第243話 『剣』スキル
リアルセルジャン落とし、超怖かった。
怖いもの見たさで、セルジャン落としに進化した『ニス塗布』をかけてみたのだけど……超怖かった。
笑っちゃうほど怖かった。二代目等身大ユグドラシル神像に引き続き、またしても僕はリアルな人形を目の前にして、笑いだしてしまった。
ちなみにユグドラシルさんはドン引きしていた。
リアルセルジャン落としもそうだし……それを見て笑っている僕にもドン引きしていたような気がする。
ともかく、もっと試してみたい。もっといろいろ塗ってみたい――そんなことを思った僕だが、体がだるさを覚え、気分が悪くなってしまったので断念した。
どうもリアル系『ニス塗布』は、結構な魔力を消費するようだ。
とりわけ二代目等身大ユグドラシル神像のリアル化は、消費魔力が多かった。なにせ等身大だからね、それも仕方がないのだろう。
残る魔力を振り絞ってセルジャン落としをリアル化したのだが、そこで僕は魔力不足に陥ってしまったらしい。
というわけで消費魔力の多さという弱点は発覚したものの、やっぱり『ニス塗布』はすごい。
もちろん高燃費なリアルニスではなく、従来の低燃費ニスも選択可能である。『ニス塗布』すごい。
ここまで進化した『ニス塗布』。あるいはもしかして、ステータスにも何か変化が表れているのではないだろうか?
そう思った僕は、翌日教会を訪れ、さっそく鑑定してもらったわけだが――
名前:アレクシス
種族:エルフ 年齢:15 性別:男
職業:木工師
レベル:23(↑1)
筋力値 17(↑1)
魔力値 13(↑1)
生命力 8
器用さ 30(↑1)
素早さ 5
スキル
剣Lv1(New) 槌Lv1 弓Lv1 火魔法Lv1 木工Lv2 ダンジョンLv1
スキルアーツ
パワーアタック(槌Lv1) パラライズアロー(弓Lv1) ニス塗布(木工Lv1) ヒカリゴケ(ダンジョンLv1)
複合スキルアーツ
光るパワーアタック(槌)(New) 光るパラライズアロー(弓)
称号
剣聖と賢者の息子 ダンジョンマスター
「ふ、ふおぉぉぉ……」
け、『剣』スキルだ……。
夢にまで見た『剣』スキル! 念願の『剣』スキルを手に入れたぞ!
……というか『ニス塗布』は変わらんのね。あそこまで変わったのに、『ニス塗布』は『ニス塗布』のままなのか。
「おめでとうございますアレクさん!」
「はい! ありがとうございます!」
笑顔で祝福してくれたローデットさんに、僕も笑顔で応える。
「いやー、ようやくです。ローデットさんに『たぶんもうすぐ』と伝えてから、ずいぶん経ってしまいましたが、ようやく取得できました」
あれから、もうちょっとで一年だったかな? どうにか『たぶんもうすぐ』の範囲内で取得することができただろう。いやー、よかった。
「でもでも、すごいですー。アレクさんが今十五歳で、剣の練習を始めたのが――?」
「七歳くらいですね」
「じゃあ八年ですかー。すごいですー。アレクさんすごいですー」
「いやー。そんなそんな」
気持ちいい。ローデットさんの賛美が、とても気持ちいい。
実際大したものだろう。そりゃあ剣聖である父の称号を受け継いだり、父の指導を受けた影響はあるのだろうけど、それでも二十年かかるところを八年だ。なかなか大したものだよ。
「おめでとうございますー」
「いやいや、どうもどうも」
「じゃあ――説明を聞きますか?」
「え? あ、はい」
なんかローデットさんが解説モードに入ってしまった。
とりあえず、ありがたく拝聴しよう。
「アレクさんのお父さんは剣聖さんですし、改めて私が説明することもないかと思いますけど、少しだけお話ししますー」
「はい。お願いします」
「『剣』スキル――名前の通り、剣の扱いが上手くなるスキルですねー。その際、剣のサイズは問わないですー。大ぶりな両手剣でも、小ぶりな片手剣でも上手に扱えますー」
「ふんふん」
「というか、刃物なら大体なんでも大丈夫ですー。包丁とかカミソリでも効果が発動しますー」
「……なるほど」
うん。なんとなくそれは感じていた。
食事をするときにも、『なんか僕ナイフの使い方うまいな……』なんてことは思っていた。
