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チートルーレット!~転生時に貰ったチートがとても酷いものだったので、田舎でのんびりスローライフを送ります~  作者: 宮本XP


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第180話 完徹


「というわけで、レベルが上ったよナナさん」


「おめでとうございますマスター」


 鑑定と通話を終えた僕は、自宅へ戻ってきた。

 すると、玄関の等身大母人形を(みが)いていたナナさんを発見したので、自室に招き、少し話を聞いてもらうことにした。


「そうですか、レベル20ですか」


「うん。なんとかレベル20に到達だよ」


「そうなると、いよいよルーレットですね。確か次が五回目でしたか?」


「えーっと、そうだね、五回目だ」


 タワシ、『木工』スキル、回復薬セット、ダンジョンコアときて、次が五回目。五回目のチートルーレットとなる。


「ふむふむ。マスターとしては、何か希望があったりしますか?」


「希望?」


「こんなアイテムが欲しいとか、こんなスキルが欲しいとか、マスターの希望はありませんか?」


「僕の希望……」


 どうだろう。結局はルーレットだし、そこまで明確な希望とかはあんまり考えたことがないな。


「確か以前マスターは、『状態異常魔法を覚えてハーレムを作りたい』などと考えていたと思いますが――」


「考えたことないよ……」


 いきなりなんて濡れ衣を着せるんだ。僕はそんなことを考えたことはない。


 というか『状態異常魔法』でハーレムって何さ? 魅了とか洗脳とかかけるの? 嫌だよそんなダークなハーレム……。


「失礼しました。勘違いしていたようです」


「どんな勘違いよ……」


「『空間魔法、鑑定スキル、アイテムボックス……そういうのが良かった』なんてことを、以前は考えていたと思いましたが?」


「あー、そうね。確かにそれは考えていた気がするね」


 転生前のルーレットでは、そういうのが欲しいと考えていた気がする。


「空間魔法なんかは今でも欲しいと思うけど……『鑑定』スキルとアイテムボックスは別にいらないかな」


「そうですか?」


「まぁあったら便利そうではあるけどね。だけど鑑定は教会でしてもらえるし、アイテムボックスはマジックバッグがあるし、だから別にいらないかな」


 というかむしろ、絶対いらない。

 アイテムボックスはまだしも、『鑑定』スキルはいらない。絶対にいらない。


 そんなものを手に入れてしまったら僕は――教会に行く必要がなくなってしまう。

 だからいらない。断固拒否する。


「いらないのですか?」


「別にいらないなぁ」


「じゃあ逆に、絶対いらないものってなんですかね?」


「絶対いらないもの……?」


 まぁ『鑑定』スキルは絶対いらないわけだけど……。


「どうだろう……。とりあえずタワシとか、もういらないかな……」


「なるほど、タワシですか」


「二つ目を貰ってもね……」


 そもそも一つ目の時点で、かなりいらなかったしね……。


「というか、なんでそんなことを聞くのさ」


「フラグを立てようかと」


「おい山田」


 なんてことを……。なんて恐ろしいことを考えるんだ……。

 もしそれで本当にタワシを貰ったらどうするつもりだ。本気で恨むぞ。


