第183話 チートルーレット Lv20
「それからダンジョンマラソンか」
「そうですね、ラストスパートをかけました」
僕とミコトさんとディースさんの三人は、この二年間をのんびりと振り返っていた。
そんな二年間のまとめ――二年分の総集編も、いよいよ終わりに近い。
「そういえば……ダンジョンマラソンの最終日、ユグドラシルさんがスーパーマンパンチをしていただろう?」
「え? ええ、はい」
「そのあと、アレク君も見様見真似でスーパーマンパンチをしていたね?」
「……はい」
改めて指摘されると、結構恥ずかしいんだけど……。
まぁ、確かにやっていた。なんとなく真似したくなって、やっていた。
別にモンスターに放ったわけでもなくて、その場でぴょんぴょん跳ねながら、軽く素振りをしていたのだ。
「実は、そこでアレク君のレベルが上がったんだ」
「あ、そうなんですか。へー、そんなタイミングだったんですか」
「正確にはユグドラシルさんから、『なんか不格好じゃのう……』って言われた瞬間に、レベルアップしていた」
「…………」
どんなタイミングだ……。
いやまぁ偶然だろうけど、ずいぶん微妙な瞬間にレベルアップしたな……。
「そこでレベルアップして、こうして無事に天界へ――まぁ、あんまり無事でもないけど……とにかく天界へ転送されてきたわけだ」
「なるほど……」
「そういうわけでアレク君。改めてレベル20到達――おめでとう」
「ありがとうございますミコトさん」
こうして振り返ってみると、なんだかいろいろあったな。
やっぱり基本はダンジョン絡みか。ダンジョン絡みで、いろいろと巻き起こったような気がする。
ダンジョン絡みで――
「あ」
「どうしたのアレクちゃん?」
「ちょっと『ダンジョンメニュー』を開いてもいいですか?」
「いいわよ?」
「まぁ……もう開いてしまったわけですが」
ディースさんが何か言う前に、うっかり『ダンジョンメニュー』というワードを喋ってしまったので、すでに僕の目の前にはダンジョンメニューが出現している。
「いえ、ちょっと気になったもので、というかここでも『ダンジョンメニュー』が――消えちゃった……」
相変わらずダンジョンメニューは融通が利かないよね……。
「えぇと……ここでも『ダンジョンメニュー』は開けるみたいですね」
「そうね」
「それじゃあちょっと失礼して。えーと、どれどれ……」
僕が気になったのは――時間だ。
ダンジョンメニューには、時計機能が付いている。
果たして現在メニュー内の時計は、何時を指しているのか――
「午後四時二十分……」
四時二十分……。確か僕が天界へ転送される前に開いたメニューでは、四時十分くらいだったと思った。
天界に来てから――たった十分しか経っていない?
……いや、そんなことはないはずだ。なんだかんだ一時間以上話しているはずだ。
会議室に設置されている時計も、それくらい時計の針が進んでいる。
まぁ会議室の時計は九時とかを指していて、時刻自体は正確じゃなさそうなんだけど……。
あの時計は時刻合わせをしていないのか、それとも天界時間なのか……。
「今は午後四時二十分らしいんですけど……?」
「そうね。アレクちゃんの転送は、ちょっと時間を歪めているから」
「時間を……」
時間を歪めているってのがよくわからないけど……とりあえず四時二十分なのは間違いないらしい。
今僕が天界から自宅に戻ったら、やっぱり四時二十分なわけだ。
まぁ、帰ったとしても僕はすやすや眠っているので、時刻を確認することはできないんだろうけど……。
「ふーむ……うん?」
――ふと、ダンジョン名が気になった。
『今日こそレベルアップしていると思うダンジョン』という、僕が既読スルーされたダンジョン名……。
……どうしよう? ちょっと変えてみようか?
『今日こそレベルアップしていると思う』から、『天界なう』とかに変えてみようか?
もしナナさんが見たら、びっくりするんじゃないかな?
「アレクちゃん、どうしたの?」
「んー……いえ、なんでもありません」
とりあえず、やめておこう。ダンジョン名はそのままにしておこう。
たぶん、ふざけているようにしか見えない……。致命的なミスを犯したというのに、ふざけるのはよくない……。
「それじゃあ、そろそろルーレットをしたいと思います」
「そう……そうね。じゃあ準備するわね」
「お願いします」
長々と総集編をやってしまったけど、いい加減ルーレットを回そう。
正直ルーレットが終わった後のことを考えると、憂鬱になる。自宅に帰ってからのことを考えると、なかなかに憂鬱だ。
とはいえ、いつまでもここに引きこもっているわけにもいかない。
回して、帰って、起きたらユグドラシルさんに謝ろう。
「さてルーレットだ。どんなものが当たるかな? アレク君はどんなものがほしい?」
「そうですねぇ……」
ミコトさんの問いかけに、軽く思案する僕。
「前々回が回復薬セットで、前回がダンジョンコア。二連続で結構なチートアイテムを引き当てることができましたからねぇ」
「うん、そうだね」
「やはり僕としては、ぜひとも三連続で――」
いや、待てよ……?
