第187話 『槌』スキル
「あぁ、それから」
「はい?」
「レベルアップおめでとうアレク」
「あ、はい。ありがとうございますユグドラシルさん」
なんやかんやあったけど、ユグドラシルさんが僕のレベルアップを祝ってくれた。
いろいろ思うことはあるだろうけど、笑顔で祝福してくれた。
「それで、チートルーレットでは何を貰ったのじゃ?」
「あぁ、そういえば言っていませんでしたね。――『槌』スキルを貰いました」
「土スキル?」
「そうです」
「土スキル……?」
「そうですけど……?」
不思議そうな顔で、ユグドラシルさんが何度も『槌』スキルのことを聞き返してくる。
なんだろう? どうしたんだろう?
この雰囲気……。もしかしたら僕は、ユグドラシルさんともボタンの掛け違いを起こしてしまうのだろうか――
「――あ、『槌』スキルか? 槌とは、叩いたり潰したりするあれか?」
「えっと、そうです。その『槌』スキルです」
「そうかそうか。『槌』スキルか」
なんだかよくわからないけど、合点がいったらしい。
ボタンもきちんとはまった気がする。
「なるほど。珍しいものを手に入れたのう」
「珍しいんですか?」
「スキル自体はそこまで珍しくはないが、槌なんぞ使うエルフ、そうはおらん」
「あー、そうですか」
まぁそうだよね。エルフってみんな弓使うし、基本的に遠距離から弓でチクチクだし。
剣を使う父とか、相当珍しい方だと思う。剣でも珍しいというのに、ましてや槌なんて……。
「で、実際に使ってみたのか?」
「いえ、まだです」
なんせ取得したのはついさっきだからねぇ。
「ふむ……。試しに、今使ってみたらどうじゃ?」
「今ですか?」
「うむ。お主が普段使っている木工用の小槌でも、効果は発揮されるはずじゃ」
「あ、そうなんですか」
やっぱりそうなんだ。それは嬉しいな。正直戦闘で槌を上手に活用できるかわからなかったので、効果が戦闘限定じゃないのは嬉しい。
「じゃあ、ちょっと試してみますね」
「うむ」
軽く『槌』スキルを試してみることに決めた僕は、道具箱から自前の槌を取り出すために立ち上がった。
さてさて、それじゃあ『槌』スキルの実験だ。なんだかんだ楽しみだな、いったいどんな感じになるんだろうか?
「何をしてみましょう? 一応木槌と金槌がありますが?」
「どちらでも効果は発揮されるはずじゃ」
「なるほど。どっちにしようかな――あ」
「うん?」
ふと思い付いた僕は、道具箱から槌を取り出すのを止めて――別の場所から別の物を取り出した。
そしてユグドラシルさんにも見えるよう、テーブルの上に置いた。
「それは……」
「セルジャン落としです」
「…………」
僕がおもちゃ箱から取り出したのは、木工シリーズ第八弾『ダルマ落とし』――別名『セルジャン落とし』だ。
果たして、セルジャン落とし用の小さな玩具の木槌でも、効果が発揮されるのか否か。
「それを出してくるなというのに、笑っていて怖いのじゃ……」
「まぁまぁ、軽く実験するだけなので」
ユグドラシルさんは、一番上で笑っている父の頭部が苦手らしい。
……まぁ、あんまり得意な人はいないか。
「というか、もうすでにスキルが発動しているのがわかったわけですが」
「うん?」
「この玩具の木槌を握った瞬間わかりました」
セルジャン落としをテーブルに設置して、木槌を握った瞬間にわかった。
この木槌をどう握ればいいのか、どう振ればいいのか、体が理解している。
ちっちゃな玩具の木槌ではあるが、しっかりスキルが発動しているようだ。とても上手に槌を扱える予感がする。
「いけます。今なら、とても上手に父を首だけにできます」
「…………」
なんだかユグドラシルさんが若干引いているような気もするけど……とりあえず木槌を構える僕。
「では、いきます」
「うむ……」
集中して、表情を引き締める僕。――対して、父は笑っている。いつもの柔和な表情だ。
そんな父に向かって僕は――
「ハッ――!」
「おぉ」
『カンカンカンカン』と小気味よい音を立たせつつ、連続で胴体部分を叩いていく僕。
五段あった父の胴体が、みるみる減っていく。
「てい」
「おー」
最後の胴体を弾き飛ばし、体を失った父の頭部がテーブルに着地した。
「やるもんじゃな」
「ありがとうございます。……というか、すごいですね『槌』スキル」
五段あった父の胴体を、下から順番に弾き飛ばして頭部のみの状態にしたわけだが……父の頭部から十センチほど隣には――再び五段の胴体が並んでいる。
僕が先ほどやったセルジャン落としは、ただ闇雲に胴体を弾いていったわけではない。
まず一番下の一段目を、十センチ隣に弾き飛ばす。そして、二段目も落ちてくる前に弾き飛ばし――十センチ隣の一段目の上に載せる。
そして三段目も落ちる前に弾き、二段目の上に載せる。さらに四段目も――といった離れ技だ。
なんとなくできそうな気がしてやってみたのだけど……自分でもちょっとびっくり。
やるなぁ『槌』スキル……。スキル取得前の僕では、間違いなくこんな芸当はできなかっただろう。
どうやったってスピードが――『素早さ』が足りない。その辺りも補正してくれるのが、スキルのすごいところだ。
「やっぱりすごいですね、スキルはすごいです」
「うむ」
「心なしか、父もいつもより笑っている気がします」
「怖い」
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良いお年を(ノ*ФωФ)ノ




