第242話 スーパー二代目等身大ユグドラシル神像
我ながら上手に作れたと自負する二代目等身大ユグドラシル神像なのだが、当のユグドラシルさんはいらないと言う。
残念だ。この二代目等身大ユグドラシル神像は、確かユグドラシルさんに対するお礼だかお詫びだかの意味を込めて作っていたはずなのだけど……。
ちなみに、なんのお詫びだったかは、ちょっとわからない。
作り始めたのもずいぶん前だし、ユグドラシルさんには普段からたくさん迷惑をかけているので、もうどのお詫びだかわからなくなってしまった。
「一応、教会の本部か支部に置かせることも考えたのじゃが――」
「え、これをですか?」
「やはり、教会には合わん気がしてのう」
「ですよね……」
二代目等身大ユグドラシル神像も、初代と同様に愛嬌やら可愛らしさを押し出した神像だ。
なおかつ躍動感もある。『きゃるーん』って感じだ。そんな感じの神像だ。
あんまり教会に設置しておくような神像ではないかもしれない。
この神像に誰かが祈りを捧げる姿とか、相当シュールな画になると思われる。
「それに、この神像は幼い姿をしておるじゃろ? わしのこの姿は、この村限定なのじゃ」
「あぁ、そういえばそうでしたか」
他の村では見ることができない、レアバージョンのユグドラシルさんだった。
となると、本部や支部には置けない。おそらく他の村の人達は、これが誰だかわからないだろう。
というか世界樹様を十歳の幼女だと覚えられてしまうのも、なんだかちょっと問題がある気がする。
まぁこの村の人達は、すでに世界樹様のことを十歳の幼女だと覚えてしまっているけど……。
今さらながら、それも少し問題だよね……。
「うーん。だとすると二代目等身大ユグドラシル神像はどうしたものでしょう。結構邪魔なんですけど」
「邪魔とか言うでない」
「いや、ですが……」
ユグドラシルさんだって、邪魔だからプレゼントを断ったのだろうに……。
あ、だけど初代の方はちゃんと部屋に置いてくれているのか。……たぶん邪魔だろうに。
「ひとまず家の玄関に置いておきますかね?」
「あの乳のでかいミリアムの隣に並べるのか?」
「ダメですか?」
「うーむ……」
ちょうど二体だし、狛犬っぽい感じになって良いと思うんだけどな。
「この村の教会へ置いたらどうじゃ?」
「この村の?」
「うむ。この村の人間ならば、幼い姿のわしに慣れ親しんでおるしのう」
「まぁそうですね。それなら確かに――あ」
「うん?」
「あー、そうですか。この教会に二代目を……」
……手前味噌だが、二代目はよくできている。
二代目を目当てに教会へ来る人が増えるんじゃないかってくらい、よくできている。
そうなると、ローデットさんの教会が人気店になってしまうかもしれない……。
もしかしたら、僕がローデットさんと会う時間が減ってしまうって可能性すら……。
「――いえ、ですがわかりました。教会のためです。断腸の思いで二代目を教会へ設置します」
「……何故そこまでの思いを?」
「僕は大丈夫です。覚悟はできています」
「いや、そんなに苦しいなら置かんでよいが……」
別に置かなくていいらしい。
これで礼拝者が増えて、結果的にユグドラシルさんに少しでも恩返しができるならばと、覚悟をもって決断したのだけど……。
「じゃあどうしましょうか?」
「んー。ならばあれじゃ、ダンジョンに置いたらどうじゃ? 入り口辺りに」
「あぁ、ダンジョンにですか。それは良いかもです」
こっちは人が増えたら増えただけ嬉しい。
それに二代目を設置したら、殺風景なダンジョン入り口も少しは華やかになるかもしれない。これは良さげな案だ。
「でも、いいんですか?」
「何がじゃ?」
「ますますダンジョンが、ユグドラシルさんが管理しているものだと思われてしまいますが……?」
「今さらじゃろ……」
「すみません……」
「構わん。では、その――二代目か? 二代目はダンジョンに置くとしよう」
「はい。ありがとうございます」
相変わらずユグドラシルさんは優しい。とても優しい。
どうやったら僕は、ユグドラシルさんに感謝を伝えられるのだろう?
……三代目等身大ユグドラシル神像を作るか?
「それじゃあとりあえずナナさんと相談して、置き場所を作ってから設置しようかと思います」
「うむ」
「ではでは、二代目の設置場所も決まったことですし、ニスを塗って完成させますね」
ニス塗り――本来ならこの作業だって相当な手間だろうが、僕には『ニス塗布』がある。一瞬でムラなく綺麗に塗れるのだ。サクッと塗って完成させよう。
「さて、どんな感じにしましょうかね。やっぱり明るめな感じで…………ん?」
「どうした?」
「いや、なんかこれ、もしかして……うん? んんん?」
なんとなく――『閃き』に似た感覚を得た。
スキルアーツや複合スキルアーツを取得したときほどの鮮烈な閃きではないが、何やらインスピレーションを得た。
「なんか、すごいことができそうです」
「すごいこと?」
そんな予感がする。試してみよう。このインスピレーションに従って行動してみよう。
というわけで――僕はユグドラシルさんをじっと見つめた。
「む?」
「…………」
「な、なんじゃ?」
ちょっとユグドラシルさんが照れ始めたが、しっかりつぶさに観察しつつ――
「いきます――『ニス塗布』」
「ん? ――な!?」
僕はユグドラシルさんの姿を脳裏に焼き付けながら、二代目に『ニス塗布』をかけた。
その結果――実際のユグドラシルさんの生き写しのような、とてもリアルな二代目等身大ユグドラシル神像が完成した。
「これは……」
「いや、これは、すごいですね…………ふふっ」
思わず笑ってしまった。そのくらいすごい。
肌や服の色や質感を、ニスでそっくり再現することができた。まるでユグドラシルさんが二人いるかのようだ。そのくらいの再現度である。
「なんとなく、そっくり写すようにニスを塗れる予感がしたんです。それで実際にやってみたのですが……我ながらすごいです。『ニス塗布』すごい」
「すごいというか…………うわ、こわ」
ユグドラシルさんは二代目にドン引きしている。
まぁ自分と瓜二つの等身大人形が間近にいたら、それは怖いか。
いやしかしすごいな。さっきからすごいしか言っていないけど、これはすごい。
髪の毛も本物っぽいもんな。すごいな『ニス塗布』。というか、やばいな『ニス塗布』。もうニスとかじゃないよねこれ。
「前々から『ニス塗布』はすごい進化を続けていると思っていましたが、ついに行き着くとこまで行った感があります」
「そうじゃのう……。ここまで自在に色彩を変えられるとは……」
「何か他のものでも試してみたいですね」
「ふーむ……」
何か他に、ちょうどよさげなものはないかな? どうしようか、フィギュアラックから人形を取り出して、一体塗り直してみようか?
そんなことを考えながら、僕は部屋を見回す。
「あ、そうだ」
「うん?」
「試しに――これを塗り直してみましょう」
「それは……」
玩具箱を探して、僕が取り出した物。
それは――
「セルジャン落としです」
「…………」
きっと、ニスを塗り直した結果を予想したのだろう。
僕が取り出したセルジャン落としを見ただけで、ユグドラシルさんはすでにドン引きしていた。
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