとう」


 出発から二週間でカーク村に到着するとジスレアさんは予想したが、実際には二週間と一日。


 確かに一日だけズレてしまったわけだが、ほぼ読み通りと言っていいだろう。

 ヘズラト君の動きを少し見ただけで、ここまで正確に予想できるのはすごい。


「いやー、それにしても緊張します。なにせエルフ族以外の人間と会うのは初めてですから」


 うまく異文化コミュニケーションをとれるか、少し心配。


「きっと大丈夫。カーク村の人達はみんな温厚」


「なるほどなるほど」


 温厚な人達なのか。そう聞くと、少し安心。


 うん、まぁたぶん大丈夫だろう。なんとなく、そんな気もする。

 僕も今世ではエルフ族だけど、前世では人族だったわけだし、おそらくは大丈夫だと――


 ……うん? あれ? いや、別に僕は元人族ってわけでもないのかな?

 てっきり人族は、いわゆる普通の人間っぽい感じだと勝手に想像していたけど……実際のところはわかんないよね。


 どうしよう。なんかすごいの来たら……。

 肌が緑色で、頭はスキンヘッドで、髪の毛がない代わりに頭から触覚とか生えていたら、どうしよう……。


「キー」


「ん?」


 ここへ来て余計な心配事が増えてしまい、僕が無駄に頭を悩ませていると、大ネズミのヘズラト君が話し掛けてきた。


「どうしたの?」


「キー」


「あっ……。いや、でも……」


「キー」


「そっか、それは確かにそうかもしれないね……」


 うーん……。とはいえ、それもなんかちょっとなぁ……。


「ジスレアさんはどう思いますか?」


「まず訳してくれると助かる」


「……あ、失礼しました。実はですね、『カーク村に向かう前に送還してほしい』と、ヘズラト君に言われまして」


「送還? ヘズラトを?」


「はい。召喚獣とはいえ、モンスターの自分が村に現れたら、村の人達を驚かせてしまうかもしれないと……」


「あー。そうか……」


 ヘズラト君の言うことはわかるんだけど、ここで帰しちゃうのもなんかね……。

 ヘズラト君も今まで頑張ってきたわけで――というか、僕を背に乗せてずっと運んでいたヘズラト君は、むしろ僕より頑張っていたんじゃないかな……。


 そんなヘズラト君が、ようやくたどり着いたカーク村に入れないのは可哀想だ。このイベントを体験できないのは、あまりにも不憫(ふびん)に思える。


「ヘズラト君は服も着ていますし、清潔感もあってモフモフしています。そこまで怖がられることもないと思うのですが……」


「うん。そもそも大ネズミを怖がる人なんて、あんまりいないだろうし」


「…………」


「…………」


 いや、その物言いは、なんかちょっと微妙だけれども……。

 ヘズラト君の方も、なんとも言えない表情をしている。


「だけど、子供とかは怖がるかもしれない」


「あー……」


 そっか。小さい子からしたら、やっぱり怖いか。

 んー。それは本意ではないな。それは子供も可哀想だし、ヘズラト君も可哀想だ。

 まぁ少し時間があれば、子供の方こそヘズラト君に懐きそうな気もするけどねぇ。


「とりあえずアレクは初めてカーク村に行くわけだし、最初はアレクだけの方がいいかもしれない」


「やっぱりそうですよね……。第一印象は大事です。いきなりモンスターを引き連れて村へ入るのは、常識がない人物だと思われてしまいます」


「うん。アレクの言う通りだと思う」


「あ、すみません。これはヘズラト君に言われたことです」


「そう……。ヘズラトは本当に賢いね……」


 賢くて、よく気が付く自慢の召喚獣だ。


「それじゃあ送還しようか、ごめんねヘズラト君」


「キー」


「ありがとう。タイミングを見計らって、また召喚するから」


「キー」


「じゃあ、『送還:大ネズミ』」


「キー……」


 僕はヘズラト君から降りて、軽く抱擁(ほうよう)を交わした後、ヘズラト君を送還した。


 よし。それじゃあ頑張ろう。ヘズラト君の気持ちを無駄にしないためにも、頑張って異文化交流を進めよう。


「ではジスレアさん、カーク村に向かいましょうか」


「うん。……うん?」


「どうかしましたか?」


「あれ」


「おや?」


 ジスレアさんが指差した先を見ると、僕達と同じように、カーク村へ向かう人影が見えた。


「やや。あれはもしや……カーク村の人ですかね?」


「たぶんそうだと思う」


 外へ出かけていて、村に戻ってきた人だろうか? 目をよく凝らすと――


「おおぉ……。普通のおっさんだ……」


 普通のおっさんが、歩いている……。

 エルフのように若々しい美形でもなく、とりあえず緑色でもない。いわゆる普通の人間が、テクテクと歩いている。


 ……なんだかむしろ安心感を覚えるな。

 メイユ村には若い美男美女しかいないから、むしろああいう普通のおっさんにホッとする。どことなく親近感を覚える。


「……は、話し掛けてみてもいいですか?」


