第228話 ツンデレ幼馴染2
「やー! あっ……」
とりあえずタワシをワイルドボアに投げつけてみたところ――普通に当たって、そのまま地面に落ちた。
ワイルドボアにもタワシにも、特に変化は見られない。
「えぇ……。って、うおっ」
僕のタワシ投擲を物ともしないワイルドボアが、真っ直ぐ僕の方に突っこんできて、壁に激突した。
――レリーナちゃんが作ってくれた『アースウォール』だ。
「おぉ、さすがレリーナちゃんの『アースウォール』だ。なんともないぜ」
結構な振動がこちらまで伝わってきたけれど、『アースウォール』はしっかりとワイルドボアの突撃を止めてくれた。
一度は突進を止められたワイルドボアだが、壁を迂回するつもりもないようで、何度も壁に頭突きをくらわせている。これが猪突猛進ってやつなのか……。
「それにしても、タワシはダメだったな……」
なんでだ? 発動条件を満たしていなかったのか?
……もしや、やっぱりタワシはただのタワシなのか? チート性能なんてものはないのか?
いや、そうは思いたくない。それは認めたくない……。
「もしかして防御用なのかなぁ……あ」
何度目かの突撃で、『アースウォール』が破られてしまった。
さすがにそこまで長時間耐えるのは無理だったか……。
仕方なく僕は突進してくるワイルドボアに対し、アレクシスハンマー1号を振りかぶり――
「どっせーい! ――痛ったい!」
思いっきり横殴りでワイルドボアにカウンターを決めて、ワイルドボアを転ばせることに成功した。
しかし、自分の体――特に肩の辺りに、とんでもない衝撃が走った。
一瞬外れたんじゃないかな……もう治ってはいるけど……。
「うへぇ、これを続けるのか……。ちょっと大変そ――」
「『パワーアロー』!」
「うおっ」
なんか上から降ってきた。ジェレッド君だ。ジェレッド君が上から降ってきた。
どうやら木から木を移動してきて、真上からワイルドボア目掛けて飛び降りたらしい。
その際、手に矢を持って、落ちながら矢切りで『パワーアロー』発動させたようだ。
無茶するなぁジェレッド君……。竜騎士か何かかな……?
「おおう、まだ生きてる」
ジェレッド君渾身のジャンプ攻撃を受けても、未だワイルドボアは健在だ。
……まぁ、今のでとどめを刺されていたら、僕としては釈然としないものがあっただろう。
ここまで頑張ってきたというのに、最後の最後でいいところをジェレッド君にもっていかれたら、それはさすがにちょっと不満。
「アレクどうした!? 矢が切れたか!?」
「あと十本くらい!」
「俺の矢を使え! 俺の方は弓が壊れた!」
あ、そうなのか。それでジェレッド君は木の上に退避して、しょんぼりしていたのか。
そんでもって僕が急に接近戦を始めたから、慌てて竜騎士めいたことを始めたわけだ。
「じゃあちょうだい! 矢を、僕のウエストポーチに!」
「ウエストポーチ?」
「え? あ、ボディバッグ?」
腰に付けた矢筒代わりのマジックバッグに矢を補充してもらいたいんだけど……ウエストポーチって、もう死語なんだっけ? 確か前にナナさんからも鼻で笑われたな……。
「とにかく腰の『パラライズアロー』」
危ねぇ……。ジェレッド君のジャンプ攻撃から立ち直ったワイルドボアが、またこっちに狙いを定めていた。
「腰のマジックバッグに『パラライズアロー』」
「おう」
「ジェレッド君の持っている『パラライズアロー』」
「俺の矢を入れたらいいんだな?」
「ありがとう『パラライズアロー』」
三秒しか麻痺が続かないので、会話するのも一苦労だ。
なんだか語尾に『パラライズアロー』を付ける人みたいになってしまった。最終的に『パラライズアロー』に感謝しているみたいになっちゃったし。
とりあえずジェレッド君は僕の言いたいことを理解してくれたようで、自分のマジックバッグから僕のマジックバッグへ、せっせと矢を移してくれている。
よしよし。これで矢の心配はなくなったぞ。
これでも足りなくなりそうだったら、そこら辺に散らばった矢をジェレッド君にかき集めてもらおう。
それじゃあ――全力全開『パラライズアロー』コンボの再開だ!
