第234話 『パワーアタック』
レリーナちゃん曰く、『十五歳』『ワイルドボア』という単語に対して、僕はおかしな反応を示したらしい。
その後も僕は『十五歳』『ワイルドボア』以外に――『討伐達成』『ジスレアさん』『森』『外に出る』という単語にも反応してしまったらしい。
……キーワードを組み合わせると、もう答えが出ちゃいそうだ。
もはやバレるのは時間の問題――かと思いきや、どうも僕はこれらのワード以外に、『女医』『修道女』『水着』『泳ぐ』といった単語にも反応したらしい。
それらがうまくダミーのキーワードとして作用したため、僕はどうにかレリーナちゃんに世界旅行の件を隠し通せた。
運がよかったとは思うけれど、本当に僕はそんなワードに反応していたのだろうか……?
そんなワードにビクンビクン反応していたかと思うと、だいぶ恥ずかしい。
それにしても、再会一日目にして結構な綱渡りだ。
レリーナちゃんが十五歳の誕生日を迎えるまでの残り数ヶ月、果たして僕は秘密を守り続けることができるのだろうか。
そんな感じで、相変わらずスリリングなレリーナちゃんとの再会を果たした日の翌日、僕はジェレッド君との再会を果たした。
――で、さらにその翌日。
今日は教会である。一ヶ月ぶりに、僕は教会へとやってきた。
「着いた着いた。いやー、久々」
久々の教会だ。久々にローデットさんと会える。のんびりとした時間をすごせる。のんびりとだらだらと、無為な時間をすごせる。
ついでに鑑定も楽しみだ。なんといっても一応はワイルドボアの討伐を達成したわけだからね。
あれだけの強敵を倒したのだから、何かしらの変化があってもいいんじゃないだろうか?
そんな期待を胸に、とりあえず元気よく挨拶をしながら、僕は教会の扉を開けた。
「こんにちはー。久々にアレクでーす」
◇
「えー? 家から一歩も出なくていいって、楽でよさそうですけどー?」
「いやいや、大変ですって。それはもう退屈で退屈で」
「そういうものですかねー」
というわけでローデットさんとだらだらと無為な時間をすごす。
ああ、やはりいいな。のんびりとしたこの時間が、なんだかかけがえのないものに感じる。
たった数枚の硬貨でこの時間を買えるというのだから、教会とはなんと素晴らしい施設なのか……。
「あ、そういえばローデットさんは、森の外って行ったことありますか?」
ふと思い付き、少し気になったので聞いてみた。
どうなんだろう? もしあるのなら、軽くアドバイスをくれないだろうか?
「外ですかー。私はないですねー」
「あー、そうなんですか」
「基本的にエルフは、百歳まで森から出てはいけませんからねー」
「あぁそうですね、どうやらそうらしいですね。…………うん?」
いや、えっと……うん。百歳未満のエルフは森から出られないってのは知っている。父と世界旅行について話しているときに、それは教えてもらった。
それはいいんだけど、今それを言うってことは――ローデットさんは百歳未満なの?
え、そうなの? けど、そういうことだよね?
「あ、その――」
「はい?」
「……いえ、なんでもないです」
気にはなるけど、面と向かって年齢を聞くのはなぁ……。
というわけで正確な年齢はわからないけど、どうやらローデットさんは百歳に届いていないらしい。意外と若かったようだ。
……若いのかな? もしも八十代とか九十代とかだったりしたら、それは若いといっていいのだろうか?