相変わらずスキルってのは、どうにもザックリというか大雑把というか……。解釈次第って印象を受けるね……。
「まぁそんなところですかねー」
「ありがとうございました」
こうしてローデットさんのチュートリアルを受けると、『剣』スキルを取得できたことを改めて実感する。
さてさて、無事に『剣』スキルを取得したことにより、現在僕の所持スキルは――
『剣』『槌』『弓』『火魔法』『木工』『ダンジョン』――ってことになった。
……なんともバラエティに富んだスキル群だね。
むしろここまできたら、もっと手広くやっていきたいような気すらしてきた。
魔法をもう一種類くらいと、生産系をもう少し取得して、オールラウンダーを目指したい。
……まぁオールラウンダーというよりも、器用貧乏って言葉の方が近いかもしれないけどさ。
◇
教会を出た僕は、自宅を目指して歩を進めていた。
「いやー、よかったよかった」
『剣聖と賢者の息子』である僕としては、『剣』スキルを無事に取得できて一安心だ。
あとは、やっぱり魔法系も伸ばしたい。八年という早さで『剣』スキルを取得できたことにより、やはり称号はスキル取得に好影響を及ぼすのだと確認できた。
であるならば、魔法関連も伸ばしたい。剣聖の息子である僕は、賢者の息子でもあるのだ。せっかくだし、そっち方面も頑張りたい。
「そうなると、『火魔法』を頑張るか、もしくは別の系統を学んでみるかだけど……」
一応ちょこちょこ『火魔法』の練習はしているけど、どうしても僕が森に住むエルフである以上、『火魔法』は使いづらい。
ここはひとつ、他の属性魔法の取得も目指してみようか?
とすると、やはり母か? 母に師事してみるか?
母は、『五年から十年で魔法を覚えられる』と言っていた。母に師事したら、あるいは『剣』スキルよりも早く取得できるかもしれない。
そうしてみようかな? とりあえず帰ったら母に相談しよう。
……あ、その前に父だ。父に報告だ。無事に『剣』スキルを取得できたと、父に報告しなきゃ。
「うんうん。きっと父は喜ぶぞ――うん?」
自宅に戻ってきたところで、玄関の前に人がいるのを発見した。
どうしたんだろう? 何やらうずくまっている。
気分でも悪くなったのだろうか? それならせめて、家の中へ入ればいいのに……。
えぇと、あれは……ジスレアさんかな? うずくまった後ろ姿しか見えないけど、たぶんジスレアさんだ。
……え? ジスレアさん?
いや、美人女医のジスレアさんならば、自分で自分を癒せるだろうに、いったい何が……?
「あの、大丈夫ですか?」
「…………」
とりあえず近寄って声を掛けるが、反応がない。
ジスレアさんはうずくまったまま、両手で顔を押さえている。
「えっと? ジスレアさん?」
「…………」
フヒュー、フヒューという呼吸音が聞こえる。
え、何? どうしたの? 泣いてる?
……というか、笑っている? ……笑いを堪えているのか?
なんか、前にもこんなことがあったような……。
「あ、そうか」
きっとジスレアさんは、玄関の母人形を見てしまったんだ。
玄関に設置してある。胸の大きな新型の等身大母人形。
今朝僕がニスを塗り直し――リアル化した『新型等身大リアル母人形』を見てしまったんだ。
……そういえばジスレアさんは、初めて新型母人形を見たときもこんな感じになっていた。
そして、等身大の新型母人形を初めて見たときもこんな感じになっていたけれど……リアル化でも、やっぱりこんな感じになってしまうらしい。
「あの、大丈夫ですか……?」
「…………」
「その、『ニス塗布』が進化しまして、それで塗り直してみたんです」
「…………」
いつぞやのように、ジスレアさんは貝になってしまっている。
「えぇと……母は、見た瞬間大喜びでした」
「…………!」
「父は、見た瞬間逃げ出しました」
「…………!!」
声をかけるたびにビクンビクンしているジスレアさん。
ちょっと面白いけど、面白がっちゃさすがに悪いか……。
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