第280話 神鑑定
「おー、これでクリアじゃな」
「おめでとうモモちゃん」
「キー」
ソリティアをやっていたモモちゃんが、無事にクリアした。めでたい。
「それじゃあモモちゃん、次はフリーセルを……あ、メールが来ました」
「む、ようやくか」
僕とユグドラシルさんとモモちゃんの三人が、部屋でほのぼのと遊んでいたところ、ナナさんからDメールが届いた。
「して、ミコトは何を継承したのじゃ?」
「あー、これを見る限り、全部報告してくれるみたいですね」
「全部? 鑑定結果全てをか?」
「そのようです」
一番気になっていたミコトさんの継承スキルを、速報としてメールで伝えてくれるという話だったはずが、鑑定結果を全て送ってくれるつもりらしい。マメだなナナさん。
「というか、わしは聞いてもいいのか?」
「大丈夫らしいです。それで、できたらアドバイスが欲しいとも」
「ふむ」
ちなみにそれは僕も聞いていた。出発前のミコトさんに、僕がステータスを聞いても構わないのか確認しておいた。
ミコトさんは普通に『構わない』と言ってくれたが……この世界の感覚にだいぶ馴染んできた僕としては、ミコトさんのステータスを全て知ってしまうことに、少しドキドキしちゃったりもする。
「では、発表します――名前は『ミコト』で、種族は『神』、年齢は『ゼロ歳』らしいです。……あれ? ミコトさんもゼロ歳なんですね」
「ふむ。お主の召喚獣だからじゃろうか? 天界の神ミコトと、今の召喚獣ミコトでは、やはり違う存在ということではないか?」
「なるほど、そんな気もしますね」
うん、納得だ。僕としてはそれで納得できる。……しかし、果たしてナナさんとミコトさんは、ローデットさんになんと説明したのだろう。
ゼロ歳児の神族を、いったいどう説明したのか。やっぱり『ユグドラシルさんのお友達だから』とでも、言ったのかね……。
「続きまして、性別は『女』で、職業は『神』らしいです。……職業神って、なんか凄いですね」
「そうじゃなぁ……」
前世基準で考えると、自らの職業を神だとか抜かす人には、近寄らない方がいい気がする。
「ひとまず、ここまでのようです」
「む? ここまで?」
「ここまで」
メールはここで途切れている。
……こう書くと、なんかホラーっぽい。
Dメールとホラー。そう聞くと、どうしてもいつぞやの事件を思い出してしまうな……。
「とりあえず返信しましょう。……あ、その前に一応ここまでの鑑定結果をメモしておきましょうかね」
「もうしとるが?」
「へ?」
ユグドラシルさんの言葉を聞き、メニューから顔を上げると――モモちゃんがメモを取っていた。
「モモちゃん……」
「キー」
「ありがとうモモちゃん」
「キー」
なんて賢い子なんだ……。しかも字が綺麗。
じゃあモモちゃんに感謝しつつ、僕はメールの返信をしておこう。
「この紙やペンやマジックバッグは、モモの物か?」
「そうですね。モモちゃん用のマジックバッグやら筆記用具やらお財布やらを、少し前にプレゼントしたんです」
「お財布?」
「毎月お小遣いをあげようかと」
モモちゃんは賢いので、筆記用具とお金があれば、自由にお買い物もできるはずだ。
「ちなみにミコトさんにも、同じセットをプレゼントしました」
「ミコトも小遣い制なのか?」
「えっと……ええまぁ……」
モモちゃんへのお小遣いはなんとも思わなかったけど、ミコトさんへのお小遣いって聞くと、なんだかいかがわしく聞こえる……。考えすぎかな……?
