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チートルーレット!~転生時に貰ったチートがとても酷いものだったので、田舎でのんびりスローライフを送ります~  作者: 宮本XP


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第271話 恋人


 ミコトさんも無事に着替え終わり、さぁみんなにミコトさんを紹介しよう――といったところで、なんやかんやあって、僕は再び森にやってきた。


 ナナさんから『いきなり家の中にミコトお姉様が現れるのは、不自然では?』との指摘を受け、『それなら村の外から登場してもらおう』という流れになったのだ。


 そんなわけで僕はいったんミコトさんを送還してから村を出発して、森までやって来た。


「この辺りでよいのでは?」


「そうだね。じゃあ召喚しよう」


 一緒に村を出たナナさんに(うなが)され、僕はミコトさん召喚の準備を始めた。

 これで本日三回目のミコトさん召喚だ。


「『召喚:ミコト』」


「――我が名はミコト。契約により現界した」


「あれ?」


「うん?」


「あ、いえ、なんでもないです」


 ……なんか登場台詞がシンプルだったな。

 立て続けの召喚で、台詞のストックが切れてしまったのだろうか? それとも前回の台詞で邪神呼ばわりしたことを、少し気にしているのだろうか?


「度々すまないなアレク君。こう何度も移動させて」


「いえいえ、大丈夫です」


 そういえば、今日はこれで自宅と森を二往復目か。……だいぶ無駄な移動を繰り返している気もする。


「ではですね、これからミコトさんを村の人達に紹介していくわけですが――その役目は、ナナさんにやってもらいます」


「お任せください。不肖ナナ・アンブロティーヴィ・フォン・ラートリウス・D・マクミラン・テテステテス・ヴァネッサ・アコ・マーセリット・エル・ローズマリー・山田が、立派にその役目を果たしてご覧に入れます」


「文字数……いや、まぁいいや」


「そんなわけでお二方とも、大船に乗ったつもりでいてください」


「大船かぁ……」


 そこまで大見得を切られると、むしろ少し不安になってしまうのだけど……。

 とはいえ、以前ナナさんが『大船』と言ったときは、実際しっかりこなしてくれたんだっけかな? じゃあ今回も大丈夫だろうか?


「では改めての説明になりますが、『ミコトさんは、ユグドラシルさんとナナさんの旧友』、『村へはナナさんを訪ねてきた』、『僕とミコトさんは初対面』――こんな感じでお願いします」


「うん。了解だ」


「あくまでミコトさんは、ナナさんとの繋がりで現れたのであって、僕との関わりはなかった――その点に気を付けてください」


 やっぱりそこなんだよね、そこが一番大事。正直そこさえ気を付けてくれたら、後はどうとでもなる気がする。

 村の人達はみんな温和でフレンドリーだし、ミコトさんもちゃんとしている人なので、ナナさんが少々変わった紹介をしたところで、上手く村に馴染めるはずだ。


「ふむ。その『マスターとミコトお姉様は初対面』というのは、『突然どこからともなく現れた黒髪の美女がマスターの知人だとしたら不自然』――そういうことですか?」


 そんなナナさんの質問に、自分の髪を撫でながら『いやぁ』と照れるミコトさん。なんだか少しほっこりする。


「まぁナナさんの言う通りではあるんだけどね、やっぱりその…………レリーナちゃん対策として」


「レリーナ様……?」


「僕の周りに女性が現れると、なんだかレリーナちゃんはピリピリしちゃうので」


「あぁ……」


「今までも、ユグドラシルさん、ディアナちゃん、ナナさんと、毎回何かしらあったからさ」


「そうですね、いろいろありましたね……」


 ユグドラシルさんとナナさんのときは、家から出た瞬間にレリーナちゃんと鉢合わせになった。そしてユグドラシルさんは大層怯えてしまい、ナナさんは腰を抜かした。

 ディアナちゃんのときはルクミーヌ村まで乗り込んで、結構な騒動を巻き起こした。そして父が心に傷を負った。


 そろそろこの流れを止めたい。過去から続く惨劇の歴史を、今回こそ止めたい。


「レリーナちゃんか。私としては、彼女とも仲良くしたいところだけど……」


「……そうですね。僕もそうなったらいいと思います」


 そのためにも、『僕とミコトさんは初対面』ってのが重要だ。

 僕が関わらなければ、レリーナちゃんは普通の女の子だと思うんだ。……たぶん。


「では、そんな感じで頑張っていきましょう。ミコトさんもナナさんも、よろしくお願いします」


「うん。頑張ろう」


「頑張りましょう」


 三人で『頑張ろう、おー』などと拳を突き上げ、僕らは作戦を開始した。



 ◇



 ナナさんとミコトさんを森に残し、一足先に僕だけ自宅へ戻ってきた。

 やはり最初は家族への紹介からと思ったのだけど……あいにくと家には誰もいなかった。


 そのことを『ダンジョンのメニュー式メッセージ通信』でナナさんに伝えると――


『では適当に村を歩きミコト様を紹介して回りますお祖父様かお祖母様が帰宅したら教えてくださいダンジョン』


 というメッセージが返ってきた。


 というわけで、僕は両親の帰りを待ちつつ、時間をつぶすために自室で木工作業をしていた。

 高さ十センチほどの木製の円柱を成形し、リアル系『ニス塗布』をかけることにより、とてもリアルなコーラの缶を作ろうと――


「ただいまー」


 おっと、帰ってきた。父だ。父が帰ってきた。

 とりあえずナナさんにメッセージを送ってから、父を出迎えよう。


「おかえり父」


「うん、ただいま」


 ひとまずナナさんに『父帰宅ダンジョン』とのメッセージを送ってから、僕は父の元へやってきた。


「……あれ? 別にわざわざ父のところへ来なくてもよかったのかな?」


 なんとなくリビングまで来てしまったが、別に父と一緒に待つ必要もなかったか?