「ん? うん」


「そうですか……よし、じゃあ行きましょう」


 さっそく交流することにした僕は、ジスレアさんと一緒に、普通のおっさんに向かって歩き始めた。

 いやはや、やっぱり少し緊張するね。



 ◇



「こ、こんにちはー」


 とりあえず挨拶をしながら近くまで寄ったところ、普通のおっさんは足を止め、こちらに視線を寄越した。


 うん? 正面からじっくり見てみると、あんまりおっさんって感じでもないかな? 三十代半ばくらいで、体も引き締まっていて、そこそこ精悍(せいかん)な顔付きをしている。


 装備を見に纏い、マジックバッグらしき物を担いでいる姿から想像するに、狩りでもしてきた帰りだろうか。


「いやー、どうもどうも」


「…………」


「僕達はエルフの森から旅をしてきた者でして、ちょうど今ここへ着いたんですよ。もしかしてカーク村の方ですか?」


「…………」


「えーっと……あ、今日は狩りですか? どうです? 何か取れました? 見た感じ、そういう装備かなーって、そんな印象を……えっと……はい」


「…………」


 ……かなりフレンドリーに話し掛けてみたはずなのに、普通のおじさんからは返答がない。無言だ。ずっと無言である。


 なんか間違っただろうか……。

 緊張のため、少し早口になってしまった気がするけど、そのせいかな……。

 普通のおじさんは、何やら驚いたような表情でこちらを見ている……。


「あー、その……あれですね、今日はいい天気ですね。最近は涼しくなってきて、すごしやすい季節になりましたよね」


「…………」


「だいぶ暑さも収まった感じで……。ねぇ、そんな感じで……」


「…………」


 とりあえず切り替えて、季節の話題から始めてみたのだけど、やはり言葉は返ってこない。


 会話の取っ掛かりに最適な、季節の話題という無難なテーマで攻めてみたのに、おじさんは何も言葉を返してくれない。

 季節の話題なのに……。僕が絶対の信頼を置く、季節の話題だというのに……。


「いや、あの……」


「…………」


「は、ハウアーユー?」


「…………」


 ダメか……。

 もしかして、エルフ族と人族では使用する言語が違ったりするのかなと考え、英語で挨拶をしてみたのだけど、やはりダメだった。『アイムファインセンキュー』とも返ってこない。

 ……まぁよくよく考えると、これで返事が来るのもおかしな話だけど。


 いやしかし、これはいったいどうしたものか――


「こんにちは」


「…………え? あ、あぁ、こんにちは。……アンタはあれだな、少し前にも村に来たな」


「うん」


 僕の後ろで様子を見守っていた――というか、様子を見かねたジスレアさんがおじさんに話し掛けると、あっさりと言葉が返ってきた。


 え、なにそれ……。じゃあなんで僕は……。


「それで確か、名前が――」


「ジスレア。それで、この子はアレク」


「どうもー……」


「…………」


 やはり僕には返ってこない。


 なんなのだいったい。ひどいじゃないか。なんで僕だけ無視するんだ。ここまで露骨に無視を――いや、無視ってわけでもないのか、なんかガン見されているし……。


「今日は話ができてよかった。ありがとう」


「あ、あぁ。それじゃあ……」


「うん。じゃあ」


 会話を切り上げる判断をしたらしい。ジスレアさんは別れの挨拶を送り、おじさんも村へ向けて歩みを再開した。

 時折こちらを――というか僕をチラチラと振り返りながら、遠ざかっていくおじさん。


「……なんかダメでしたかね?」


 おじさんを見送ってから、僕はジスレアさんに問いかけた。


「いや、アレクがダメだったわけでは――ん、まぁたぶん原因はアレクにあるんだけど」


「えぇ……?」


 僕が原因なのか……。

 なんだろう……。やっぱり一番最初に季節の話題から始めるべきだったのかな……。いの一番に、初手季節の話題で……。


「これはちょっと、対策が必要かもしれない」


「対策ですか……?」


 わからないけど、対策でどうにかできるならしてほしい。あそこまで会話ができないのは、さすがにつらい。

 ……というか、そもそもの原因を教えてほしいのだけど?


「とりあえず出直そう」


「はい? えっと、つまり今はカーク村には寄らないんですか?」


「うん。戻る」


「戻る?」


「メイユ村に」


「メイ…………え?」





 next chapter:一ヶ月ぶりに、田舎でのんびりスローライフを

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] なんて? 今なんか「メイユ村」とかっていう文字が見えたのですが あの……本格的にアレクの心がバッキバキに折れそうな気配があるのですが、あと能面になる女性対策とか考えてくれてますか? ジス…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