もしもダンジョンコアのように僕の手に余るものを取得したら……再びユグドラシルさんに頼ることになるかもしれない。
それは、ちょっと気まずいな……。この状況で再びユグドラシルさんに頼るのは、かなり気まずい……。
「アレク君?」
「身の丈にあったものが、当たるといいですね……」
「そ、そうか」
どことなく黄昏れた言葉を、ミコトさんに返してしまった。
「とにかく、良いものが当たるといいね」
「そうですねぇ……」
役立つもので、なおかつユグドラシルさんに迷惑をかけないものが当たるといいな……。
「タワシと『剣』スキルが、当たらないといいんだけど……」
「…………」
何故あえてこの場面で、その二つを口に出したんだミコトさん……。
僕とナナさんの会話を聞いていたからなんだろうけど……。それにしたって、ルーレット直前の今、それを言うのか……。
「お待たせアレクちゃん。はいどうぞ」
「ありがとうございます」
僕が嫌な予感をひしひしと感じていると、ディースさんが戻ってきた。
僕はお礼を言ってから、ディースさんが持ってきてくれたダーツを受け取る。
ちなみにダーツの羽には、ディースさんと僕と、ナナさんが描かれていた。
そうか、ナナさんか。まぁ孫は可愛いって、よく聞くしなぁ……。
「アレクちゃん、頑張ってね」
「……頑張って、アレク君」
「え、ええ、ありがとうございます」
ディースさんの応援と、自分が描かれていないことに少しむくれた様子のミコトさんからの応援を受けつつ、僕はダーツのスロウラインまで移動した。
「準備はいいわね?」
「はい。お願いします」
「それじゃあ行くわよー――チートルーレット、スタート!!」
ディースさんが真っ黒いボードに手をかけ、ルーレットを回し始めた。
僕はスロウラインから足がはみ出さないように気をつけながら、ダーツを構える。
そして、相変わらず回っているんだかいないんだかわからないボードに、狙いを定めて――
「パー◯ェーロ! パー◯ェーロ!」
「では、行きます」
「パー◯ェーロ! パー◯ェーロ!」
「やー」
ディースさんのパ◯ェロコールを無視しながら、僕はダーツを放つ。
ダーツは『トス』という小気味いい音を立てて、ボードに突き刺さった。
「ふぅ」
「お疲れ様アレク君」
「ありがとうございますミコトさん」
まずは一安心。やっぱりチートルーレットは緊張するな。この一投で、僕の運命も変わってしまうわけだからね。
さておき、問題はここからだ。
投擲の緊張は過ぎ去った。だがここからは、何が当たるかの緊張が始まる。
「どれどれ? ……ふむふむ」
ボードの回転を止め、ルーレットを覗き込むディースさん。
どうなんだろう。『ふむふむ』とは、『ふむふむ』とはいったい……。
毎回この瞬間――ディースさんが結果を発表するまでの時間は、とても長く感じる……。
「なるほど、スキルね――」
スキル!
「戦闘系スキルね――」
戦闘系スキル! ……というか、何故情報を小出しにするんだディースさん!
「武器スキルね――」
武器スキル! ……え、剣じゃないよね? 剣じゃないよね!?
「おめでとうございます――――『槌』スキル、獲得です!」
「つちスキル! つち? ……土スキル?」
土スキル? 土スキルとは……? 武器スキルなのでは? 土?
「槌――ようするにハンマーね」
「ハンマー?」
「ハンマー」
あぁ、土じゃなくて槌か。……え、ハンマー?
「ハンマーですか?」
「ハンマーね」
「ハンマー……」
「hammer」
何故、良い発音で……。というか、ハンマーだと……?
「えっと……つまり、ハンマーで戦うためのスキルですか?」
「そうね」
「えーと……ドワーフとか、そういう感じで?」
「まぁそうね」
ドワーフみたいに、大きなハンマーを振り回して戦うのか……。
「僕、エルフなんですけど?」
「そんなことを言われても……」
「というか近接武器なら、もうすぐ『剣』スキルを手に入れられそうなんですけど?」
「そんなことを言われても……」
そんなことを言われても、ディースさんも困ってしまうらしい。
まぁディースさんに当たっても、仕方のないことだろうけど……。
それにしても、『槌』スキルか……。槌かぁ……。
槌……。ハンマー……。hammer…….
next chapter:何をしているのですかマスター……




