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チートルーレット!~転生時に貰ったチートがとても酷いものだったので、田舎でのんびりスローライフを送ります~  作者: 宮本XP


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第268話 特訓


 ルーレットで『召喚』スキルを取得してから二週間が経った。

 そして二週間ぶりに――ユグドラシルさんが来訪した。


「ふむ。ミコトの服か」


「そうなんです。いろいろ考えた結果、着替えてもらった方がいいかと思いまして」


 僕とユグドラシルさんは、ジェ◯ガ――直方体のブロックを積み上げて作ったタワーから、ブロックを引き抜いて最上段へ積む遊び――をしながら、ミコトさんの着替えについて相談していた。


「確かにあの服は目立つのう」


「ですよねぇ」


 このブロックは……あ、ダメかな? ダメっぽい。

 じゃあこれは……お、いけるいける。


「お主としてはどうなのじゃ? お主の前世でも、あれは変わった服なのか?」


「あー。まぁそうですかね、普通の人はあんまり着ないです」


 巫女さん以外は着ないだろうしなぁ。

 というか、正確にはあんまり巫女服ではないよねあれ。巫女服よりも、もっとパワーアップしている感じの衣装だ。


「それでお主は、こっそり女物の服を手に入れようとしていたわけか」


「その言い方は、何やら語弊(ごへい)がありますが……。まぁ村の人に気付かれないよう手に入れられたらいいなと」


「なるほどのう」


 そうつぶやきながら、ユグドラシルさんはブロックを一本引き抜いて最上段へ置いた。

 さてさて、だいぶバランスが怪しくなってきたぞ?


「僕の方でもいろいろ考えてはみたのですが、あまり上手い方法も思い付かず」


「ふむ」


 ちなみにこのジェ◯ガは、ずいぶん前に僕が作ったもので、木工シリーズ第二十三弾『ぐらぐらブロックタワーゲーム』となっている。

 最初は木工シリーズ第二十三弾『ジェ◯ガ』だったのだけど、ナナさんから――


『確かジェ◯ガも商標登録されていませんでしたか?』


 との指摘を受けて、名称の変更を余儀なくされたのだ。


「――あ」


「うむ」


 僕が新たにブロックを引き抜いた瞬間、タワーはバランスを崩し、ガラガラと音を立てて崩れてしまった。


「んー、いけると思ったんですが……」


「久しぶりにやってみたが、なかなか楽しめたのう」


「そうですね、たまにはいいですね」


 別に接待プレイをしたわけでもないのだけど、ユグドラシルさんが楽しんでくれたのなら何よりだ。


「でじゃ、わしがミコトの服を用意すればよいのじゃな?」


「すみません、できたらそうしていただけると」


「構わん。普通の服でよいのじゃろ?」


「はい。お願いします」


 というわけで、ユグドラシルさんが二つ返事で引き受けてくれた。

 いやはや、毎度のことながらユグドラシルさんには感謝しかない。また後で、感謝の気持ちを込めながらユグドラシル神像でも彫ろうかな。


「では、今から取りに行ってくるかのう」


「え? いえ、そこまで急ぎというわけでもないですし、次回いらしたときのついでにでも……」


「そうか? ……いや、服がなければミコトを召喚できんのじゃろう? つまりは二週間もの間、あやつは召喚されておらんわけじゃ」


「まぁ、そうですが」


「もしかすると、今か今かと召喚されるときを待っているかもしれん。できるだけ早く準備してやろう」


 毎度のことながら、慈愛の精神に満ち溢れているなユグドラシルさんは……。

 別の世界の神様にまで、慈愛の心をもって接している。


「あ、それなら帰るときにお願いできますか? そのとき僕も森まで付いていきますので、そこで渡していただければ」


「ふむ。ではそうしよう」


 さすがに今から森まで取りに行かせるのは申し訳ない。ユグドラシルさんが森でワープして帰るとき、僕も付いていこう。そこでユグドラシルさんが往復して服を用意してくれるのを待つことにしようか。


