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チートルーレット!~転生時に貰ったチートがとても酷いものだったので、田舎でのんびりスローライフを送ります~  作者: 宮本XP


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第269話 悠久の時を経て


 だらだらと、丸一日ユグドラシルさんと一緒に遊んで過ごした。


 ジェ◯ガで遊んだことで、なんとなく昔の木工シリーズで遊んでみようという話になり、コマを回したり、けん玉をやったり、竹とんぼを飛ばしたりして過ごした。

 二人でそれぞれ竹とんぼを自作し、どちらの竹とんぼがより飛ぶか競争なんてこともしていた。

 そんなほのぼのとした、とある休日の一日であった。


 ――そしてその翌日、約束していたミコトさんの服を譲り受けるため、僕はユグドラシルさんと森の中を歩いていた。


「ところで大ネズミのモモも服を着ておったが、あれはどうしたのじゃ?」


「ああ、あれは母ですね。母にお願いしました」


 『裁縫(さいほう)』スキルを持っているらしい母に頼んで、ササッと作ってもらったのだ。


 ……そう考えると、やはりミコトさんの服はユグドラシルさんに頼んで正解だったな。

 大ネズミのフリードリッヒ君とミコトさんの服を同時期に両方お願いなんてことをしていたら、母から怪しまれたかもしれない。


「そういえば、いったん送還すると綺麗になるんですよね」


「うん? モモの服か?」


「はい。服もそうですし、体もですね。召喚し直すと綺麗になって戻ってくるんですよ」


 どうもそういうものらしい。服の洗濯や、フリードリッヒ君自体を洗う必要もないようだ。楽でいい。


「このことを利用して洗濯物を洗ってもらおうとしたんですが、それはダメでした」


「洗濯?」


「フリードリッヒ君に洗濯物をたくさん持たせて召喚し直したのですが、それは綺麗になっていませんでした。着ていないとダメらしいです」


「そんな実験をしていたのか……」


 あれでいっぺんに全部洗濯できたらよかったのにね。残念だ。


「もしかしたら、ミコトもそれで綺麗になっていたのじゃろうか?」


「え? あぁ、最初の歩きキノコとの戦闘ですか。確かにそうかもしれませんね」


 初戦闘時に歩きキノコとグラップリングなんて真似を始めたもんで、かなり泥だらけになっていたミコトさんだったが、再召喚したときには綺麗になっていた。

 女神様だし、その程度は造作もないのだろうと気にも留めなかったが……今になって思うと、あれは女神の力ではなく『召喚』スキルの力だったのだろう。


「さて、この辺りでよいか。ではわしは、いったん戻って服を取ってくるぞ?」


「はい、よろしくお願いします」


「うむ」


 その言葉とともに、一瞬で姿を消すユグドラシルさん。


「それじゃあ僕は…………どうしようか?」


 ユグドラシルさんが戻ってくるまで、どれくらいかかるのだろう?

 そんなに時間が掛かるとも思わないけど、このままぼんやり突っ立って待っているのもな……。


「んー……」



 ◇



「待たせたのう。――ん? 何をしておるのじゃ?」


「あ、お疲れ様です。ちょっと『ダンジョンメニュー』をいじっていました」


 暇つぶしに何をしようか考えた結果、僕は何の気なしにダンジョンメニューをいじることにした。

 ちょっとした空き時間でもスマホをいじる現代人のような感覚で、僕もダンジョンメニューをポチポチやっていたのだ。


「ダンジョンメニューか。何か変更するのか?」


「実はですね――高尾山の頂上に宝箱を設置しようかと思いまして」


 なんとなく、そんな改善案を考えてみた。

 一番上まで登った人に、ちょっとしたご褒美的な感じで宝箱。いいんじゃないかな?


「宝箱のう。もう設置したのか?」


「んー、まだですね。後でナナさんと相談してから決めようと思います」


 ダンジョン作りは二人で相談しながらという約束なので、そこは了承を得なければいけない。


 ――とはいえ、おそらくナナさんも反対はしないだろう。そう思った僕はユグドラシルさんを待っている間に、サクッとナナさんにメッセージを送ってみた。

 いわゆる、『ダンジョンのメニュー式メッセージ通信』だ。メニューのダンジョン名を『高尾山のてっぺんに宝箱置いていいかなハテナダンジョン』に変えて、ナナさんにお伺いを立てたのだ。


