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チートルーレット!~転生時に貰ったチートがとても酷いものだったので、田舎でのんびりスローライフを送ります~  作者: 宮本XP


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第259話 うわ、めがみよわい


 僕とナナさんとユグドラシルさんは、自宅を出発し、森の中を歩いていた。

 森の中を、僕ら三人パーティはてくてくと進んで――


「……あれ? ナナさんって、今の職業は木工師見習い?」


「はい? なんですか急に」


「いや、なんとなく」


「はぁ……。えぇと、私は木工師です。前に『木工』スキルのレベルが2に上がりまして、それで木工師に」


「あぁそうか、上がったって言っていたね」


 ナナさんが生まれてから、一年も経たずして僕は『木工』スキルレベル2になった。

 それだけの経験をナナさんも受け継いでいたのだから、そりゃあナナさんが『木工』スキルレベル2に到達するのも道理だ。


「私的にはダンジョン関連の職業に就きたいのですが、マスターのせいで木工師ですよ」


「僕のせいって……」


「それで、それがどうかしましたか?」


「ん? んー、まぁ、なんとなく」


「はぁ……」


 森の中を進む三人パーティ。パーティメンバーの内訳は――『世界樹』『木工師』『木工師』の三人らしい。

 なんとも言えないパーティ構成だなぁ……。字面だけ見ると、まるで『世界樹』が加工されてしまうんじゃないかって、そんな心配をしてしまう構成だ。


「さて、ここら辺でいいかな。とりあえず人に見られたくないので――ユグドラシルさん、誰か来たら教えていただけますか?」


「うむ。それは構わんが、見られたらまずいのか?」


「そういうわけでもないのですが……」


 これから僕は、ルーレットで取得した『召喚』スキルを二人に披露しようと思っている。


 しかし実際に召喚するのは初めてなもので、何がどうなるかわからない。

 そのため、まずはこっそり隠れて召喚しようと考えたのだ。


「それで、結局マスターは何を貰ったのですか? ここまでずいぶんと引っ張りましたが、そろそろ教えてくれてもいいのでは?」


「引っ張ったわけでは……まぁ、引っ張ったか」


 せっかくなら隠しておいて、ばーんと発表して、ばーんと召喚したかったもので……。


「じゃあ発表するよ? 僕がもらったのは――『召喚』スキルだ!」


「『召喚』スキル……! なるほど、それは……良いスキルを貰ったのでは? ファンタジーもので『召喚』スキルは、チートなことが多いですよ?」


 うんうん。さすがナナさん。よくわかっている。


「ふむ、『召喚』スキルか……。何か実際に召喚できるのか?」


「ええはい。では実際に、今から召喚してみようと思います」


 僕は二人の前に立ち、前方に手のひらをかざした。

 ……まぁ別にかざす必要もないのだけど、なんとなく雰囲気作りの一環として。


「では、いきます――」


 かざした手をどこに向けたらいいのか微妙に悩みながらも、僕は呪文を唱える――


「『召喚:ミコト』」


 いくらか体から魔力が抜けた感覚を味わいながら僕が呪文を唱えると――前方の地面から、ミコトさんがにゅっと現れた。


 ……案外演出はシンプルだね。

 なにせミコトさんは女神様だ。もう少し凝った演出がされるかと思ったけど、普通に地面から生えてきた。


 ……とりあえず、天に向かって手をかざさなくてよかった。

 女神様だし、ひょっとすると空から降臨することもあるかと迷っていたんだ。その想定で、天に手をかざしている最中に地面からにゅっと現れでもされたら、かなり微妙な画になっていたことだろう……。


 さておき、召喚は無事に成功したようだ。

 こうして僕はミコトさんを召喚することに成功……したんだよね? なんとなく、いつものミコトさんとは雰囲気が違うような……?

 ミコトさんは、何やら薄く微笑みながら――


「――我が名はミコト。契約により現界した。これより汝の力となろうぞ」


「…………」


 余所(よそ)行きだ……。ミコトさんが、余所行きの表情や口調を作っている……。


 雰囲気がずいぶん違うと思ったけど、ミコトさん本人が雰囲気を作っていた。僕以上に雰囲気を作っていた……。


「……えぇと、よろしくお願いします」


「うん、よろしく」


 あ、いつものミコトさんだ。雰囲気作りは登場シーンだけなのか。


「ここがディルポロス……。いつも見ていたけど、来るのは初めてでね、なんだか感慨深い」


 キョロキョロと辺りを物珍しそうに見渡すミコトさん。


 それにしても、少し妙な感じだ。会議室でしか会うことがなかったミコトさんと、こうして森の中で会うことになるとは……。

 いつもの巫女服ルックなのも、違和感を増幅している要因だろうか。


「マスター、これは……」


「うん。そういうわけで僕は――女神様を召喚できるようになったんだ」


 このように、今回僕がチートルーレットでもらったのは――『召喚』スキル(+ミコト)なるものだった。


「女神? 女神とな? ……いや、ミコトと言ったか? 確かその名は、アレクが前世で住んでいた世界の神ではなかったか?」


「あ、そうですそうです。そのミコトさんを召喚することもできる『召喚』スキルらしいです」


「よろしく、ユグドラシルさん」


「ん? うむ、よろしく」


「会えて光栄だ。まさかこうして実際にユグドラシルさんと言葉を交わせる日が来るとは思わなかった」


 そう言って言葉と握手を交わす二人。


「ナナさんもだ、ナナさんもよろしく」


「ナナ・アンブロティーヴィ・フォン・ラートリウス・D・マクミラン・テテステテス・ヴァネッサ・アコ・マーセリット・エル・ローズマリー・山田です。どうぞよろしくお願いいたします」


