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チートルーレット!~転生時に貰ったチートがとても酷いものだったので、田舎でのんびりスローライフを送ります~  作者: 宮本XP


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第295話 木工シリーズ第六十六弾『バランスボール』


 ユグドラシルさんが、バランスボールに乗ってポヨンポヨンと弾んでいる。


「どうですか?」


「うむ。興味深い」


「そうですか、興味深いですか」


 ユグドラシルさんは、時々これ言うね。『興味深い』って言う。僕が作った遊具への感想を、そう表現する。


 見た感じ普通に楽しんでくれているみたいだけれど、さすがに大はしゃぎしながら『たーのしー』なんてことは言えないのだろう。さすがにそれでは威厳(いげん)を保てなくなると考えているのだろう。


「というか、使い方はこれであっているのじゃろうか?」


「あっていると思います。なんかよくわかりませんが、そんな感じで乗っていると健康にいいらしいです」


「ふーむ」


 というわけで、僕が作った木工シリーズ第六十六弾『バランスボール』である。

 バランスボール――(よう)は大きなゴムボールだ。旅行に向けて作っていたかんなくずが余ったので、カンナニス製法で作製してみた。


「割れたりはせんのじゃな?」


「大丈夫です。ちゃんと耐久実験も行ったので」


「耐久実験?」


「父に乗ってもらって、何十回と思いっきり飛び跳ねてもらいました」


「そんなことを……」


 お願いして、そんなことをしてもらった。

 ただ、案外父も怖がっていたね。もしもボールが割れて床に落ちても、父なら怪我ひとつしないだろうに、やはり怖いものは怖いらしい。父には結構な苦労を掛けてしまった。


 さておき、そんな厳しい試験にも合格したバランスボールだ。まず割れる心配はない。


「というわけで、どんな使い方をしても大丈夫です」


「ふむ。――こんな感じじゃろうか?」


「おー。やりますねユグドラシルさん」


 ユグドラシルさんは床に付いていた両足を上げて、お尻だけでバランスボールに乗っている。

 さすがのバランス感覚だ。さすがユグドラシルさん。さすユグ。


「ですが、その技は案外危険なので気を付けてください」


「む?」


「僕も同じことをして、そのままひっくり返って頭を痛打しました」


「そうか……。うむ、まぁ気を付けよう」


 そう言葉を返しつつも、自分はそんな間抜けではないと確信しているのか、ユグドラシルさんはそのままポヨンポヨンとお尻だけで跳ね始めた。

 別にいいんだけどさ、本当に気を付けてね?


「でじゃ、アレクよ」


「はい?」


「結局お主は――夏まで旅に出んのか?」


「あー、そうですね。レリーナちゃんとの約束ですからね」


 まぁ、正確にはそんな約束ではなかったと思うんだけどねぇ。

 僕がレリーナちゃんに言ったのは――


『旅に出るから、夏になっても一緒に船には乗れない』

『帰ってきたら、一緒に船に乗ろう』


 ――っていう言葉だ。


 それが何故か――


『もう帰ってきたんだから、夏になったら一緒に船に乗ろう』

『夏までは、村から出させない』


 ――なんてことになっていた。


 わりと納得しかねるレリーナちゃん理論ではあったが……僕はその条件を飲んだ。

 そしてその代わりに、いざ出発するときになったら、レリーナちゃんも快く送り出してほしい。――そんな要求をした。


 なんか怖いこととかしないで、普通に笑顔で僕を送り出してくれるようにお願いしたのだ。

 長い交渉の末――まぁレリーナちゃんは『ムー』しか言えない状況だったので、どうしても交渉は長引くのだが――どうにかレリーナちゃんも納得してくれて、二人の間でそんな約束が取り交わされた。


