第188話 鼻の下を伸ばす
あけましておめでとうございますヽ(ΦωΦ)ノ
チートルーレットで『槌』スキルを手に入れてから、二週間が経った。
「いよいよ鑑定ですね」
「うん」
「そしてマスターは――土スキルの取得を知るのですね」
「そうね」
ナナさんの言う通り、僕はこれから教会で鑑定をしてくるつもりだ。
そこで僕は初めて『槌』スキルを取得していたことを知る――ということにする。
「これでようやく本格的に『槌』スキルを活用できるよ」
「よかったですね、マスター」
「うん」
今までは、家の中でこそこそ木工作業をすることしかできなかった。
しかし鑑定後は違う。大手を振って槌を振るうことができる。
「キャバに行った後は、そのままホムセンですか?」
「キャバにホムセン……」
どうなのよ、その呼び方は……。
まぁ大本を辿れば、ナナさんの物言いは僕の責任なのかもしれないけど……。
「えぇと、最初はそのつもりだったんだけどけどね。教会で鑑定が終わったら、いったん家に戻ってくるよ」
「そうなのですか?」
「教会で『槌』スキルのことを知りました。なので雑貨屋で槌を買ってきました――ってのは、あまりにも話が急すぎる気がしない?」
「まぁ、そう言われると」
「だから鑑定後に一度戻って、父と母に報告しようと思うんだ」
父と母に『槌』スキルの取得を報告してからだね。槌を買いに行くのはそれからだ。
「お祖父様とお祖母様は、土スキルの取得にどんな反応を示すでしょうか」
「どうだろうね……。わかんないな、まぁ驚くとは思うけど」
剣聖である父としては、息子の僕が『剣』スキルよりも先に『槌』スキルを覚えたことを、少し残念に思うかもしれない。
母は…………わかんない。
そもそもの話、僕が母の行動を正確に予想できたことなんて、一度たりともない。
「そういうわけで、とりあえず行ってくるよ」
「行ってらっしゃいませマスター」
「あ、ナナさんも一緒に行く?」
「行きません」
「…………」
にべもなく断られた。そんなキッパリ言わなくても……。
「キャバ嬢にデレデレしながら、鼻の下を伸ばす父の姿を見たがる娘が、どこにいるというのですか」
「いや、別にそんな……。そこまでは伸びていないと思うんだけど……」
「ちょっとは伸びていることを、自覚しているのですか……」
それはまぁ……。いかんせん相手は百戦錬磨のナンバーワンだし……。
「とにかく私は行きません。マスターも一人の方が、何かと捗るでしょう?」
「別に僕は……いや、まぁいいや。それじゃあ一人で行ってくるよ」
「行ってらっしゃいませマスター。キャバクラでゆっくり鼻の下を伸ばしてくるといいですよ」
「うん……」
そんな『ゆっくり羽を伸ばしてくるといい』みたいな感じで言われてもな……。
◇
教会に着いた僕は、ローデットさんにお金を払い、会話をして、ひとしきり鼻の下を伸ばされた後、鑑定を行った。
その結果が――
名前:アレクシス
種族:エルフ 年齢:14 性別:男
職業:木工師
レベル:20
筋力値 14
魔力値 9
生命力 8
器用さ 28
素早さ 5
スキル
槌Lv1(New) 弓Lv1 火魔法Lv1 木工Lv2 ダンジョンLv1
スキルアーツ
パラライズアロー(弓Lv1) ニス塗布(木工Lv1) ヒカリゴケ(ダンジョンLv1)
称号
剣聖と賢者の息子 ダンジョンマスター
「あ!」
「おー」
無事に『槌』スキルを取得していることを確認できた。これでまずは一安心。
といっても、この二週間で僕は何度も木槌や金槌を使用しており、スキルを取得しているであろうことは確信していたのだけど。
「アレクさん、何か変なものが!」
「変なものて」
せっかく手に入れた『槌』スキルを、変なもの呼ばわりしないでほしい。
「あー、はい。『槌』スキルを取得できたみたいですね」
「みたいですけどー……。なんだかずいぶん落ち着いていますね?」