 ナナさんは腰を折り曲げ笑顔を浮かべ、ミコトさんの手をぎゅっぎゅっと両手で握った。

 ……そういえば昔、ナナさんはこんなふうに政治家ムーブをしていたなぁ。


 ちなみにだが、このようにミコトさんは、ユグドラシルさんやナナさんのことをさん付けで呼ぶ。

 天界にいた頃からそうなのだけど、どうも僕の呼び方に引っ張られているっぽい。


「さて、とりあえず無事に召喚できてよかっ――どうかしましたか?」


「ん? あー、うん、召喚されたときから、なんだか体が重いような……。というか、重い」


「重い?」


「あと神力が――」


「アレク、モンスターじゃ」


「へ?」


 ミコトさんと話している最中に、ユグドラシルさんからの警告が入った。モンスターが近付いているらしい。


「えーと……。あぁ確かに」


「そうですね」


「……わからない」


「…………」


 僕の索敵にも引っかかったので、そちらの方向へ視線を向けていると、ナナさんも気付いたらしく、同じ場所を見ている。

 そしてミコトさんはわからないらしい。神様なのに、わからないらしい……。


 体が重くて、神力とやらがなんかアレらしくて、敵にも気付けなくて……。


 なんだろう……。なんだか雲行きが怪しくなってきた……。

 女神様を召喚できると聞いて、とんでもないチートを取得できたのだと思っていたけれど、何やら不穏な空気が……。


「えぇと……なんか召喚に失敗しましたかね……?」


「そう……なのかな……」


 召喚されたときとは、打って変わって不安そうな雰囲気のミコトさん。

 どうなっているんだろう。やっぱり僕のせいなのかな……。


「その前にアレク、来とるが?」


「え? あ、そうですね、とりあえずモンスターを倒しますか」


 不調っぽいミコトさんの原因を探る前に、接近中のモンスターを片付けてしまおう。


「えーとモンスターは……あぁ、歩きキノコですか。それじゃあサクッと――」


「――私にやらせてもらえないだろうか」


 ……サクッと倒してしまおうと、マジックバッグに手を突っ込んだところで、ミコトさんがそんなことを言い出した。


「えっと……大丈夫ですか?」


 まぁ女神様に歩きキノコを倒せるかどうか尋ねる時点で、そこそこ不敬な気もするのだけど……。とはいえ、なんだか嫌な予感しかしないんだ。


「大丈夫、歩きキノコだろう? さすがに倒せるさ。弱いモンスターを相手に、少し試しておきたいんだ」


「そうですか……。では、お任せします」


「ありがとうアレク君」


 というわけでミコトさんを一人残し、僕達は離れる。


「……大丈夫ですかマスター? なんか負けそうな予感がしますよ?」


「不敬だよナナさん……。それは不敬だ……」


 さすがに大丈夫だろう。歩きキノコだし、女神様だし……。

 信じよう。女神様の強さと、歩きキノコの弱さを信じて見守ろう。


 少し距離をとってから、僕がハラハラしながら見守っていると、歩きキノコがのてのてとやってきた。

 歩きキノコはすでにこちらの存在に気付いているらしく、まっすぐミコトさんを目掛けて突撃してきた。たぶん突撃だ。のてのてだが。


 そして、そんな歩きキノコの前に立ち塞がったミコトさんは、ゆっくり右の手のひらを突き出し――


「――光よ」


 美しい声で、泰然とした姿で、ミコトさんは呪文を唱えた。


 ……たぶん呪文だと思う。何も起こらないが、たぶんなんかの呪文だ。


「あれ? 光よ! 光……! く……」


 どうも発動できないっぽい……。


 ……こう言っちゃなんだけど、最初の『――光よ』は、なかなかに恥ずかしいシーンだったな。


「み、ミコトさん……?」


「だ、大丈夫だ!」


 すぐ近くまで寄ってきた歩きキノコを見て、『――光よ』を諦めたらしいミコトさんは、開いていた右手を握りしめ――拳の底面を歩きキノコに叩きつけた!


「あれは――神の鉄槌!」


「知っているのかマスター!?」


 ……いや、ナナさんも知っているでしょ。ディースさんを吹っ飛ばした例のあれだよ。


 ディースさんの後頭部をどついて、会議室の端まで吹っ飛ばすほどの威力を誇った神の鉄槌――だったはずだが、今や見る影もない。

 ミコトさんの鉄槌打ちは、歩きキノコを軽くよろめかせることしかできなかった。


 それどころか、歩きキノコに反撃され――


「ぬわー」


「ミコトさーん!」


 歩きキノコの体当たりをくらったミコトさんは、コロコロと転がってしまった。


「いや、もうちょっとこれは――」


「て、手出し無用!」


「えぇ……」


 妙なガッツをみせるミコトさんは立ち上がり、再び歩きキノコへ挑みかかっていった。


 そしてミコトさんは、そのまま歩きキノコに格闘戦を仕掛けた。

 拳や肘を打ち込み、あるいは足や膝を叩き込み……そして歩きキノコから反撃されたり。


 なんというか、一進一退だ。というか、やや押され気味ではあるが……。

 あの歩きキノコに、やや押され気味……。


 と、とりあえず、頑張れミコトさん!





 next chapter:試行(しこう)錯誤(さくご)

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