第257話 チートルーレット Lv25
「では――そろそろルーレットの方を」
「そうね、それじゃあ少し待っていてくれる?」
「はい、お願いします」
僕がディースさんの膝からどいて立ち上がると、ディースさんはダーツを取りにルーレット台へと向かった。
「さぁアレク君。いよいよレベル25のルーレットだね」
「そうですねぇミコトさん」
いよいよだ。いよいよレベル25のチートルーレットが始まる。
ちなみにだが、やはり僕は今日のダンジョンマラソン中、レベルが25に上がったそうだ。
二人の話によると、剣を使って4-2エリアのワイルド大ネズミを討伐したところで、レベルが上がったとのことだ。
……正確には、倒してからドヤ顔をした瞬間に、レベルが上ったらしい。
ドヤ顔なんてしてたかな……。
「今回は何が当たるかな?」
「どうですかねぇ。世界旅行直前ですし、やっぱり旅行で使えるものが欲しいところですが」
「旅行で使えるものか」
「はい。何か旅行で使えるものを」
「んー……トランプとか?」
「…………」
ミコトさんが、妙にほのぼのとした例を挙げた。
いや、まぁ確かに旅行で使えるアイテムだとは思う。それに今の世界にはない物だし、チートアイテムと呼べなくもないだろう。
とはいえ、それがチートルーレットで当たっても……。
「あ、その、すまない。トランプはちょっと違うな。うん、ちょっと違う。旅行で使えるという言葉から、ついつい連想してしまったんだ」
「いえいえ」
自分でもトランプは違うと気付いたらしい。ミコトさんは少し照れている。なんだかほっこりする。
「まぁ地球にあったプラスチック製のトランプも、今の世界では作れない物でしょうし、あれも十分チートアイテムと呼べるかと…………んん?」
「ん?」
「なんか頑張れば、『ニス塗布』で作れそうな気もしますね……」
「アレク君の『ニス塗布』も、大概チートだよね……」
我ながら、たまに恐ろしくなってしまう『ニス塗布』の万能っぷりである。
「そういえば『ニス塗布』の進化も、この二年間のうちにあったことだね」
「あぁはい。いきなりとんでもない進化を遂げて驚きました」
「そう考えると、この二年間でアレク君のスキルはだいぶ強化されたんじゃないかな? 『ニス塗布』もそうだし、『剣』スキルや『槌』スキル、さらには光るスキルアーツシリーズなんてもの取得できた」
光るスキルアーツシリーズは、あんまり強化に繋がっていない気もするけど……。
「だとすると今回は、戦闘面以外の強化でもいいかもしれないね」
「はぁ、戦闘面以外と言いますと――」
「パ◯ェロね!」
「…………」
ダーツを手に戻ってきたディースさんが、唐突にそんなことを言い出した。
「はい、アレクちゃん」
「あぁ、ありがとうございます」
ひとまずディースさんからダーツを受け取り、お礼を言う。
ちなみにダーツには、デフォルメされた笑顔の僕とディースさんとミコトさんの三人が描かれていた。これにはミコトさんもにっこりだ。
「やっぱり世界を旅するとなったら、パ◯ェロが良いと思うの」
「パ◯ェロですか……。いえ、そりゃあ自動車があったら移動速度も格段に上がるとは思いますが……」
ジスレアさんも、僕の移動速度を気にしていたしね……。
だけど、やっぱりパ◯ェロにはいろいろと問題があると思う。そんなオーパーツを手に入れても、いったいどう説明して、どう扱ったものか。
「そもそもメイユ村は森の中にあるのですが……村から外に出られなくないですか?」
「そうね、まずは道路を作るところからかしら」
「…………」
何百キロって距離の森を、切り開いて道路を作るの……? その工事は誰がするの……?
というか、たぶんいろんな人に怒られるんじゃないかな……。
僕自身エルフの端くれとして、あんまり森を削ることはしたくないって感情があったりもする。
「その様子だと、どうやらアレクちゃんはパ◯ェロに乗り気じゃなさそうね」
「ええまぁ……」
「とはいえ、一度当たってしまったら、やり直しなんてできないのがチートルーレット。それがチートルーレットのルールであり、神のルールなの」
「神のルール……」
「いくらアレクちゃんが嫌がったところで、もしも本当に当たってしまったら――お家にパ◯ェロを送り込む他ないの」
め、迷惑すぎる……。
……いやしかし、本当にそんなことになったらどうしたものか。
いっそのこと、なかったことにしてしまおうか? 幸い今は、自宅にユグドラシルさんがいる。もしも自宅にパ◯ェロが送られてきたら――すぐさまユグドラシルさんにお願いして、どこぞのボーナスステージのように破壊してもらおうか?
