第260話 試行錯誤
歩きキノコに片足タックルを決め、テイクダウンすることに成功したミコトさん。
その後はマウント状態に移行し、上から神の鉄槌を乱れ打ちし、どうにかこうにか勝利をもぎ取ってみせた。
巫女さんが、でかいキノコとガチのMMAファイトをこなすという、なかなかにシュールな状況だったが、わりと手に汗握る熱戦で、なんだか妙に盛り上がった。
……だがしかし、歩きキノコとここまでの接戦を演じてしまうのはどうなのか。
ミコトさんもそう思ったらしく、『ちょっとディースに話を聞いてきたい……』と言うので、僕はミコトさんを送還――天界に送り返した。
そして、ミコトさん送還後――
「とりあえず、このキノコはちゃんと持って帰ろう」
「お手伝いします」
「ありがとうナナさん」
僕とナナさんは協力して歩きキノコを解体し、マジックバッグに詰めた。
やっぱりミコトさんがあれだけ頑張って倒したキノコだし――というか、よく考えたらさっきのは、ミコトさんの初狩りってことになるじゃないか。
つまりこのキノコは、ミコトさんが初狩りで仕留めた獲物だ。これは大事にしないと。
今回はレリーナパパにプレゼントするのもやめて、全部持って帰ろうか。
「それにしてもミコト様は……どういうことなのでしょう?」
「うーん……」
歩きキノコと大接戦だったからなぁ……。
「やっぱり僕のせいなのかな……。僕のレベルが低くて、それに引っ張られたとか? 僕のレベルだか魔力だかが足りないとか、そういう理由かな?」
「魔力ですか?」
「改めて考えるとさ、女神様なんてそう簡単に召喚できるものじゃないでしょ? なのに僕は、魔力を少し消費しただけで召喚できたんだ」
もしかすると……僕の総魔力量が少なくて、それに見合った残念なミコトさんが召喚されたとか?
召喚中はずっと魔力が減り続けている感覚はあったのだけど、それも極微量であった。やはり僕が供給できる魔力量が少ないために、こんな事態になったんじゃないだろうか?
「あるいは、『召喚』スキルのスキルレベルが低いからって可能性もあるのかな……。ユグドラシルさんはどう思いますか?」
「単純に、ミコトが弱いだけではないか?」
「…………」
なんて辛辣な……。
僕もナナさんも一応気を遣って、『うわ、めがみよわい』とは口にしないようにしていたのに……。
というか、仮にも女神様であるミコトさんが弱いなんて、そんなことあるのだろうか?
天界でのディースさんとのバトルを見た限り、とんでもない実力を保持していると思った。さっきキノコ相手にぽこぽこやっていた神の鉄槌だって、あのときのはもっと凄まじいものだった。
「おそらくじゃが――ミコトのレベルがまだ低いからじゃろ」
「はい? ミコトさんのレベルですか?」
「『召喚』スキルで呼び出す『召喚獣』には、それぞれ個別にレベルが設定されておるのじゃ」
「へ? あ、そうなんですか」
知らなかった。ちゃんとそれぞれにレベルがあるのか……。
というか、やっぱり『召喚獣』って名称なのね。
「『召喚』スキルを所持している者に聞いたことがあるのじゃが、初めは召喚獣のレベルも低く、強くはないらしい。ミコトもそうなのではないか?」
「なるほど……」
そうなのか。じゃあミコトさんも、そんな設定がされているんだろうか?
