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チートルーレット!~転生時に貰ったチートがとても酷いものだったので、田舎でのんびりスローライフを送ります~  作者: 宮本XP


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第267話 ラブコメ回6


「モモ?」


「モモでお願いします」


 ディアナちゃんにも大ネズミのフリードリッヒ君の命名をしてもらったのだけど、『もも肉』ではなく『モモ』にしてもらうようにお願いした。

 さすがにもも肉呼ばわりは、フリードリッヒ君が不憫(ふびん)すぎる。


「えー? そうなの? もも肉の方が可愛くない?」


「キ――」


「モモで、是非モモでお願いします」


 フリードリッヒ君が空気を読んで、『では、もも肉で』とか言い出す前に、僕が(さえぎ)って再度お願いした。


「んー。まぁいいか。じゃあアタシはモモって呼ぶね? よろしくモモ」


「キー」


 ディアナちゃんにモサモサされながらも、フリードリッヒ君は『よろしくお願いします』と応えた。


 というわけで、フリードリッヒ君の名前は――『ヘズラト・ヘズラト・ヘズラト・リンゴ・モモ・イチゴ・モモ・レモン・アレアリ・ダモクレス・ラタトスク・トラウィスティア・フルフル・フリードリッヒ・ヴァインシュタイン二世』に決まった。

 なんか知らないけど、ヘズラト勢とフルーツ勢の激しいバトルが繰り広げられている印象だ。


 ちなみにだが、フリードリッヒ君の召喚はフルネームでも可能だったりする。

 普段は『召喚:大ネズミ』で召喚しているのだけど、『召喚:ヘズラト・ヘズラト・ヘズラト・リンゴ・モモ・イチゴ・モモ・レモン・アレアリ・ダモクレス・ラタトスク・トラウィスティア・フルフル・フリードリッヒ・ヴァインシュタイン二世』の呪文でも召喚できるのだ。

 ……何やら邪神でも復活しそうな呪文である。


「あ、それとモモって呼ぶのはいいんだけどさ、できたら最初は『大ネズミのモモ』って呼んでくれるとありがたいかな」


「最初?」


「毎回じゃなくていいんで、呼ぶときの一回目だけはそんな感じで」


「ふーん?」


 もうね、さすがにわからないのよ……。

 例えば、いきなり『アレアリちゃんは、今日も毛並みが綺麗だねー』とか言われても、『アレアリ』がなんだかわからなかったりするのよ……。

 そんなわけで、名前の頭に『大ネズミの』と付けてほしかったりする。


「で、モモ――大ネズミのモモはいいんだけどさ」


「うん?」


「アレクは何をやってんの?」


「僕? ――あぁこれか、これは『水魔法』の訓練なんだ」


「うん、まぁそうだろうなって思ってたけど……」


 今僕は椅子に座った状態なのだけど、テーブルに置かれた水の入ったコップに手を突っ込んでいる。コップは二つあり、左右の手でひとつずつだ。

 そして足元には水の入った木製のタライがひとつ置かれていて、こちらには両足を突っ込んでいる。


「それはあれ? 魔力を流すってやつ?」


「そうそう。前は全然できなかったんだけど、最近はかなり慣れてきて、なんと三ヶ所で魔力を流すこともできるんだ」


「ふーん……」


 あれ? なんかディアナちゃんの反応が微妙だな。

 僕としては、結構苦労しながらようやくここまで進歩したというのに。


 ……やっぱり訓練中の見た目が、かなり怪しいからかな。


「アタシもやってみていい?」


「ん? えっと、別にいいけど……」


 それはいいけど、実際に『水魔法』スキルを所持しているディアナちゃんなら、これくらいは簡単にできてしまいそうではある。

 とはいえ断る理由も見つからなかったので、とりあえず右手をコップから引き抜くと――


「じゃあちょっと待っててね」


「……んん?」


 てっきりテーブルのコップに手を差し入れるのかと思いきや、ディアナちゃんは椅子を運んできて、その上に座った。

 そして――靴を脱ぎ始めた。


「え、足?」


「うん。あれ? ダメ?」


「ダメってこともないけど……」


 どうやらディアナちゃんは、手ではなく足を水に突っ込む気らしい。

 いきなり足なのか……。いや、別にいいんだけどさ……。


 それじゃあと、僕がタオルを用意しながら自分の足をタライから引き抜こうとすると――


「あ、別にいいよ、アレクはそのままで」


「え?」


 そのままでいいらしい。

 そう言われたので、そのまま足を突っ込んでいると……そこにディアナちゃんも足を差し込んできた。


「いや、あの……」


「うん」


「うんじゃなくて」


 ……何この状況。二人で同じタライに足を突っ込んで……なんだこれ。


「これは……おお?」


「ふふ……」


 僕が魔力を流していたタライの水に、何やら変化が訪れた。

 今まではタライの水すべてに僕の魔力が注がれていたのだけど、だんだんとディアナちゃんの魔力に侵食され始めた。


 頑張って抵抗するも、じわじわとディアナちゃんの勢力圏は広がり、僕はディアナちゃんに押さえ込まれる形となった。


「ぬぬぬ……」


「ふふふ……」


 なんだか軽くSっぽい表情をして、にまにま笑いながら僕の魔力を押さえ込むディアナちゃん。

 ついでに自分の足先で、僕の足をツンツンしてくる。


 なんだこれは……。なんかちょっと恥ずかしい。なんかちょっとドキドキする……。


 ――って、なんてことだ!


 ついにだ! ついにディアナちゃんに、ドキドキさせられてしまった!

 まだディアナちゃんは十四歳だというのに、十四歳にドキドキさせられてしまった……!


 いや、まさかこんなことで…………ん?


 そんな最中、ふと目に入った大ネズミのフリードリッヒ君。なんでか知らないけど、こちらを見ないように顔を伏せている。


 もしかして……やっぱりそんな雰囲気なのだろうか? どことなくいかがわしい雰囲気を感じたのだろうか? ちょっと特殊なプレイをしているように見えたのだろうか?

 それでフリードリッヒ君は、こちらを見ないようにしているのだろうか……?


 そんなフリードリッヒ君だが、何やら音を立てないように少しずつ僕らから距離をとり、部屋の扉へ向かっている。

 邪魔をしないように、こっそり出ていくつもりらしい……。なんて空気が読めるんだフリードリッヒ君……。


 いや、だけど違うから。別にそういうんじゃないから。

 だからそんな空気の読み方はしなくていいんだフリードリッヒ君……。





 next chapter:特訓

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