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チートルーレット!~転生時に貰ったチートがとても酷いものだったので、田舎でのんびりスローライフを送ります~  作者: 宮本XP


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第290話 アレクシス五大秘密


 ついにこの日がやってきた。

 ついに今日、僕はメイユ村を出発し、世界を見るための旅に出る。


「おはようアレク」


「あ、はい、おはようございます」


 ベッドからむくりと起き上がると、ユグドラシルさんから朝の挨拶を受けた。

 同じベッドで旅のことをいろいろと語り合っていたはずだけど、そのうちに二人とも寝てしまったようだ。


「なんかちょっと眠りが浅かった気がします。やはり緊張しているのでしょうか」


「まぁそうじゃのう。いよいよ今日出発じゃからのう」


 ふと思ったのだけど、このベッドで次に寝るのは二年後なんだね。

 そう考えると何やら感慨深い。もっとベッドの感触を味わいながら眠ればよかった。


「それで、出発は昼頃じゃったか?」


「そうですね、見送りに来てくれた人達に挨拶してから、お昼すぎには出発する予定です」


「ふむ。そうしたら、アレクと再び会うのは二年後か……」


「そうですねぇ……」


 やはり寂しいな。ユグドラシルさんやみんなと、二年の別れだ……。


「……うむ。まぁしばらくは会えんが、昨日も言ったように、わしはナナを通じてDメールを送るつもりじゃ」


「ありがとうございます。確認したら僕もメールを返しますね。……といっても、すぐに返せるかはわかりませんが」


 なにせDメールには、いつ届いたかわからないという致命(ちめい)(てき)な弱点があるから。


「最低でも一日一回は確認するつもりなので、当日か翌日中には返せると思うのですが」


「まぁそこは気にせんでよい。旅の間は基本的にジスレアがすぐそばにおるじゃろうし、その辺りも苦労しそうじゃ」


 確かにジスレアさんに隠れてメールのやり取りをするとなると、だいぶ難儀(なんぎ)しそうだ。ダンジョンメニューを開くだけでも一苦労かもしれない。


「……ただですね、それについては考えがありまして」


「うん?」


「ジスレアさんには――ある程度秘密を打ち明けようかなと」


「ほう?」


 なんといってもジスレアさんは、これから二年間一緒に旅をしてくれるパートナーだ。

 あるいはここらで、多少は秘密をオープンすることを考えてもいいんじゃないだろうか。


「秘密とは……お主の転生やらルーレットのことやらか?」


「んー。正直どこまで話したものか、未だ迷っているところなのですが」


 なかなかに悩みどころだ。

 今現在、僕が抱えている秘密というと――


『転生したことと、転生前の記憶』

『レベル5ごとにチートルーレット』

『回復薬セット』

『ダンジョン関連』

『ミコトさんの召喚』


 ――こんなところだろうか?

