第21話 父からのプレゼント
神的な存在との交信を報告しなかった罰により、謹慎処分を受けてから一週間、僕は退屈を持て余していた。
なかなかつらいものがある、あと二週間もこれが続くと思うと気が滅入る。……まぁ罰だしそれでいいんだろう、楽しかったら罰にならない。
とはいえ、何もせずただ家で日々が過ぎるのを待つのはさすがにつらい……。
前世では、家で一人ぼんやりしていても何も問題はなかった。パソコンとネットさえあれば、何時間でも楽しく過ごせたんだけど……今は外に出たくてたまらない。思えば僕は、ずいぶんアクティブな人間になったようだ。
しかし、つらいことだけではなかった。この一週間で幼馴染のレリーナちゃんが三回、ジェレッド君は一回遊びに来てくれたのだ。
僕が禁固刑をくらっていることを伝えると、ジェレッド君はさっさと帰ってしまった、薄情だなジェレッド君……。まぁ彼と遊ぶときは大抵が外なので、外出できないなら仕方ないと思ったのだろう。
優しいレリーナちゃんとは家の中で一緒に遊んだ。謹慎中ではあるが、母は遊びに来た友だちを追い返すまでのことはしないようだ。
そんなわけで、いつものようにおままごとをしていたが……家の中なので母の目が気になってしまい、どうにも調子が出ない。結果、精彩を欠くおままごとになってしまった。
レリーナちゃんはそんな僕に『こんな日もあるよ、次は頑張ろうね?』なんて声を掛けて慰めてくれた。レリーナちゃんにとっておままごととは、いったいなんなのだろうと軽く疑問をもつ。
とりあえずやっぱり外へ出たいね……。
「やぁアレク。だいぶつらそうだね」
部屋で悶々としていると、父が慰問に現れた。
「あぁ父。うん、納得はしているけど、三週間は長いね……」
「今日はそんなアレクにプレゼントを持ってきたんだ」
「え、なんだろう?」
というか僕は一応罰を受けている身なわけで、そんな僕を気遣ってプレゼントを与えることは、あまり良いことではないのでは? まぁ優しい父は、だんだんと目が死んでいく息子を見ていられなかったのだろうけど。
「この中にいろいろ詰めたんだけどね」
父は手に持った布製の袋を僕に見せた。……魔石が取り付けられている。つまりは――マジックバッグだろう。
この世界にはマジックバッグが存在している。見た目以上にアイテムを収納できるアレだ。時間経過はあるが、重量は大分軽減され、外見の何十倍もの内容量がある。
ちなみに、魔道具は取り付けられた魔石に魔力を流し、効果を発揮させるのが通常だ。しかしマジックバッグは常時効果を発揮させ続けなければならないタイプの魔道具なので、魔石に大量の魔力を注入し、長時間効果を持続させる。
魔力が切れると中のものが爆発したように突然周囲に飛び散る――なんてことはないけれど、残存魔力が少なくなると、中の物をちょびちょび勝手に排出しだすらしい。
詰められる容量や、軽減できる重量、消費魔力も作り手によってまちまちで、一概にマジックバッグといってもその品質はピンキリだ。なかには食品向けに、冷蔵機構を追加したマジックバッグなんかもあるらしい。よりユーザーのニーズに答えるため、日夜メーカー側の研究が続けられている……のかなぁ、なんて勝手に妄想している。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
父に渡されたマジックバッグの口を開け、中を見てみる。中は……木? ナイフやノコギリ、ヤスリ、ノミ……おぉ、彫刻刀みたいな物も入っている――これは、父特製『木工』セットか!
「すごい! ありがとう父!」
「うんうん、喜んでくれてよかったよ。ナイフはダメだって言ったけど、『木工』スキルをもっているなら、まぁいいかなって」
うれしい。『木工』スキルに触れることができるし、この退屈な毎日から抜け出すことができる。……って、抜け出していいんだろうか? 罰では?
「けど、いいのかな? 僕は今、罰を受けている最中なのに」
「ミリアムとも話したけど、いいってさ。まぁ家から出ないことが罰で、家にいるのなら少しは楽しんだっていいんじゃないかな?」
父はイタズラっぽく笑って僕にウインクした。
おぉ……その笑顔でウインクとか凄い。破壊力抜群だ。そもそもウインクなんて、イケメンにしか許されないぞ?
一応僕もイケメンではあるけど、正直そんな仕草ができるようになるとは到底思えない。どうにも前世の佐々木が抜けないのだ。……いや、別に佐々木はブサメンではなかったけど、それは今一度明言しておきたいけど。
「アレク?」
「いや、なんでもないよ、ありがとう父!」
「うんうん。問題ないと思うけど、やっぱり刃物は危険だから、最初は僕かミリアムの前でやるようにね?」
「うん、わかった」
父は笑顔で僕の頭を撫でた後、玄関へ向かった。これから森へ狩りに行くのだろう。僕は外出禁止を破らないように扉のギリギリに立ち。精一杯手を振って送り出す。
それから母を探すが、どうやら庭で植物の世話をしているようだ。母はエルフらしく植物が好きだ。庭には家庭菜園が広がっており、いくつか食べられる野菜やハーブ、観賞用の綺麗な花も育てている。
そして隅っこの区切られた一画、絶対に入ってはいけないと言われていて、そこでは用途不明な草花が育成されている……。
『両親の前以外で禁止』を守るためといっても、わざわざ作業中の母を邪魔するのもよくないだろう、こちらは謹慎中の身だ。仕方なく僕は家の中で道具の確認だけすることにした。
というか、綺麗な花を愛でている母ならまだしも、怪しげな草花を手入れしている母には話しかける気にはなれない、なんか怖くて……。なんだかあの一画は、遠くからでも禍々しい気配を感じる……。
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