「そういえば、もう一人の召喚獣はどうした?」


「もう一人? 大ネズミのフリードリッヒ君ですか?」


「うむ。大ネズミのモモじゃ。……というか、今の名前はどうなっておるのじゃ?」


「ええまぁ、あれからどんどん名前が増えていきまして……。正直、収拾がつかなくなりました……」


 何やら『フリードリッヒ君の名前は好きに付けていい』という噂が広まり、みんな思い思いの名前を自由に付け始めた。

 その結果、従来のナナ山田方式の命名は不可能になってしまった。全部の名前を組み込む方式は、どう考えてもどうやっても不可能だった。


「なにせ何百人って人達が名前を付けましたからね。さすがに長くなりすぎまして……」


「何百か……。それは少し厳しいのう……」


「『ヘズラト』だけで五十を超えていましたよ。指折り数えるのにも限界があるってもんです」


「五十? いや、まとめたらよいじゃろそれは……。というか、『ヘズラト』は何故そんなに人気なのじゃ……?」


 なんだか知らないけど、ジスレアさんのように『ヘズラトが人気なのか、じゃあ私もそれで』という人達が多くいたのだ。それでヘズラトに人気が集中して、どんどん増えていった。


 ちなみにだが、フルーツ勢もなかなか多かった。

 途中で数えるのをやめてしまったが、ヘズラトとフルーツの総数だけは数えておけばよかったかもしれない。最終的にどっちが勝ったのか、少し気になる。


「そんなわけで、みんな自分で付けた名前を自由に呼ぶ方式になりました。とりあえず頭に『大ネズミの』って付けておけば、話は通じるので」


「なるほどのう……」


 そんなこんなで、結局フリードリッヒ君のフルネームはよくわかんないことになってしまった。フルネームを用いた召喚呪文も、もう使えない。

 まぁその呪文も長くなりすぎて、かなり早い段階からまともに使えるものではなくなっていたけど……。


「それでどうじゃ? モモは息災か?」


「あぁはい。元気にやっています。実は、今も召喚中だったりするんですよね」


「ん? そうなのか?」


「はい。庭で訓練中……いえ、特訓ですね。特訓しています」


「特訓?」


「特訓です。ちょっと見に行ってみますか?」


「ふむ」



 ◇



 フリードリッヒ君の特訓を見学するために、僕はユグドラシルさんと一緒に家の庭にやってきた。


「おー、やってるやってる」


「あれは……」


「ご覧の通り、ナナさんと一緒に特訓中です」


「一緒にというか……」


 庭ではフリードリッヒ君が、元気に走り回っている――――ナナさんを背に乗せて。


「ナナさんは『騎乗』スキルをもっているのですが、もしかしたらフリードリッヒ君にも乗れるんじゃないかという話になりまして」


「確かに乗れているようじゃが……」


「昨日から始めたんですが、結構様になっていますね」


 裸馬――まぁフリードリッヒ君は服を着ているし、馬でもないのだけど……とりあえず(くら)手綱(たづな)もない状態だが、なかなか安定しているように見える。さすがは『騎乗』スキル。


「おやマスター、それにユグドラシル様も」


「お疲れ様、ナナさん、フリードリッヒ君」


 僕達に気付いたナナさんとフリードリッヒ君が、こちらへ近付いてきたので挨拶を交わす。


「調子はどう?」


「そうですね、仕上がりは順調です。単走で強めに追い切りましたが、反応も良かったです。折り合いも問題なく、しっかり乗り込めています。次はいけますよ」


「そっか」


 ナナさんが何を言っているのか全然わからない。


 ……まったくもってわからないけど、とりあえず特訓は上手くいっているようだ。


「というわけで、このままちょっと出掛けてこようかと思います」


「む? それはモモに乗ったまま戦うということか? さすがにそれはまだ早いのではないか?」


「あぁ大丈夫です、森までは出ません。乗ったまま軽く買い物にでも行こうかと」


 買い物の足として、フリードリッヒ君に乗っていくつもりらしい。

 あるいは、ちょっとした散歩的な感じだろうか。なんかいいなそれ、楽しそう。


「でも、今までずっと特訓していたんでしょう? 大丈夫かな? 疲れてない?」


「キー」


「そうなんだ」


「なんと言ったのじゃ?」


「『問題ないわ。全然平気よ!』と、言っています」


「……そんな口調じゃったか?」


 まぁ、その辺り僕が適当に訳しているだけなので。


「では、行ってきます」


「キー」


「気を付けてねー」


 というわけで、ナナさんを乗せたままフリードリッヒ君は出発していった。


「長距離戦ですからね、ペースを大事にしましょう。道中で上手く息を入れて、足を溜めましょう」


「キー」


 ……最後までナナさんが何を言っているかわからなかったな。


 フリードリッヒ君も『ええ、わかったわ!』なんて言っているが、本当にわかっているのだろうか。

 いつものように、上手く空気を読んでいるだけな気がしないでもない……。





 next chapter:悠久の時を経て

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