 それからしばし待ったのだが……まぁ返信は来ないよね。

 このメッセージ通信は、『相手がなんとなくメニューを開いてダンジョン名を確認したときしか伝わらない』という致命的な弱点を抱えている。

 やはりこの短時間で返信をもらうことは不可能だったようだ。


「それはそうとユグドラシルさん、その手に持っている物が?」


「うむ。取ってきたぞ」


 ユグドラシルさんは、右手に持っている布の袋を僕に見せるように軽く掲げた。あの袋の中にミコトさんの着替えが入っているのだろう。


 ……思えば、ここまで長かったな。

 なんだかんだで二週間も掛かり、最終的に神様の力を借りることになってしまった。


「ありがとうございますユグドラシルさん。大変ではなかったですか?」


「ん? まぁこの程度、わしにとっては造作もない――というか、本当に造作もないわ。わしをなんだと思っておるのじゃ……」


 ……それもそうか。なんせ神様だしな。普通の服を一着用意するくらい、本当に造作もないことだったか。


「まぁその、大変でなかったのなら良かったです。ありがとうございました」


「うむ」


「それじゃあ……どうしますかね? ちょっとミコトさんを召喚しましょうか」


「そうじゃな、呼んでやれ」


「では――『召喚:ミコト』」


 僕が呪文を唱えると、地面の下からミコトさんが現れて――


「――我が名はミコト。悠久の時を経て、今ここに再び現界した」


「悠久の時……?」


 いや、二週間なんですけど……。

 やっぱりユグドラシルさんの言うように、今か今かと待ちわびていたのだろうか? それでつい、そんな台詞が飛び出してきたのだろうか?


 ……あれ? ということはもしかして、今軽く嫌味を言われた?


「えぇと……お久しぶりですミコトさん」


「うん。久しぶり、アレク君もユグドラシルさんも」


「ずいぶんとお待たせしてしまい、申し訳ありません」


 とりあえずお待たせしたことを謝っておこう……。


「いや、大丈夫だ。……とはいえ、大ネズミのトラウィスティアにはずいぶん差を付けられてしまった気がする。ここから私も巻き返していきたいな」


「……そうですか」


 女神様が、大ネズミと張り合っている……。

 ライバルかな? 同じ召喚獣として、ライバル的な関係なのだろうか……?


「それでミコトよ、これがお主に用意した着替えじゃ」


「うん。ありがとう」


「まぁこれといって特別な物でもなく、一般的な衣装じゃがな」


「いやいや、ありがとうユグドラシルさん。これで私も本格的に活動できる」


 ミコトさんはそう言って、ユグドラシルさんから笑顔で布の袋を受け取った。


「うむ。ではわしは帰るとするか」


「……あ」


「うん?」


「あー、いえ……」


 僕もミコトさんも、まだ袋の中の衣装を確認していないんだけど……大丈夫かな。

 もしもミコトさんが着られないような服だったら……。例えば、とても布面積が少なくて扇情(せんじょう)的な衣装だったりしたら……。


 ……いや、さすがにないか。

 以前ジェレッドパパが作ったビキニにもドン引きしていたユグドラシルさんだしな、さすがにそんな服は持ってこないか。


「どうした?」


「いえ、大丈夫です。おそらく問題ないでしょう。……なんかそれはそれでちょっと残念な気もしますが、とりあえず大丈夫です」


「相変わらず、お主はわけがわからんな……」


「相変わらず……」


 結構な言われようだこと……。


「まぁよい。何かあったら、またわしに伝えよ」


「はい、今回もありがとうございました」


「うむ。では、お疲れ様でしたー」


「お疲れ様でしたー」


 というわけで、ユグドラシルさんは帰っていった。

 ありがとうユグドラシルさん。さようならユグドラシルさん。また二週間後くらいに逢いましょう。


「ではミコトさん、そちらに着替えてもらってよろしいでしょうか? その後、村に向かいましょう」


「うん。……うん?」


「はい?」


「どこで着替えたらいいんだろう?」


「どこで? あっ……」


 そうか、それは失念していた……。

 どうしよう、やっぱり森の中で着替えてもらうわけにはいかないよね……?


 これは困ったな。いったいどうしたものか。

 ここら辺で、着替えるための場所なんて…………ハッ!


「更衣室! 更衣室がありますよ!」


「更衣室? ――あ、そうか、ダンジョンか。ダンジョンには更衣室があるのか」


「そうですそうです。こんなこともあろうかと、作っておいたんです!」


 いやー、そうだった。ちゃんと更衣室があったんだ。

 なんとなく言ってみたい台詞だったから、つい『こんなこともあろうかと』なんて言っちゃったけど、まさかこんなことがあるなんてねぇ。


 よしよし、それではダンジョンに向けて出発だ。ダンジョンの更衣室で着替えてもらおう。

 いやはや、昔貼った伏線を綺麗に回収できたような気がして、なんとなく気分が良いね。





 next chapter:百合(ゆり)

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