「そういえば、『剣』スキルはまだ取得できていませんでしたか?」


「え……? うん。さっきの鑑定では、まだ生えていなかったけど……」


「『剣スキルを取得できたら、僕が初めて自力で取得したスキルだ』なんてことを、マスターは言っていましたよね?」


「……そうだね。そんな話をナナさんにもしたね」


「チートルーレットで『剣』スキルをゲットしてしまったら、かなり残念ですね?」


「…………」


 ナナさんが、なにやら変なフラグを立てようとしている……。


「いやいやいや、さすがにそう都合よく都合の悪いことは起きないでしょ」


「まぁそうですね」


「そうだよ」


「――まぁ起きませんよね、普通に考えたら起きないでしょう。そりゃあ起きません。絶対起きませんとも」


「やめろ山田」


 『起きない』と連呼することで、逆に『起きてしまう』フラグを立てようとするんじゃない。


「冗談ですよ」


「たちが悪すぎる……」


 そりゃあ冗談なんだろうけど、実際本当にタワシか『剣』スキルを獲得するフラグが立ってしまったような気もする。大丈夫だろうか……。


「冗談はさておき、それでマスターは教会本部と通話をして、レベル20を伝えたのですね?」


「あぁ、うん。そうだね、連絡してきたよ」


「通話の魔道具ですか。どうやらかなり優秀な魔道具のようですが?」


「あれは便利だね。会話してみた感じだと、ラグもなかったし音質もクリアだったし」


 贅沢(ぜいたく)を言えば、中の水晶に相手が表示されたらもっとよかったと思わなくもないけど……まぁ、さすがにそれは欲張りすぎうか。


「なるほど……。どうやら、我らが『ダンジョンメニュー式メッセージ通信』よりも優秀そうですね」


「『ダンジョンメニュー式メッセージ通信』……? あぁ、あれか……」


 ナナさんの言う『ダンジョンメニュー式メッセージ通信』とは、ダンジョンメニュー内の『ダンジョン名』部分を用いた通信手段のことだろう。


 このダンジョン名は、僕達が自由に書き換えることができる。

 まぁそのせいで、以前僕とナナさんの間でみにくい争いが勃発(ぼっぱつ)したのだけど……。


 確か最初は、『ユグドラシルさんのダンジョン』なんて名前にしたはずだ。

 それが僕とナナさんの編集合戦に巻き込まれて――


『ユグドラシルさんとナナアンブロティーヴィフォンのダンジョン』

『アレクシスとユグドラシルさんとナナのダンジョン』

『アレクとユグドラシルさんと有能なナナのダンジョン』

『剣聖と賢者の息子にして神々の寵児(ちょうじ)アレクとユグドラシルさんとナナのダンジョン』


 ――などと、ダンジョン名は移り変わっていった。


 それからも何度かダンジョン名は変更され続けたが……いつからか僕らはこの仕様を使って、別の遊びを始めた。


 それが、ダンジョン名機能を使った――チャット通信だ。


 僕とナナさんは、変更したダンジョン名をお互いに確認できる。

 このことを利用して、ちょっとした文章のやりとりを始めたのだ。


 まぁ本当にちょっとした文章で、『今日の夕食は大ネズミのステーキです』やら『また歩きキノコを見つけた』といった、たわいのないやり取りだ。

 ちなみにダンジョン名は最後が『ダンジョン』で固定されているため、『今日の夕食は大ネズミのステーキですダンジョン』やら『また歩きキノコを見つけたダンジョン』といった文章になる。