……でもなぁ、さすがにやっぱりもったいないよねぇ。
ひとまず納車を待ってくれたりしないかな? 神のルールとやらは理解したし、もう一度ルーレットをやり直させてとまでは言わない。だけど、それくらいはお願いできないだろうか……。
「それじゃあアレクちゃん、そろそろルーレットを――アレクちゃん?」
「あ、はい。始めましょう」
何やらパ◯ェロが当たった後のことを真剣に悩み始めてしまった。
まぁ今のうちからそんなことを悩んでいても仕方ない。とりあえずルーレットを始めよう。悩むのは、本当に当たってからでも遅くはない…………はず。
「準備はいいわね?」
「はい、お願いします」
「それじゃあ行くわよー。チートルーレット――スタート!」
僕がスロウラインに立ってダーツを構えると、ディースさんはルーレットを回し始めた。
そして、いつものコールが――
「パー◯ェーロ、パー◯ェーロ」
「パー◯ェーロ、パー◯ェーロ」
「…………」
今回は、ミコトさんもコールに加わっていた。
僕はあんまり当たってほしくないというのに……。
まぁいいや、投げよう。
「やー」
いつもの掛け声と共に投擲した僕のダーツは、ボードへしっかり突き刺さった。
よしよし、まずはこれで一安心。なんとか今回も無事に命中だ。
……そろそろ外すパターンもあるんじゃないかと、内心ちょっとビビっていたりするのだ。
「確認するわね? さてさて今回は――ん? んん……?」
何やらボードを確認したディースさんが唸っている。どうしたのだろう。
「…………」
「え……」
こちらへ向き直ったディースさんは、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
ディースさんのこんな表情、初めて見たな……。
「あの、どうしたんですか……?」
「アレクちゃん」
「はい」
「――この結果はなかったことにして、もう一回やってみない?」
「えぇ……」
なんだそれは……。神のルールはどこへいったのだ……。
「いや、何が当たったんですか?」
「んー……」
「いやいや、教えてくださいよ」
「そうね……。とりあえず発表はするわ。今回ルーレットで当たったのは――『召喚』スキルよ」
「へぇ!」
『召喚』スキル! 『召喚』スキルが当たった!
良いんじゃない? それはなかなか良いんじゃないの?
「なんか良さげじゃないですか? ファンタジーもので『召喚』スキルとか、かなりチートなことが多いですよ?」
「そうね、そうなのだけど……」
ふむ? 聞いただけでちょっとわくわくしちゃっている僕がいるというのに、ディースさんの方は、ずいぶんと浮かない顔をしている。
「どうしたんだディース、何がそんなに気になるんだ? 『召喚』スキルは、そこまで警戒すべきスキルだっただろうか?」
「んー。そういうわけでもないのだけれど……」
「ふむ」
「あ、ちょ」
何やらずっとまごまごしているディースさんを見兼ねて、ミコトさんもルーレットボードへ近付いた。自分の目でボードを確認するつもりのようだ。
「ダメ、待って」
「まぁまぁ」
「うーうー」
うーうー言っているディースさんを右手で押し留め、ミコトさんはダーツが刺さった部分を確認する。
「うん。確かに『召喚』スキル…………うん?」
「どうしました?」
「ふふ、ふふふ……」
「え? み、ミコトさん?」
何やら唐突に含み笑いを始めたミコトさん。ちょっと怖い
「ふふふ。なるほどなぁ。――やったねアレク君、これはすごいよ? すごいチートスキルだよ?」
「えっと、そうなんですか……?」
「かなりすごい」
かなりすごいのか……。よくわからないけど、ただの『召喚』スキルではないのだろうか?
「いやー、しかしそうか、そうかぁ……。なんだろうね、なんだかちょっと緊張するかも」
「はい?」
緊張? ミコトさんが緊張……?
……もうなんなのだ、全然わからない。ディースさんもミコトさんも、いったいどうしたというのだ。
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