第207話 ダンジョン会議2
僕とナナさんによる、かれこれ何十回目のダンジョン会議。
白熱した議論の末、ついに4-1エリアのフィールド属性が決定した。
「では、4-1は――川フィールドということで」
「そうしよう」
4-1エリアは川フィールドに決定した。
正直、高尾山にはなにやら強く惹かれるものがあったのだけど……今回は川フィールドでいこう。
高尾山フィールドは次回ということで。
「それではそれ以外の設定も決めていきましょう。フィールド全体の大きさはどうしますか?」
「んー。まぁ五キロでいいんじゃない?」
2-1も3-1もそうだったし、五キロでいいだろう。
「わかりました。4-1も直径五キロの円形フィールドということで」
「うん。フィールドの真ん中に入り口と出口さえ置いておけば、何キロだろうが関係ないしね」
「では今回もフィールド中央に扉を設置します。五十メートルほど離せばよいのですね?」
「うん」
――2-1の森フィールドを作製した当初、入り口と出口はフィールドの端っこにあった。
1-4へ続く扉をフィールドの端っこに設置し、2-2へ続く扉は反対側のフィールドの端っこに設置したのだ。
つまり、扉から扉まで五キロもあったのだ。
いくら僕が森フィールド愛好家だとしても、さすがに毎回その距離を歩くのは面倒だ。やってられない。
というわけで、メニューをいじって両方の扉をフィールド中央へ移動させた。
3-1の平原フィールドも同様に、フィールド中央に両方の扉を五十メートルほど離して設置してある。
これで、ダンジョンマラソン中も楽々と移動できるってわけだ。
「五キロは長いですからね」
「五キロは長いよね」
「マスターには長いですよね」
その言い方は、ちょっと引っかかるんですけど?
「あと道ですね。道はしっかり作らないと」
「あーそうね。また中央から放射状に道を引こうか」
「そうしましょう。道は大事です」
ここまでナナさんが道の大切さを説くのには、理由がある。
以前ナナさんが一人で2-1の森フィールドを探索しているときに――うっかり遭難してしまったらしいのだ。
「あのときの恐怖は忘れられません。私以外の被害者を出さないためにも、道は必要です」
「そうだねぇ。森ならまだしも、他のフィールドだと僕等も迷うかもしれないし」
僕等エルフは森を歩くための能力が標準で搭載されているため、森の中で迷うことはありえない。森フィールドで迷うようなエルフはいなかった。
しかしナナさんは違う。村で唯一エルフ族ではなく、森歩きの能力をもっていないナナさんは、巨大な森で遭難してしまった。
「あのときは、思わずちょっと泣いてしまいましたよ」
「まぁ怖いだろうね……」
直径五キロの巨大な森フィールドで迷ったら、確かに怖い。絶対森から出られない気がする。
ちなみにナナさんは、しばらく迷って――本人曰く泣きながら迷った後、ダンジョンメニューで僕に救助を求めた。
『ダンジョンのメニュー式メッセージ通信』――ダンジョン名を変更してチャットを飛ばす例の通信方法を用いて、救助を要請したのだ。
そのときのダンジョン名は、『ナナピンチ森で迷ってあすみません大丈夫そうですダンジョン』だった。
句読点が打てないのでわかりづらいメッセージだが、『ナナピンチ。森で迷って――あ、すみません。大丈夫そうです』と、言いたかったのだろう。
どうもダンジョンメニューを開いてメッセージを打ち込んでいる途中で、メニューのマップ機能を見たらいいと気付いたらしい。
メニューに表示されたマップと、マップに表示されている自分を確認しながら森を進むことで、事なきを得たそうだ。
「それでは、4-1エリアは直径五キロの円形フィールド。中央に扉を置き、そこから放射状に道を引きます」
「うん」
「そして、大小様々な河川を何本も流します」
「うんうん」
「湖も複数作るということで」
「いいねー」
よしよし。だいぶ4-1エリアの構成が固まってきたな。
しかし、道と川がたくさんあるってことは、橋とかもたくさん作らなきゃかな?
湖はどうしようかな。道が湖が重なったところはどうしたものか……。
「湖……いっそのこと、フィールドにプールを並べてしまいますか?」
「ん? プール?」
プールとな……?
いや、それはどうなんだろう。それはなんか違う気がする……。
「そこまで人工的なレジャー施設にしてしまうのは、ちょっと違う気がする……」
「そのこだわりがよくわからないのですが。結局のところ、レジャー施設っぽいフィールドを目指しているわけですよね?」
「そうかもしれないけど、一応は自然な感じのフィールドにしたいんだよね」
「自然な感じですか……」
ダンジョンという体裁は保ちたい。ダンジョン内の自然エリアという建前は、崩したくないんだ。
「だけど、プールっぽい施設は良いと思う。レジャープールっぽいのは、たくさん作りたい」
「と言いますと?」
「流れるプールは是非とも作りたい。水がぐるぐる回っている湖を作ろう」
「水がぐるぐる回る湖……」
あぁ、良いなぁそれ。
我ながら良い案だ。浮き輪とかに乗っかって、のんびりぷかぷかと流されたい。
「あ、あとやっぱり水難事故が怖いからさ。すべての湖と川は、足が付く深さにしよう」
「すべて足が付く深さ……」
なにせ安心安全を売りにしているダンジョンだからね。その辺は気を付けたい。
「水がぐるぐる回っている、足が付く湖ですか」
「うん」
「もう自然ではないですよね?」
「…………」
……まぁ、どう考えても自然界には存在しないな。
「えっと……下を土の地面にして、魚とかも泳がせたら、だいぶ自然だと思うんだ」
「いえ、別にいいですけどね……」
自然とプールの両立は難しいな……。
シャワーとか更衣室とかも作りたいんだけど、いったいどう両立したものか……。
「まぁ自然はともかくとして、安全対策はしっかりしておきたいな」
「それはもちろんですが、そこまで神経質になることもないのでは? ここの人達はどうやったって強いですよ? 前世基準の安全対策は、過剰な気もします」
「そう言われたらそうなんだけどさ」
けどやっぱり、このダンジョンで事故は起きてほしくないから……。
このダンジョンに来る人なんて、ほとんどみんな知り合いだしさ。
「うーん……。とりあえず救助ゴーレムには、監視員をやってもらおうかとも考えているんだけど」
「監視員というと……ちょっと高い台からプールを眺めているアレですか?」
「うん。高い台からプールを眺めてもらって、いざというときにはプールに飛び込んでもらおうかと」
「ちょっとした隕石じゃないですか」
隕石て……。
いやまぁ、確かにちょっと危ないかな? 飛び込みはやめておこうか。
というか、すべての湖に救助ゴーレムを配置するのは、さすがに現実的じゃないかな。
とりあえず数は多めにして、いつものように歩きまわってもらおう。
それで、溺れる人を察知する能力とかも設定しようか。あとは泳ぐ能力かな? 水陸両用だな。水陸両用救助ゴーレムに設計しよう。
いくらするんだろう……? 絶対高いだろうな……。
next chapter:ビキニ