 五個かな? アレクシス五大秘密? こう考えると結構あるね。我ながら、なんとも秘密の多い少年だ。


「やはりDメールのことを考えると、僕がダンジョンマスターだということは、知らせてしまいたい気持ちがあります」


「ふーむ」


「あと、『召喚』スキルのことも話してしまいたいんですけどね」


「『召喚』スキル? あぁ、ミコトのことか?」


「そうなんですよ。ミコトさんが――というか、呼びましょうか」


「ん? うむ。そうじゃな」


 そうしよう。実際に当人も呼んで、三人で相談しよう。


「では、『召喚:ミコト』」


「――我が名はミコト。契約により現界した」


 というわけで僕が呪文を唱えると――最近は登場時の台詞がすっかり定型文となってしまったミコトさんが現れた。


「やぁアレク君。それとユグドラシルさんも、おはよう」


「おはようございます」


「うむ。おはよう」


 とりあえずほのぼのと朝の挨拶を交わす僕達三人。


「さて、アレク君はいよいよ出発だね」


「はい、いよいよです。それで……ミコトさんの召喚なのですが」


「うん。前から言っていたように、アレク君が旅に出ている間――私を召喚しなくても大丈夫だ」


 ということらしいのだ。

 何気にここでの生活を楽しんでいるっぽいミコトさん。僕としては、そんなミコトさんを二年間も放置するのは心苦しいのだけど……。


「ミコトはそれでよいのか?」


「うん。いろいろ考えたんだけど、その方が良いと思ったんだ」


「ふーむ……」


「まず、アレク君が旅をしている最中に私を召喚するとしたら、パターンはふたつあると思う。ひとつは――このまま召喚し続けること」


「このまま?」


「このまま、二年間召喚しっぱなしにする」


「召喚しっぱなし? ずっとか……?」


 僕としては、別にそれでも構わなかったりする。

 ずーっとちょびっとずつ魔力を吸われ続けるってのは、確かに気になるといえば気になるが、それほど問題でもないはずだ。


「だけどそれはアレク君にも悪いし……そもそも私にも少し都合が悪い。これでも私は複数の世界を管理する神なんだ」


「そうか……。まぁそれはそうじゃろうな。確かアレクが前世で住んでいた世界も管理しておるのじゃったか?」


「そうですね、地球です。ミコトさんは地球を管理している神様でもあるんです」


 ミコトさんがこの世界での生活をエンジョイしている間に、地球で何か問題が起こってしまったら大変だ。地球の皆さんに申し訳ない。


 まぁ、そうは言ってもミコトさんは、それほど地球の環境変化に手を加えているわけでもないらしいけどね。

 以前にふと、『なんで地球を暑くするんですか……?』と、前世で問題となっていた地球温暖化現象に付いて尋ねてみたところ――『人とか牛とかに言ってくれ……』との回答をいただいた。


 このことからわかるように、ミコトさんは積極的に地球に干渉(かんしょう)しているわけではないようだ。


「ふーむ。ひとつ目のパターンは得策ではないようじゃな。ふたつ目のパターンはなんじゃ?」


「ふたつ目のパターンは――もうアレク君が、ジスレアさんに私のことを話してしまう」


「すべて話してしまい、旅の最中にミコトを自由に召喚するわけか」


「うん。そんなパターン」


「なるほど。……んん? いや、どう話すのじゃ? ミコトがアレクの召喚獣だと伝えるにしても、わけがわからんじゃろ。いきなり妙齢の美女を召喚できるなどと…………いや、まぁアレクならそんな召喚もしそうな気がするが」


 それはどういう意味だろうか?


「えぇと……そこは正直に言うしかないですよね」


 全部正直にジスレアさんへ伝えるしかないだろう。

 ミコトさんは神様だと伝えて、転生前に出会ったのだと伝えて、チートルーレットで当たったと伝えて――


 ……なんか芋づる式に、すべてを打ち明けることになりそうね。

 それからダンジョン関連のことも伝えるつもりだし、加えて回復薬セットのことも伝えれば、それでもうジスレアさんは、アレクシス五大秘密をコンプリートだ。


「とはいえだ、私の都合で秘密を全部明かさせるのは、さすがに申し訳ない」


「いえ、僕は別に……」


「それに私が召喚されたところで、悔しいけど今の私ではアレク君の役に立てないだろう」


「そんなことは……」


 あるけど……。


 まぁ現状ではね。確かに現状ではそこまで戦力にはならないとは思う。

 とはいえミコトさんは神様なわけで、神種族で神職業で神称号と神スキルをもっているのだから、これからどんどん伸びていくと思うのだけど……。


「それに、ナナさんだってそうだ」


「ナナさんですか?」


「私よりも実力が上のナナさんも、足手まといになるからと同行を辞退していたはずだ」


「あー」


 確かにそんなことを言っていた。自分が付いていくことでジスレアさんの負担が増えるのは避けたいとか、そんなようなことを。


「ナナさんですら辞退する旅で私がのこのこ召喚されても、お荷物にしかならないさ」


「んー、そうですか……」


「ナナさんも言っていただろう? 危険な旅だし、たぶん旅の途中でアレク君は死ぬって」


「…………」


「私が旅に参加したら、さらにその確率が上がってしまうかもしれない。だから私は、天界でアレク君の無事を祈っているよ」


「……ありがとうございます」


 というわけで、ミコトさんは世界旅行に不参加らしい。お空から見守ってくれるんだそうだ。


 ……いやしかし、今日が旅の出発日だというのに、なんかすげぇ不吉なことをサラッと言われたな。





 next chapter:いつかまた、田舎でのんびりスローライフを

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