「パラダイスアロー、『パラライズアロー』、『パラライズアロー』、『パラライズアロー』、『パラライズアロー』、『パラライズアロー』、『パラライズアロー』、パラダイスアロー、『パラライズアロー』、『パラライズアロー』」
ふははははは。豚め、もう矢が尽きることもない。何千発でも射ち続けてやる――!
◇
「『パラライズアロー』、『パラライズアロー』、パラライズ……おや?」
僕が延々と『パラライズアロー』を射っていると、ワイルドボアがパタリと地面に倒れ伏した。
「お、やったか?」
「あ、それ……」
「どうした?」
「いや、なんでもないよ。やっつけたみたいだね」
迂闊にもジェレッド君が敵の生存フラグを立ててしまったが、それでもワイルドボアは動かない。どうやら本当に倒したようだ。
「終わったみたいだな」
「そうだね、終わったね……。疲れた。さすがに疲れた」
回復薬が効いているので、肉体的な疲労はない。とはいえ、やっぱり疲れた気がする。
今日だけで何百回『パラライズアロー』を放っただろう。何百回『パラライズアロー』と叫んだだろう。
回復薬がなければ、腕とか指とか喉がボロボロになっていただろうな。
「なぁアレク、いったいどうなってるんだ? なんかずっと『パラライズアロー』を連発してたけど」
「あー……うん。薬を飲んだんだ――ユグドラシルさんに貰った薬」
まぁ、こう言うしかないよね……。ごめんなさい、ユグドラシルさんごめんなさい。
「世界樹様から貰った薬?」
「怪我を治したり、失った魔力を回復してくれる貴重な薬なんだ」
「それでずっとスキルアーツを……」
「あ、この薬のことは内緒にしてね? たぶん話が広まったら、すごく迷惑かけちゃうから……」
「そうだな。見ててもすげぇ効果だった」
使った僕自身そう思う。実戦で使ったのはこれが二回目だけど、凄まじい効果だった。スキルアーツ連打はやばいね。
「そういえばジェレッド君は大丈夫? 怪我してない?」
「ん? あぁ大丈夫だ。ちょっとだけ足を痛めたけどな」
ジェレッド君は足首をくじいたらしい。きっとあのジャンプ攻撃のときだ。結構な勢いだったし、かなりの高さから飛び降りたのだろう。
「よかったら薬を使う? たぶんすぐ治るよ?」
「別にいいよ、貴重な薬なんだろ? 薬草貼ったし、もう痛みもほとんどない。なんだったら村に戻った後、回復魔法を使ってもらうさ」
「そっか。……あ、だけど今はジスレアさんが村にいないはずだけど?」
「……いや、村には他にもヒーラーいるからな?」
「あれ?」
あ、そうか。そういえばいたっけか。
男性のお医者さんなので寄ることもあんまりなかったけど、確かいた気がする。
「けどまぁ、ありがとうな?」
「うん」
「あと……なんだ。その、ありがとうなアレク。助けてくれて」
「……うん」
デレてる。ジェレッド君がデレている……。そんなふうにジェレッド君にデレられてもな……。
……というか、なんだろうね、なんでジェレッド君なんだろう。
今回僕は、『幼馴染のピンチに駆けつけて、窮地から救い出す』なんて役を演じたわけだけど……こういうのって、普通相手は女の子の幼馴染じゃないの?
何故ジェレッド君なんだろう。何故男の子の幼馴染なんだろう……。
いや、いいんだけどね別に……。ジェレッド君が無事でよかったよ、うん……。
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