第198話 『剣』スキルの謎
朝の訓練で、初めて槌を使ってから二週間。
あの日から僕は朝練で、剣術稽古とハンマー術稽古を代わりばんこでこなすようにしていた。
なんだかハンマー術稽古の日は、ほんのちょっぴり父のテンションが低めな気もするが、毎日ローテーションしている。
そして今日は剣術稽古の日。父のテンションが、ほんのちょっぴり高めな日。
僕はなんとか父から一本取ってやろうと、必死に剣を振り回していた。
「やっ! はっ!」
「うん」
「ぬぬ!」
一撃目の袈裟斬りは剣で防がれて、二撃目の右胴は躱された。
そして父からの反撃――カウンターの逆袈裟は、剣で払うように受け流す。
やっぱり僕は『器用さ』が高いからね。高い『器用さ』を活かして、技術で応戦せねば。
「てーい! てーい!」
「うんうん」
父の剣をいなしてから、今度は僕が猛反撃。
父にはあっさり防がれてしまったけど、どうにか主導権を握ろうと奮闘する。
それにしても、やっぱり剣術稽古中の父は楽しそうに見えるね。
それ自体は別にいいんだけれど、いつかは剣で父をもっと焦らせたいところだ。
◇
「お疲れ様」
「ありがとうございました」
朝の剣術稽古が終わり、僕は父に礼をした。
残念ながら、今日も大して父を焦らせることはできなかった。
剣以外のことでなら、結構な頻度で父を焦らせている気もするんだけどな……。
「うーん……」
「父? どうかした?」
「なんでアレクは『剣』スキルを覚えないんだろう……」
「なんでって……」
それは僕が聞きたい。
父が『もうすぐ剣スキルを取得できる』と言ってくれてから、かれこれ二ヶ月近くが経とうとしている。
だというのに、僕は未だにスキルを取得できていない。いったいどうなっているのだ父よ。
僕も僕なりに、なんとか『剣』スキルを取得しようと頑張っている。
最近では、勇気を出して剣でモンスターの討伐なんかもしているのだ。
……まぁ、基本は『パラライズアロー』で麻痺させたモンスターを剣で叩くだけだったりするけれど。
遠距離から『パラライズアロー』でモンスターの動きを止め、それから世界樹の剣で突撃するスタイルだ。
ちなみに突撃する際は、右手に世界樹の剣、左手には矢を持っている。
弓のスキルアーツは矢切りでも発動してくれるので、剣で叩いている最中にモンスターの麻痺が解けそうなら、追加で矢切り『パラライズアロー』をくれてやる。
――正直な話、剣で戦っている感覚はあんまりない。
とはいえ、一応は剣で戦っていて、剣でモンスターを討伐していることに変わりないはずだ。
だがしかし、そんな努力も虚しく、僕は未だに『剣』スキルを取得できていない。何故なのだ父よ。
「父。父よ」
「え? うん」
「父は、二ヶ月前に言ったよね? もうすぐ『剣』スキルを取得できるって」
「うん」
「遅くても数ヶ月以内には取得できるって、言ったよね?」
「うん……」
父が言った『もうすぐ』は、エルフ的な『もうすぐ』で、実際には十年以上先なのではないか――そんなことを心配した僕は、改めて父を問い詰めてみた。
そのときに父が言った言葉が――『遅くても数ヶ月以内』である。
それで安堵した僕だったけれども……すでにその言葉から二ヶ月が経とうとしている。
本当に数ヶ月以内に取得できるのだろうか? どうなのだ父よ。
「いや、僕もよくわからなくて……。さっきの訓練を見る限り、本当に取得していてもおかしくない――取得していなきゃおかしいレベルなんだ」
「だけど、昨日教会で鑑定してもらったときも取得していなかったよ?」
「だから僕も不思議で……」
父もよくわからないのか……。
何故取得できないのだろう? いったいいつになったら、僕は『剣』スキルを取得できるのだろう?
もう僕は教会でローデットさんに、『剣スキルを取得できそうだ』と伝えてしまったというのに……。
そしてすでにローデットさんに褒められてしまった後だというのに……。気持ちよくしてもらった後だというのに……。
このままでは、僕はローデットさんに嘘を吐いたことになってしまう。嘘を吐いて、気持ちよくしてもらったことになってしまう……。
「……あ」
「ん?」
「ひょっとして……僕には才能がないのかな?」
「才能?」
「ローデットさんから聞いたんだ。才能がないと、どれだけ努力してもレベルが上がらないって」
スキルのレベルを上げるには途方もない時間がかかって、その上才能がないと上がらない。――以前ローデットさんから聞かせてもらったスキル講座。その中で教えてもらったことだ。
「才能がないと、木こりにはなれないって……」
「木こり?」
「あ、ごめん。木こりじゃないや」
何故かローデットさんは木こりで例えてくるからな。そのせいで、ついうっかり。
「とにかくさ、僕に『剣』スキルの才能がないから、どれだけスキル取得に近付いても、レベル1にならないんじゃないかって……」
例えるなら――『剣』スキルレベル0.999999……。
そんな感じで、ストップが掛かっているんじゃないだろうか?
才能がないため、そこからはどうやっても上がらず、レベル1にはならないんじゃないだろうか……。
限りなく近付きはすれど……永遠に1にはならない。
もしや、そんなことが……?
「それはないと思う」
「あれ? 違うの?」
「二ヶ月前の時点でも、アレクはレベル1相応の技量があった思う。それから二ヶ月経って、今でもアレクの剣は進歩し続けているよ?」
「あ、そうなんだ」
じゃあ別に、才能限界的なもので止まっているわけでもないのか。
「だから不思議なんだ。もう明らかにアレクは『剣』スキルレベル1を取得していなきゃおかしい。その上どんどん成長している。それなのに、まだスキルを取得していない……」
「うん……」
「昨日の大槌よりも、上手く剣を扱えていると思うんだけど……」
「うーん……」
ちなみに大槌も、なかなか悪くはないと言われている。
僕としては隙だらけでダメダメだと思ったけれど、父はそこまで悪いと思わなかったそうだ。
父相手では掠りもしなかった僕の大槌だけど、『少なくともこの辺りのモンスターなら、まず躱せない。たやすく討伐できるはず』と、父から太鼓判を押してもらった。
ついでに父からは、『柄の方を使うんだ』とのアドバイスも貰った。
僕としてはそのアドバイスに対し、『何言ってんだこの人』と思ったのだけど――なかなかどうして、柄を使うと調子がいい。
ただやみくもに大槌を振り回すだけではなく、柄を使った突き攻撃や、ヘッドの重さも利用して、テコの原理を用いて素早く柄で払う攻撃。
これらの動きも取り入れて、うまく隙を消すことも学んだ。
――しかし、それでも父からすると、槌より剣の方が良いと言う。
しっかりレベル1のスキルを取得している槌よりも、スキルを取得できていない剣の方が上手く扱えていると父は言う……。
果たしていったい、何がどうなっているのか……。
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