「えーと……実は前々から、そんな気はしていたんですよ」
「そうなんですか?」
「木工作業を繰り返すうちに、槌の扱いがずいぶん上達した感じがして……。もしかしたら、こんなこともあるかなぁと」
――という理由を、この二週間で考えてみた。
なにせ年がら年中木工作業をしている僕だ。そんなことがあってもおかしくはない――と、思うんだけど……。
ユグドラシルさんも、鍛冶師の人なんかは『槌』スキルを取得することもあるって言っていたしさ……。
「あー、そうなんですか、木工作業でですかー」
「ええ、はい」
「なるほどー……。アレクさんが木工を始めたのって、いつからでしたっけ?」
「木工を始めた歳ですか? えっと、確か――あぁ、六歳です。六歳の頃からやり始めたんですよ」
レベルが5に到達して、転生後に初めて回したチートルーレット。そこで僕は『木工』スキル手に入れた――それが六歳の頃だ。
そのときに女神ズから教会と鑑定のことを聞いて、それで父と一緒に教会へ来たんだ。
「六歳のとき、初めてこの教会に来て、初めてローデットさんと会って、初めて鑑定したんですよ。そのとき……自分が『木工』スキルをもっていることを知ったんです」
よく考えると、今日の『槌』スキルも、あのときの『木工』スキルと同じだね。
ここで初めてスキルを知ったことにして、それからスキルを活用しようかと考えている。
「あー、そうでしたねー。なんだか懐かしいですー」
「もう八年も前のことですからねぇ」
「というか六歳のときの記憶なんて、アレクさんよく覚えてますねー」
「そうですね……」
まぁ確かに普通は覚えてないかもね……。
「それで、それがどうかしたんですか?」
「六歳からの八年間で、アレクさんは『槌』スキルを取得したんですね?」
「……そうなりますね」
「すごいですね?」
「…………」
これはもしかして……まただろうか?
またしてもローデットさんは、敏腕キャバ嬢としての実力を遺憾なく発揮しようとしているのだろうか……。
「たった八年で取得なんて、すごいですー」
「ええ、まぁ……」
「なにせ六歳からの八年ですからねー」
「はぁ……」
「アレクさんはまだ十四歳なのに、新スキルを取得なんてすごいですー」
「えぇと……ありがとうございます」
予感が的中してしまった。
ローデットさんにずいぶんと褒められてしまった。ずいぶんと持ち上げられてしまった。
いつもの僕ならこれで気持ちよくなってしまい、鼻の下でも伸ばしていたのかもしれないけれど……今回ばかりは、あまり伸びない。
なにせ『槌』スキルは、僕が努力して取得したスキルではない。ルーレットで偶然取得したものだ。
そう考えると、そんなふうにもてはやされても、あまり素直には受け入れられない。なんだか少し困ってしまう。
まぁレベル上げも頑張ったし、努力したことに変わりはないんだけど……。
とはいえ、なんだかちょっとなぁ――って、うん?
「あの、どうかしましたか?」
「いえ、なんでもないですー」
何やらローデットさんが、僕の顔を不思議そうに見ていたのに気が付いた。
なんだろう。もしかしてあれかな……。
『いっぱい褒めたのに、あんまり鼻の下が伸びなかったですー』なんてことを考えていたのだろうか……?
あれ? というかさ、本当に伸びたり伸びなかったりしているわけじゃないよね? 比喩表現だよね? そこまで情けない顔はしてないよね……?
なんだか不安になってきた……。
一応僕もイケメンを生業とするエルフの端くれだというのに、もしかしたらエルフにあるまじき失態を繰り返していたのだろうか……。
とりあえず、もし本当に鼻の下を伸ばしていたとしても、イケメンだったことを願おう……。
そんなエルフのポテンシャルにかけよう……。
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