 ナナさんが言う『ダンジョンメニュー式メッセージ通信』とは、これのことだろう。

 これと比べると、通話の魔道具の方が優秀そうだ――などと、ナナさんは言ったわけだ。


「……正直、比べるのがおこがましいレベルだよ」


「悔しいですね」


 悔しがることすら、おこがましいレベルだよ……。


 なにしろ『ダンジョンメニュー式メッセージ通信』には、通知機能がない。

 ナナさんが僕にメッセージを送ろうとしてダンジョン名を変えたところで、僕は気が付かない。

 偶然ダンジョンメニューを開くそのときまで、僕がナナさんのメッセージに気付くことはないのだ。


「とりあえず消そう。『ダンジョンメニュー』」


「そうですね。『ダンジョンメニュー』」


 僕とナナさんは、うっかり開いてしまった目の前のダンジョンメニューを消した。


 ちなみに、メニューを消す瞬間に見えたダンジョン名は、『今日こそレベルアップしていると思うダンジョン』だった。


 数日前に一人でダンジョンマラソンを終えた後、僕がナナさんに向けて送ったメッセージである。

 どうやらナナさんにはスルーされてしまっていたようだ。……まぁ未読なのか既読スルーなのかもわからないけど。


「とにかく、『ダンジョンメニュー』式メッセ――鬱陶(うっとう)しいな、『ダンジョンメニュー』」


 うっかりダンジョンメニューを再び開いてしまったので、もう一度消す。


「『ダンジョンのメニュー式メッセージ通信』に改名しましょうか」


「そうしよう。……えぇと、とにかく『ダンジョンのメニュー式メッセージ通信』よりも優秀な通話の魔道具で連絡したからさ、そのうちユグドラシルさんが家に来ると思う」


「そうですか。いつ頃来られるでしょう?」


「どうだろうね……。移動に時間はかからないから、ユグドラシルさんまで伝わったらすぐに来てくれると思うけど……」


 それにどれくらいの時間がかかるかわからない。


 だけどユグドラシルさんは別れ際、『今日は帰る』と言っていた。

 だから、たぶんユグドラシルさんは今頃自宅に――自宅? ……まぁ自宅っぽい場所にいるんじゃないかな?

 であれば、教会本部の人もすぐにユグドラシルさんと連絡が取れると思うのだけど……。


「とりあえず、今日はユグドラシルさんが来るまで起きているつもりだよ」


「なるほど」


「いつになるかわからないけど、それまで徹夜するつもり。――完徹(かんてつ)する覚悟だよ僕は」


 普段からユグドラシルさんにはお世話になりっぱなしなわけで……というより、世話どころか迷惑をかけることも多い。


 そんなユグドラシルさんが、妙に執着(しゅうちゃく)している僕の転送シーン。

 正直何がそこまでユグドラシルさんの興味を引いたのかわからないけど、これで少しでもユグドラシルさんに恩を返せるのなら安いものだ。徹夜程度、どんとこいだ。


「徹夜ですか……」


「寝たら転送されちゃうからね。ユグドラシルさんが来るまで徹夜するよ」


「大変ですね。私もお付き合いしたいところですが――」


「ナナさんが? いいの?」


「…………もちろんですとも」


「…………」


 ナナさんがいてくれたら話し相手にもなってくれるし、正直助かると思ったのだけど、どうやら徹夜はイヤみたいね……。微妙に逡巡(しゅんじゅん)する様子が見て取れた……。


「いや、いいよ。一人で待っているから」


「そうですか。申し訳ありません……」


「いいんだよ」


「夜中、お夜食くらいは作りますね?」


「ありがとうナナさん」


 うん。それじゃあ頑張ろう。頑張って起きていよう。

 ……だけど、できたらユグドラシルさんには早くきてほしいな。


「夜食といえば、そろそろ夕食の準備ですね。ちょっとお手伝いに行ってきます」


「あぁ、もうそんな時間か。ありがとうナナさん、話に付き合ってもらって」


「構いませんとも。マスターの無駄話に付き合うことも私の役目です」


「ありがとうナナさん」


「では失礼します」


 そう言って、ナナさんは僕の部屋を出ていった。

 ……さらっと『無駄話』って言われた気がするけど、ありがとうナナさん。


 さてさて、それじゃあこれから夕食を待って、夕食を食べた後はユグドラシルさんを待って……。

 もしかしたら、今日は長い夜になるかもしれない。


 十四歳のこのボディで徹夜できるのか、少し心配である。

 なにせ今日もダンジョンマラソンをしてきた身だ、それなりに疲れもある。

 そもそも一週間にわたって毎日マラソンしてきたわけで、披露も蓄積(ちくせき)しているのだ。


 果たして僕は、完徹に耐えられるだろうか。

 もしかしたら夜中耐えきれなくなって、うっかり寝てしまうかもしれない……。


「あ、そうだ」


 うっかり寝落ちするのを防ぐため、今のうちに――


「昼寝しよう」


 そうだな、それがいい。夜に備えて、今のうちにちょっと寝ておこう。


「とりあえず、夕食ができるまで寝ようか」


 そう決めた僕は、スルリとベッドに潜り込み、瞳を閉じた。


 やはり疲労が溜まっていたのだろう。すぐに睡魔が僕を襲う。

 僕はその波に(あらが)うこともせず、ゆったりと身をゆだね――


 そして僕は眠りに落ちた。





 next chapter:アレク君十四歳。二年ぶり五回目

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