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チートルーレット!~転生時に貰ったチートがとても酷いものだったので、田舎でのんびりスローライフを送ります~  作者: 宮本XP


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第157話 木工シリーズ第四十弾『櫛』


「そういえば、自分の分を回収していませんでした」


「む?」


 ナナさんの髪とダンジョンコアの欠片を回収した僕とユグドラシルさんは、ひとまず僕の部屋まで戻ってきた。

 そこでふと、自分の髪の毛をまだ保存していなかったことを思い出した。


 髪の毛収集はユグドラシルさんが来てからと決めていたせいだろうか、自分の分すら回収するのを忘れていた。


「ではユグドラシルさん、紙をお願いできますか?」


「お主のじゃな?」


「はい」


 ユグドラシルさんがマジックバッグから紙を取り出している間に、僕は自分の前髪をつまんで、ハサミで適当に切った。


「ずいぶん雑に切ったのう……」


「え、なんか変な感じになっちゃいました?」


「まぁそこまで変ではないが……」


「はぁ」


 つまり、ちょっとは変になっちゃったのか……。まぁいいや、そのうち伸びるさ。


「ところで、お主の紙はこれか?」


「そうです。ありがとうございます」


「これなのか……」


 僕はユグドラシルさんが用意してくれた『僕』と書いてある紙に、自分の髪を落として折りたたんだ。

 よしよし、これで自分の分も回収完了だ。


「さて、それじゃあ次は――母です」


「うむ」


 父とナナさん、そして自分の髪の毛回収は無事に完了した。

 ――だがしかし、ある意味今までのはウォーミングアップ。ここからが本番といっても過言ではない。


「今回は、こんな物を使ってみようかと」


(くし)か?」


「そうです。木工シリーズ第四十弾『櫛』です」


 よくある半円型の櫛だ。『木工』スキルでササッと作ってみた。


 ……まぁ本来櫛なんてものは、ササッと作れる代物ではない気がするんだけどね。

 なんとなくだけど、作るには職人の技とかが必要っぽい気がする。


「これで母の髪をとかして、その隙にこっそり髪の毛を回収しようかと――引かないでくださいよ……」


 なんか話している途中で、ユグドラシルさんに軽く引かれたのを感じた。


「す、すまぬ。こっそり髪の毛を回収しようとするお主の姿がどうしても……」


「事情を説明できないんですから、仕方ないじゃないですか……」


「う、うむ」


「とりあえず行きましょう。この櫛作戦は今後も活用していくつもりなので、検証は大事です」


「うむ……」



 ◇



「母さーん」


「今日の夕食はワイルドボアよ?」


「……え? あ、いや、別に夕食の献立を聞きに来たわけじゃなくてね?」


 さすが母だ。のっけからペースを崩された感がある……。


「ユグちゃんが持ってきてくれたの」


「あ、そうなんだ」


 ユグドラシルさんは遊びに来る際、ときどき食材なんかを差し入れしてくれるのだが、今回はワイルドボアを持ってきてくれたらしい。


 ワイルドボアは、ボアが進化したモンスターだ。進化モンスターらしく、ボアよりも桁違いに強く、そして美味しい。

 以前食べたときも、すごく美味しかった記憶がある。高いお肉な感じがした。とてもジューシーで柔らかかった。


 進化して強くなったはずなのに、何故普通のボアよりもお肉が柔らかいのか――そんな疑問が吹き飛ぶほど美味しかった。

 夕食が楽しみだ。ユグドラシルさんに感謝しながらいただこう。


 ――って、そうではなくて。


「ユグちゃんも食べていくでしょ?」


「う、うむ」


 なんだか母にペースを崩されたどころか、がっつりペースを握られてしまった感すらある……。


「いや、そうじゃなくてね。こんな物を作ってみたんだよ母さん」


「櫛?」


「そう櫛」


 さて、ここからどうやって僕が母の髪をとかす流れにもっていくかだが――


「じゃあ、とかしてくれるかしら?」


「え? 僕が?」


「お願い」


「う、うん……」


 ……まぁ好都合だ。この上なく好都合で、理想的な展開である。

 なんだかペースは握られっぱなしだけど……。


「じゃあ、とかすね?」


「ええ」


 僕は椅子に座っている母の後ろに回り込み、母の長い髪に櫛を入れた。


 サー、サーっと母の髪をとかすが……全然引っかからない。

 普段大して手入れをしている感じでもないのに、ここまでなめらかな髪を維持(いじ)しているのか……。さすがは神が認めた美女エルフ……。


「えぇと、どうかな母さん」


「なかなか良い感じよ?」


「そっか。痛かったりしない?」


「大丈夫」


 とりあえず櫛に問題もなさそうなので、そのまましばらく母の髪をとかしてから――


「こんなもんかな……。お疲れ様でしたー」


「うむ。お疲れ様でしたー」


「お疲れ様でしたー」


 僕は母の髪をとかし終わり、『お疲れ様でしたー』の声をかけた。

 ぼーっと見ていたユグドラシルさんも、思い出したかのように『お疲れ様でしたー』と続く。

 それを聞いて、母も『お疲れ様でしたー』と返してきた。


 なにやら一瞬で『お疲れ様でしたー』の流れを読み取った母。

 やっぱり母はすごい。なんかすごい。



 ◇



「どうじゃった?」


「一応回収できたことはできたんですが……」


「ふむ。では紙を出すぞ?」


「お願いします」


 ユグドラシルさんが『母』と書かれた紙をテーブルに出してくれたので、回収した髪を置いた。


「二本か」


「ですね」


 二本……。どうしたものか、せめてあと数本欲しいような気がする。


「明日、もう一度ですかね」


「明日もう一度、ミリアムの髪を櫛でとかすのか?」


「はい。それで、あともう数本確保したいです」


「ふむ」


「というわけで、明日もよろしくお願いします」


 と、お願いしたのだけど……なんだかユグドラシルさんは微妙な顔をしている。


「わしはいるのじゃろうか……? 少なくともミリアムの場合、わしはいらん気がするのじゃが……?」


「あー……」


 たしかに母の髪の毛回収時、ユグドラシルさんは最後に『お疲れ様でしたー』と言っただけな気がする。


「……けどその、ユグドラシルさんが後ろに付いていてくれるだけで、安心感が違うんです。安心して作業できるんです」


「そうなんじゃろうか……」


「そうです。自信をもってください」


「別に自信を失っていたわけではないのじゃが……。というかなんの自信じゃ……」


「いや、えっと、安心感とかに自信を……」


 別に僕も『髪の毛収集の補佐に自信をもって』と言いたいわけではない。そんなものに自信をもたれても困る。

 そうではなくて、なんというか、人々に安心感を与える能力に自信をもっていただけると……。


「とりあえず、今日はここまでにしましょうか」


「そうじゃのう」


「今日はありがとうございましたユグドラシルさん」


「うむ」


 ひとまず今日の髪の毛収集はこれで終了だ。

 今日だけで父とナナさんと僕の髪の毛が回収完了。ダンジョンコアの欠片も手に入れて、明日には母の髪の毛回収も終えるだろう。


 なかなか順調な滑り出しといっていいんじゃないだろうか。

 よしよし、この調子で頑張ろう。頑張って、いろんな人の髪の毛をどんどん集めていこう。





 next chapter:何故わしを倒そうとする……

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