そりゃあエルフ的には若いのかもしれないけれど、前世の感覚が抜けきらない僕としては、九十代を若いって表現するのはちょっと……。
「アレクさんは、森の外が気になるんですか?」
「え? あー、まぁちょっと」
まぁ気になっている。そのうち行くわけだし。
ちなみにローデットさんは、僕がそのうち世界旅行に出発することを知らない。僕がワイルドボアを倒したってことも知らない。情報をストップしているのだ。
村中にそのことが知れ渡ったら、当然レリーナちゃんの耳にも入ってしまうだろう。それはまずい。
そう考えた僕と父は相談して、情報を流さないことを決めた。極めて高度な政治的判断に基づき、情報を操作しているのだ。
……この情報操作の結果。僕達子供エルフ三人は、『瘴魔の刻だっていうのに、なんか外へ出て、謹慎をくらった子供達』って扱いになってしまっている。
「アレクさんはまだ十五歳ですから、森の外へ出られるまで、まだまだ時間がありますねー」
「そうですねぇ」
「あと八十五年ですかー」
「そうですねぇ……」
それがよかったなぁ……。僕もあと八十五年くらい故郷でのんびりしたかった。
百歳を過ぎてから、試しに見てくるくらいの感覚で旅をしたかった……。
「さて、それじゃあそろそろ鑑定しようかと思います」
「あぁはい。どうぞー」
ではでは、そろそろ鑑定だ。
残念ながら、僕が旅をするまで八十五年も残っていない。あと五年しか時間が残されていないのだ。ここらでサクッとレベルが上がっていたり、スキルを取得できていたら嬉しいね。
そんなことを願いながら、僕が鑑定用水晶に魔力を流すと――
名前:アレクシス
種族:エルフ 年齢:15(↑1) 性別:男
職業:木工師
レベル:22(↑1)
筋力値 16(↑1)
魔力値 12(↑2)
生命力 8
器用さ 29
素早さ 5
スキル
槌Lv1 弓Lv1 火魔法Lv1 木工Lv2 ダンジョンLv1
スキルアーツ
パワーアタック(槌Lv1)(New) パラライズアロー(弓Lv1) ニス塗布(木工Lv1) ヒカリゴケ(ダンジョンLv1)
複合スキルアーツ
光るパラライズアロー(弓)
称号
剣聖と賢者の息子 ダンジョンマスター
「あ」
「あ」
「おめでとうございますー」
「ありがとうございます!」
レベルが上った! そんでもってスキルアーツを覚えた!
やったぞ僕。レベルとアーツだ。結構な戦力アップだ!
「今回はずいぶん早いペースでレベルアップしましたねー」
「ええそうですね、そのようで」
ローデットさんの言う通り、今回のレベルアップのペースは相当早い。
やはり強敵ワイルドボアと長時間戦闘していた成果だろう。能力値の変化からも、そのことを読み取れる。
今回上った能力値は、『筋力値』一つに『魔力値』二つ。きっと何百回もワイルドボアに『パラライズアロー』を射った結果だ。チート回復薬を頼りに、これでもかというほど魔力を使っていたからな。
それにしても、『魔力値』が一度に二つも上がるのなんて初めてのことだ。というか、『器用さ』が上がらなかったことも初めてじゃないか?
「スキルアーツも取得していますねー。『パワーアタック』ですかー」
「そうですね。そんなアーツを取得したようで」
これももしかしたらワイルドボア戦が影響していたりするのかな? 思いっきりアレクシスハンマー1号でぶっ叩いたからなぁ。
しかし『パワーアタック』か。『パワーアタック』ねぇ……。
「どんなアーツなんですかね? ……まぁ名前から、だいたいの予想は付きますが」
「単純に破壊力が上がるアーツですねー。『弓』の『パワーアロー』と似た感じですー」
「やっぱりそうですよね」
「エルフには珍しい『槌』スキルのアーツですからねー、私も実際には見たことがないですー」
「そうなんですか。それでも知っているのは凄いですね」
さすがは解説キャラのローデットさんである。
……まぁそれはさておき、やはり単純に威力が上がるだけのアーツか。
うーん。いやー、なんかなー、なんかちょっと微妙って感じちゃうんだよな……。あんまり面白みを感じないというかなんというか……。
いや、強いとは思うんだ。効果は単純だけど、強力で有用なアーツだとは思う。
ジェレッド君の『パワーアロー』を見ていても、そんなことは思っていた。単純で純粋に強いアーツだとは思っていた。
……そして、地味で普通だとも思っていた。
そんな地味で普通のスキルアーツを、今回僕も取得してしまったわけだ……。
――いや、まぁ良しとしよう。こうやって鑑定結果を眺めていても、破壊力のあるアーツとか今まで僕にはなかったしね。
そもそも悪くはないアーツなんだ。シンプルに強くて、使い勝手は悪くないと思う。
あぁ、そうだ。できたらあれだな、『パラライズアロー』と融合してくれたら嬉しいな。
複合スキルアーツとして、パラライズアタックとか、パワーパラライズアローとか、そんなのを覚えてくれたら嬉しいかな。
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