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チートルーレット!~転生時に貰ったチートがとても酷いものだったので、田舎でのんびりスローライフを送ります~  作者: 宮本XP


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第230話 エルフの掟


 ワイルドボアとの激闘が終わった。


 どうにかワイルドボアの討伐に成功した僕とジェレッド君。そのまま解体作業に入るか否かを話し合っている途中で、父とレリーナちゃんが救助に来てくれた。


 僕達がワイルドボアを討伐したことに大層驚いている様子の父だったが、ひとまず僕は父にお願いして、ワイルドボアを解体してもらった。


 そうして無事に解体が終わったところで、僕達四人はそそくさと森を撤収した。


 ――それが、二週間前のことだ。


 あの激闘から、二週間が経過した。

 濃くなっていた森の瘴気(しょうき)もすっかり元に通り、光化学スモッグ注意報も解除されている。

 子供エルフ向けに発令されていた、村の外への移動禁止令も解除された。


「まぁ、代わりに外出禁止令が発令されたのだけど……」


 村の外に出ないよう言われていたのに、結果として僕達子供エルフは全員が村の外へ出てしまった。

 その罰として、子供エルフ全員に一ヶ月間の自宅謹慎(きんしん)処分が下された。


 村の外への移動禁止は解かれたが、そもそも家の外への移動が禁止されてしまったわけである。


「八年ぶりの自宅謹慎か……」


 確か六歳の頃に、僕は自宅謹慎処分をくらった。今回が二度目。八年ぶり二度目の自宅謹慎だ。

 あのときは三週間の謹慎だったけど、今回は一ヶ月。あまりに長い。


 とはいえ、仕方ないと思うし納得もしている。甘んじて受け入れよう。


「だけどレリーナちゃんには悪いことをしちゃったな」


 彼女はちゃんと『村から出ちゃうから戻ろう』と提案していたのだ。

 だというのに僕に付き合わせたために、レリーナちゃんまで謹慎処分になってしまった。あとでしっかり謝らなければいけないだろう。


 そんなわけで、謹慎中の僕は反省しながら家の中で黙々と木工作業に勤しんでいた。黙々と人形やら浮き輪なんぞを作っている。

 あとはギターの練習なんかもしたいのだけど……謹慎中にギターはさすがに楽しみすぎな気がする。そこは自重だ。


 そして今日は人形作り。少し前にフルールさんから貰った木材で、等身大の人形を作っている。

 やっぱり等身大人形は時間がかかるのだけど、もしかしたらこの謹慎期間中に完成するだろうか? 無理かな? どうかな?


「アレクー」


「うん? はーい」


 木を削っていたら、部屋の外から父の声が聞こえた。僕は返事をしながら部屋のドアに向かう。


「どうしたの父?」


「今ちょっといいかな?」


「いいよ?」


「じゃあ、リビングまで来てくれるかい? 少し真面目な話があるんだ」


「真面目な話?」


 真面目な話……?

 いったいなんの話だろう。僕は真面目な話があんまり向いていないタイプの人なんだけど、大丈夫かな……。



 ◇



 父に連れられてリビングまでやってくると、そこには母と――


「あ、ジスレアさん。こんにちは」


「やぁアレク」


 美人女医のジスレアさんがいた。何やら母と仲良さげに話していた。


 ジスレアさんは母と仲が良く――それこそ一緒に狩りへ出かけるほど仲が良いので、我が家にもちょくちょく遊びにくる。


「あ、そういえば、この間は母と一緒に――」


「……母?」


「この場合の『母』は適切でしょうよ……」


「まぁ、そうね」


 ジスレアさんと軽く会話をしようとしたら、母がカットインしてきた。僕が母を『母』と呼んだのが気になったらしい。

 とりあえず今回の『母』呼びは適切だと納得してくれたようでホッとする。さすがにジスレアさんの前で『ママ』呼びは苦行すぎる。


「えぇとそれで、母と一緒にお肉を獲ってきてくれたそうで、ありがとうございました。美味しくいただきました」


「うん。ならよかった」


 森の瘴気が濃くなっていた期間に、母とレリーナママとジスレアさんの三人は狩りへと出掛けていった。


 そして――とんでもなく美味しいお肉を確保してきた。

 それはそれは美味しいお肉だった。美味しすぎて怖いほどだった。なんか危ねぇ成分でも入っているんじゃないかと心配になるくらい美味しいお肉だった。


 僕達が討伐したワイルドボアのお肉も美味しかっただけど……正直レベルが違った。比べるのもおこがましいレベルで、まるっきり格が違った。


 ……いや、ワイルドボアだって美味しかったのだ。苦労しただけに、より美味しく感じられたのだ。

 だがしかし、そんなワイルドボアが革靴の底に感じられるほど、あのお肉は美味しかった。あのお肉を食べたのがワイルドボアを食べた後でよかったと、そのタイミングに感謝した記憶がある……。


「さて、それでアレクに話したいことなんだけど――」


「あ、うん」


 おっと、そうだった。真面目な話があるんだった。真面目に聞かねば。


 ……それはいいんだけど、ジスレアさんもここにいるのに話し始めるのか。

 恥ずかしい話とかじゃなければいいな……。


「二週間前に、アレクはワイルドボアを仕留めたね?」


「うん」


「ワイルドボアを倒したということは――もう一人前の立派な狩人だね?」


「うん……うん?」


 そうなの? そりゃまぁワイルドボアを倒すってのは、容易(ようい)なことじゃないと思うけど……。


 というか――


「なんか前にも似たことがあったね。あれは……ボアかな? 普通のボアを倒したときにも、父から同じようなことを言われた気がする」


「……()えてるねアレク。(かん)が鋭い」


「そうなんだ」


 勘が鋭いとか、生まれて初めて言われた。

 そうなのか、鋭いのか。いまだかつて、僕の勘が鋭いことなんてあっただろうか……。


「えぇと、つまりどういうことなの?」


「ボアのときと同じでね、決まりなんだ。『ワイルドボアを倒したら、一人前の立派な狩人』っていう」


「決まり……? あぁ、またあれかな? エルフの(おきて)みたいなやつ?」


「うん。まぁ」


 確かボアのときは、『一人前の狩人だから、一人で狩りをしてもいい』って許可が出たんだ。

 それで僕はルクミーヌ村まで一人で移動してもいいってことになった。


「じゃあもしかして、また許可が出るのかな? どこか他の村へ行っていいとか、そういうこと?」


「うん。まぁ他の村というか……世界?」


「……世界?」


「他の世界――人界とか、魔界とか」


「え?」


 人界とか、魔界とか……?


 え、なんだそれ……。僕としては、『ボアのときはルクミーヌ村だったから、もしかしたらクレイス村あたりまで出歩いてもいいのかな』――なんてことを考えていたのだけど、そんなレベルじゃなかった……。

 世界って、世界って……。えぇ……?


 ……というか、段階がおかしい。

 最初に開放されたのが隣村で、なんでその次が世界なんだ……。もうちょっと刻もうよ。もうちょっと間に挟もうよ……。





 next chapter:同行者

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