「おっと、それよりユグドラシルさん、新しくメールが届きましたよ?」
「ん、そうか。次はレベルや能力値じゃろうか?」
「そのようです。じゃあ読みますね。モモちゃんも準備はいいかな?」
「キー」
メモの準備をしているモモちゃんにも確認を取ってから、僕は新たに届いたメールの内容を読み上げる。
「まずはレベルですね、やはりミコトさんも『Lv1』のようです。能力値は、『筋力値』だけが2で、他は全部1らしいです」
「ほー、ミコトは『筋力値』じゃったか」
「そうですね、そうなんですが……」
「うん?」
「『できたら贈り物は魔力値の方がよかった』と、ユグドラシルさんを非難する声明がミコトさんから……」
「わしではないというのに……」
『神樹様の贈り物』のことは、ナナさんとミコトさんにも話してしまったのだ。
それが教会のプロパガンダだったということを、二人はまだ知らないもので……。
「とりあえずメールはここまでなので、『貰えるだけでもありがたいことだから』と返信して、フォローしておきますね」
「フォロー? ……え、贈り物のことを否定せんのか?」
「いえ、たぶんあんまり知らせない方がいいですよ、このことは……」
「そうなのじゃろうか……。特に問題はないと思うが……」
少なくとも、『神樹様の贈り物なんて嘘っぱち』などと声高に叫ぶのはやめておいた方がいいと思う。下手したら、異端審問を受けてしまうかもしれない……。
「そもそも真実を知ってしまった僕は、結構危険な立場にあるのでは……?」
「問題ないというのに……」
そうなのかなぁ、そうだといいけど……。
とりあえず二人には知らせないでおこう。最終的に裁判を受けて、『それでも神樹様の贈り物なんてないんだ』と叫ぶのは、僕だけでいい。
「あ、もうメールの返信しちゃったけど、モモちゃん大丈夫?」
「キー」
大丈夫そうだ。というか、モモちゃんのメモをチラッと見たところ、僕が口にしていない『魔力値』やら『生命力』やらの項目もきちんと記載していて、隣に1と数字も書き込んであった。なんて賢いんだモモちゃん。
「さてさて、これで残すはスキルのみ。少し緊張しますね、いったいどのスキルを継承したのでしょう」
「そうじゃのう。何になるかのう」
「やっぱり『火魔法』スキルは避けてほしいところですね。森で使えない『火魔法』は、正直使い勝手が悪いです。なんとか『火魔法』以外を継承してくれているといいのですが……」
「『火魔法』以外?」
「はい。是非とも『火魔法』以外で」
「あー、それはあれじゃな? お主がよく言っているやつじゃ。確か、『フラグ』じゃったか?」
「…………」
ユグドラシルさんに、おかしな知識を植え付けてしまった……。というかやめてほしい。縁起でもない。
「とかなんとか言っている間に、メールが届きました」
「ナナはメールを打つのが速いのう……」
「ふむふむ……。スキルは二つらしいですね。最初のスキルは――『神』スキル」
「モモの『大ネズミ』スキルと一緒じゃな。ミコトは『神』スキルか」
「そのようです」
それにしても、神スキルと聞くと、何やらとても有用なスキルっぽく聞こえる。
『神』スキルが神スキルであることを祈ろう。
「それで、なんとこの『神』スキル――レベル2らしいです」
「ん? そうなのか? いきなりレベル2?」
「どうやらミコトさんには、『神』という称号があるらしくて、そのせいではないかと」
「ほー」
僕が『ダンジョンマスター』の称号を手に入れて『ダンジョン』スキルを取得したときのように、ミコトさんは『神』の称号を所持していたため、『神』スキルを取得した。
その上でミコトさんは、種族が『神』であるために『神』スキルを取得した。
『神』スキルを取得できる条件が二つ揃ったため、『神』スキルレベル2になったんじゃないか――そんな考察をナナさんとミコトさんはしたらしい。
「そういえば職業が『神』なのも、スキルのレベルが2だからだったわけですね」
「ふむ。そうじゃな。『神』スキルのレベル1であれば、職業も『神見習い』になっておったじゃろう」
モモちゃんは、『紛れもなく大ネズミなのに大ネズミ見習い』という不憫な扱いを受けたが、ミコトさんは上手く回避できたようだ。
「さて、それじゃあいよいよ二つ目のスキルです」
「うむ。いよいよじゃな」
「ミコトさんの二つ目のスキル、つまり僕がミコトさんに継承したスキルは――――『槌』スキル!」
「槌か」
「槌らしいです」
槌。そうか、ミコトさんは『槌』スキルを継承したのか……。
……なんというか、わりと予想外だ。
少し前に、あれだけ長々と『ダンジョン』スキルが継承されたときのパターンを考察していたのは、なんだったのかね……。てっきりフラグだと思っていたけど、違ったのか……。
そしてさっきの『火魔法』フラグも、華麗に回避しているし……。
「ふーむ……あ、ありがとうモモちゃん」
モモちゃんが、紙に書き写したミコトさんの鑑定結果を渡してくれた。ありがとうモモちゃん。
モモちゃんがまとめてくれたメモによると、ミコトさんの鑑定結果は――
名前:ミコト
種族:神 年齢:0 性別:女
職業:神
レベル:1
筋力値 2
魔力値 1
生命力 1
器用さ 1
素早さ 1
スキル
神Lv2 槌Lv1
称号
神
「なんとも『神』が多い鑑定結果ですね……、『神』の文字が四回も記載されていますよ」
「神じゃからのう」
まぁそうなのかね。本物の神様を鑑定したわけだし、この結果は納得なのか……。
「神以外で気になるといえば、やはり『槌』スキルと『筋力値』2ですか」
「ふむ」
「ミコトさんは、これからハンマーを振り回して戦うようになるのでしょうか……」
そんな肉体派のガテン系ファイターになっていくのだろうか……。
「そうじゃのう。せっかくスキルがあるのじゃから、そこは生かした方がいいとは思うが……」
「ですよね……。なんか、あんまり女神っぽくない戦い方な気もしますが」
あぁけど、ミコトさんは初戦からキノコを素手で殴ったりしていたか。だったらまぁ、別にいいのかな……。
そういえば、あのときもミコトさんは神の鉄槌を振り下ろしていたっけ。
ひょっとすると、あの神の鉄槌でも、『槌』スキルが発動していたのかな……。
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