「ひとまず本人を呼び戻して、話を聞いてみたらどうじゃ?」
「え、でも、今さっき送還したばかりですが」
「もう大丈夫じゃろ。お主のときも圧縮した時の流れとやらで、一瞬で事が済んだ。ミコトとディースの会話も、もう終わっておるのではないか?」
「あ、それは確かに」
それもそうだ。女神様二人の会話に、時間なんて必要ないだろう。
「じゃあさっそく……と、その前に一応呼びかけておきますか」
「うん?」
「ミコトさーん、もう召喚しますねー? 大丈夫ですねー?」
「ふむ……」
空を見上げながら、天界のミコトさんに確認をとってみた。
まぁ一方通行な問いかけなので、本当に大丈夫なのかはわからないけれど、とりあえず心の準備とかはしてくれるはずだ。
「じゃあ呼びますね」
「うむ」
「では――『召喚:ミコト』」
僕が地面に手をかざし、呪文を唱えると――
「――我が名はミコト、契約により現界した。さぁ、我に何を望む?」
「…………」
召喚時は、毎回そんな感じなのかな……。何を望むって聞かれてもな……。
「えぇと……それで、話は聞けましたか?」
「いや、教えてくれなかった……」
「ありゃ、そうなんですか」
そうなのか、ミコトさんが聞いてもダメなのか。
「さすがに意地悪で教えてくれなかったわけでもないと思うのだが……」
「んー……」
話を聞いたところ、どうもディースさんはとある事情から、この世界に降りることを禁じているそうだ。それで今まで我慢していたわけだが……今回の召喚により、ミコトさんの降臨が決まってしまった。
それがディースさんは、どうにも羨ましかったらしい。
僕がルーレットで『召喚』スキル(+ミコト)を手に入れたときには、神のルールを覆してまでやり直しを提案したほどだし、『ずるいずるいずるいー』と、ディアナちゃんのように駄々をこねていたくらいだ。
……とはいえ、さすがにそれが悔しいから八つ当たりをしているわけではないだろう。
八つ当たりでミコトさんの能力を下げたわけでも、八つ当たりでミコトさんが残念な理由を教えてくれなかったわけでもないはずだ。……たぶん。
「チートルーレットの景品の詳細は、教える事ができないと言われてしまって……」
「あぁ、いつものやつですね」
「いつもの『試行錯誤すべし』というやつだ。『ミコトも試行錯誤されろ』と言われてしまった……」
「そんなことが……」
「こんなことなら、ちゃんと調べておけばよかったな……。『召喚』スキルのことや、私が召喚される景品があることは知っていたけれど、実際にどういう状態で召喚されるかまでは調べていなかったんだ」
「それは、今から調べられないのですか?」
「ディースに隠されてしまった……」
「そうですか……」
きっと八つ当たりではない。ないはずだ……。
「おそらく、さっきユグドラシルさんに言われた通りだと思うのだけど……」
「つまり、レベルが低いからだと?」
「うん。『召喚』スキルの召喚獣は、レベル1から始まるのが普通だ。元々私にレベルなんてものはないのだけど、召喚される上で、そう設定されているのかもしれない」
「ミコトさんもレベル1から始まっているわけですか……」
それもなんだかすごい話だな。女神様であるミコトさんを、レベル1の召喚獣にしてしまうとは……。
「そういうわけで、私はあんまり強くもないし、神らしい奇跡も起こせないようだ……。すまないアレク君……」
「いえ、そんな……」
仕方ないことだ。それは別にミコトさんが悪いわけではない。
……とはいえ、やっぱりちょっと残念かもしれない。てっきりとんでもないチートを手に入れたと思っていたからな。
ついついユグドラシルさんとナナさんにも、『ダンジョンコアを超えるチートだ』なんて豪語してしまったし……。
というかミコトさんもミコトさんで、『すごいチートだ。かなりすごい』とか言っていたっけか……。
「……まぁあれじゃな、確かに現状では強くないかもしれんが、素質だか才能だかは他に類を見ない存在じゃ。なにせ神なのじゃからな。これから強くなっていけばよい」
「そう。そうですよ。これから強くなればいいだけですよ、僕も協力します。一緒に強くなりましょう」
「うん……。ありがとうユグドラシルさん、アレク君。これから頑張ろう。頑張って強くなろう」
「はい。これからよろしくお願いしますミコトさん」
「よろしくアレク君」
というわけで、ユグドラシルさんが綺麗にまとめてくれた。
ミコトさんと一緒に、これから頑張っていこう。
「うむうむ。では、わしはそろそろ帰るかのう」
「あ、そうなんですか?」
「せっかく森まで来たし、このまま帰るつもりじゃ。……あぁそれから、もしもミコトを村の人間に紹介するのなら、わしの名前を使って構わんぞ?」
「それは……そうですか、ありがとうございますユグドラシルさん」
ナナさんのときと同様に、ユグドラシルさんのお友達だと紹介してもいいということだろう。
さすが慈愛の女神ユグドラシルさんだ。相変わらず気遣いとか気配りがすごい。
「では、アレク――」
「あ、ちょっと待ってください」
「うん?」
別れの挨拶――ハイタッチしてお疲れ様でしたー――をしようと思ったのだろう、ユグドラシルさんが両手を上に上げてスタンバイしたところで、僕は待ったをかけた。
「実はですね、もうひとつ見てもらいたいものがありまして」
「もうひとつ?」
「もうひとつの――召喚です」
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