「いきなり何てことを言うんだいアレク……」


「あ、ごめん。そういうことじゃなくて……」


 よく考えると、父に対してかなりひどいことを言ってしまったか。


「あれ? ユグドラシル様はもう帰ったのかな?」


「え? あぁ、少し前に帰ったね」


「そっか。ユグドラシルさんはよくこの家に来てくれるけど、アレクは迷惑とか掛けてない?」


「ん? うん。それはもちろん…………掛けてるんじゃないかな?」


「掛けちゃダメだよ……」


 いやだって、どう考えても結構な迷惑とか苦労とか面倒を掛けていると思う……。

 実際今日も、ミコトさんの服を持ってきてほしいなんて、ちょっとした面倒事をお願いしてしまった。


「いいかいアレク、ユグドラシル様は僕達エルフの神様なんだよ? ちゃんと敬わなければいけないし、迷惑を掛けるなんてもってのほかだ」


「うん……」


「確かにユグドラシル様は優しい方だけど、迷惑や面倒を掛けてはダメだよ。アレクは何かあったらすぐにユグドラシル様を頼ってしまうけど、それはあんまりよくないことだよ?」


「あ……。前にそれ、ディアナちゃんにも言ったことがある……」


「そうだろう? ディアナちゃんも――え? アレクの方からディアナちゃんに言ったの? アレクがディアナちゃんに言われたんじゃなくて?」


「父が言ったようなエルフとしての心構えを、ディアナちゃんに説いた記憶がある」


「…………」


 確か『ダンジョンに入りたいからユグドラシルさんにお願いして』とディアナちゃんに頼まれたとき、そんな言葉を伝えた記憶がある。


 ダンジョンを作ってすぐのことだから、今から四年ほど前のことか……。あれから四年、あんまりその心構えを実践できていないね……。


「もちろん僕もわかっているし、努力しているつもりなんだけど……」


「そっか、もうちょっと頑張ってみようね……。まぁユグドラシル様も頼られることを喜んでいる節があるからなんとも言えないけど、やっぱり頼り過ぎはよくないから」


「そうだね、少なくとも迷惑は掛けないようにしたいと――」


「ただいま戻りましたー」


「おっと」


 ナナさんが戻ってきたようだ。つまり――今からミッションスタートだ。

 何やらいきなり父に怒られる流れになってしまった僕だが、ここは一旦切り替えて、上手く対応せねば。


「あぁ、セルジャン様に坊ちゃん。お戻りでしたか」


「おかえりナナさん」


 ナナさんもリビングまでやってきたが、そこにミコトさんはいない。ひとまずナナさんだけで帰宅したようだ。


 ……それにしても、ナナさんは自然だな。父も僕も家にいることはすでに知っていたのに、それを感じさせない自然な演技をしている。

 ――これは僕も負けていられないな。


「実はお二人に、紹介したい人がいるのですが――」


「ほうほう。ナナさんが僕達に紹介したい人だって? さぁさぁ、一体全体それはどんな人なのかな?」


「…………」


 ……なんか、あんまり上手いこと演技できなかった気がする。

 日頃のお遊戯会では大袈裟な台詞回しなことも多いから、その影響だろうか……。


「……とりあえず、家に招いてもよろしいでしょうかセルジャン様」


「うん。いいよ」


「ありがとうございます。少々お待ちください」


 そう言ってナナさんはリビングを後にした。


「……アレクはどうしたの?」


「……どんな人なのか気になったとか、そんな感じで」


 そんな感じで受け流してくれると助かる。


「確かにナナさんが紹介したい人っていうのは気になるね。どこの人だろう? この村の人なら、わざわざ僕達に改めて紹介ってのもおかしな話だし」


「そうだねぇ」


「あ、もしかして――恋人とか? そんな感じの人なのかな?」


「なっ!? 恋び!? ――み、認めない! そんなの僕は認めない!」


 突然なんだ! 何を言い出すんだ父よ!


「あれ? へぇ、二人は仲が良いとは思っていたけど、アレクはナナさんのことをそんなふうに思っていたんだね」


「当然だよ! ナナさんに恋人なんて――まだ早いよ!」


「……うん?」


 さすがに早すぎる! ナナさんは、まだ四歳なんだ!


「アレクがナナさんをどんなふうに思っているのか、ちょっとわかんなくなってきたんだけど……。えっと、早いの?」


「早いよ! 早すぎるよ! 認めない! 僕の目が黒いうちは、ナナさんに恋人なんて認められない……!」


「アレクの瞳は緑色だけど……?」


 いやまぁ、それはそうなんだけど……。


「そもそもさ、その恋人とやらはどうなの? ちゃんとしている人なの? ナナさんを任せて大丈夫なの?」


「いや、知らないけど……」


「やっぱりさ、ちゃんとナナさんを大事にしてくれる人で、責任感がある人じゃないと」


「責任感?」


「家庭をもつことに対する責任感。あとは、あれだよね……収入とかも気になっちゃうよね。そこはやっぱり気になっちゃう。なんだかんだお金は大事。経済力は必要」


「さっきからどうしたの……? アレクはナナさんのなんなの……?」





 next chapter:父

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