「そんなわけで、もうしばらくは村に滞在することになりました」


「ふむ。それが一週間前にあった出来事か?」


「そうですね、一週間くらい前ですね」


 旅に出発して、帰ってきて、レリーナちゃんと交渉して――それが一週間前のことだ。


「もっと早くわしに連絡してもよかったのじゃが?」


「はぁ……。むしろ僕としては、こんなことを連絡するべきなのか迷っていたのですが……」


 帰還から一週間経った今日、僕は『通話の魔道具』を借りて、教会本部へ『アレクが帰ってきたと、世界樹様にお伝え下さい……』と伝言を頼んだ。

 迷ったが、一応はユグドラシルさんに伝えておいた方がいいと思ったのだ。


 ――で、ユグドラシルさんはその日のうちに村までやってきてくれた。

 そして開口一番『……早くない?』って聞かれたりした。


「この一週間は何をしておったのじゃ?」


「この一週間ですか? まぁベッドでゴロゴロしたり、メニューを見ながらダンジョンをいじったり、大ネズミのモモちゃんと庭で遊んだり、バランスボールを作ったり……。わりと自宅に引きこもっていました」


 元々、再出発までは引きこもろうとしていたくらいだしね……。

 しかし、再出発は夏――二ヶ月ほど先になったので、それまで引きこもるのは不可能となってしまった。

 一週間程度ならまだしも、さすがに二ヶ月も引きこもるわけにはいかないだろう。


 とはいえ、やっぱり外を出歩く気分にもならなくて、バランスボールとか作っていた。

 別にこれで運動不足を解消しようってわけでもないのだけど、なんとなく。


「実は今日外出したのも、一週間ぶりだったりします」


「ふむ、わしに連絡しなければと思ったわけじゃな?」


「……え? あ、はい、そうですね」


 まぁそういうわけでもないのだけど……あえて否定することもなかろう。


「ユグドラシルさんへの連絡もあったのですが、ジスレアさんに会おうと思いまして」


「ジスレアに?」


「予行演習のために一人で旅をしていたジスレアさんが、ちょうど今日帰ってきたらしいんですよ」


 本当なら帰ってきたジスレアさんとすぐに再出発する予定だったのだが、出発は二ヶ月後に伸びてしまった。

 このことは早めに伝えねばなるまい。加えて、それを勝手に決めたことも謝らなければならなかった。


「それでジスレア診療所に行って、再出発のことを伝えて――」


「お主のことじゃから、また金を払って世間話を始めていそうじゃのう」


「いえ、えっと、まぁ確かにそうなんですが……」


 確かにそんなこともしていた。ジスレアさんの一人旅のことも聞けたし、なかなか有意義な時間ではあった。


 ちなみにジスレアさんは再出発が二ヶ月後と聞いて、それならもう一度旅に出ると言っていた。

 今度は二ヶ月掛けて、人界の王都とやらまで行ってくるそうだ。


「ですが、実際に治療もしてもらったんですよ?」


「ん? なんの治療じゃ?」


「バランスボールで頭を打ったので」


「そうか……」


「なんですか? ダメですか?」


「別にダメではないが……」


 ふむ……。前世の感覚だと、普通に診てもらった方がいいような事案だと思うんだけどね。

 まぁこの世界の人達は、肉体の強度が違うからなぁ……。


「でもほら、やっぱり頭の怪我は怖いですよ」


「それは確かにのう」


 なにせ僕とか、一回それで死んでるからね……。

 前世で頭打って、死んじゃってるから……。


「というわけで、ユグドラシルさんも気を付けてくださいよ?」


「うむ。まぁ、気を付けよう」


 なんて言葉を返しつつも、やはり自分はそんな間抜けではないと確信しているのか、ユグドラシルさんはバランスボールの上でうつ伏せ状態になって、お腹の部分だけでポヨンポヨン跳ねている。


 まぁたぶんユグドラシルさんは落ちないだろうし、落ちても死なないだろうし、別にいいっちゃいいんだけどさ……。





 next chapter:木工シリーズ第六十八弾『(あめ)

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