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チートルーレット!~転生時に貰ったチートがとても酷いものだったので、田舎でのんびりスローライフを送ります~  作者: 宮本XP


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第138話 本命と浮気相手


 ダンジョン開放二日目。

 ディアナちゃんとのダンジョン探索時、僕は再びお遊戯会プレイを強要されてしまった。そして、ひどい(はずかし)めを受けた……。


 だというのに――


『なんかノリノリで、楽しそうだった』


 なんて感想を、ディアナちゃんからはいただいてしまった。遺憾(いかん)である。(はなは)だ遺憾である。

 さておき、二日続けて辱めを受けた以外は、どうにか無事にダンジョン探索が終了した。


 ダンジョンを出てから僕は、ディアナちゃんをルクミーヌ村の自宅に送り届けた。

 別れ際、お遊戯会で手に入れた大ネズミの皮と、ついでに走りキノコをディアナちゃんにプレゼントしようとしたのだけど、『普通にいらない』と拒絶されてしまった。


 それどころか、軽くペシペシと叩かれる始末だ。

 どうやら『ディアナちゃんが喜んでくれるかわからないけど、できたら受け取ってほしいんだ』などと、妙に思わせぶりな台詞を吐いたのがいけなかったらしい。

 ディアナちゃんから『本当に喜ばない物が出てくるとは思わなかった』と、軽く説教までされてしまった。


 その後、僕はルクミーヌ村とメイユ村の知り合いを訪ね、走りキノコを渡して回る。――が、みんな遠慮するので十分の一ずつしか減っていかない。


 というか、ここまでみんな遠慮するということは、やはり貴重で美味しい物なのだろうか?

 ……ちょっと食べてみようかな?


 そう考え直した僕は、自宅へ戻り、母とナナさんに調理をお願いした――


「キノコはキノコだったね……」


「私は美味しいと思いましたが?」


 自室にて、走りキノコの感想を語り合う僕とナナさん。


 夕食で出された走りキノコ。僕も食べてみたが、歯切れの良い食感に、クセや苦味もなく、深い風味と芳醇(ほうじゅん)な香りをもつ、そんなキノコだった。


 ――つまりはキノコだ。


 結局は味も食感も香りもキノコであり、子供舌の僕には合わなかった。

 しかしナナさんは美味しかったらしい。ナナさんはお子様舌じゃないんだな、ゼロ歳児なのにな……。


「さてナナさん。今回は別に、そんなキノコ話をしたくて呼んだわけじゃないんだ」


「はぁ、何でしょう?」


「実は折り入ってお願いがあるんだ」


「お願いですか?」


「明日のダンジョン探索の件なんだけど――」


 明日はダンジョン開放三日目。

 開放初日は父と探索をして、二日目はディアナちゃんと探索した。そして明日は――レリーナちゃんと探索だ。


「明日の探索、ひとつ問題があるんだ」


「お遊戯会のことでしょうか?」


「……まぁ、それも問題といえば問題なんだけど」


 やっぱりやらされるんだろうか……。


 たしかに、個人的にはああいうのは……そこまで嫌いではない。楽しんでいる部分は皆無かと聞かれると……そうとは言えない。

 とはいえ、大勢の大人が見ている前でやるのはさすがに恥ずかしい。やっぱり恥ずかしい。


「とりあえずそのことじゃなくて、問題はね、レリーナちゃんを楽しませることができるかってことなんだ」


「はぁ、レリーナ様は楽しめないのですか?」


「もしかすると」


「何故でしょう? 今日のディアナ様も大層お喜びだったと(うかが)いましたが?」


「うん。ディアナちゃんはずいぶん喜んでくれたね」


 というより大喜びだった。あれだけ喜んでくれると、ダンジョンを作った側としても嬉しい。


「大喜びでヒカリゴケをむしったり、救助ゴーレムの薬草をむしったり」


「むしってばっかですね」


 本当は、あの薬草をむしられると困るのだけど……まぁ初めて見て興奮したのだろう。一度や二度なら、むしっても構わない。僕も困惑する救助ゴーレムを見ることができたし。


「あとは、スライムから小銭をせしめたり、宝箱の小銭を拾ったり」


「小銭ばっかですね」


 宝箱から出るアイテムとして、小銭は当たりの部類に入るらしいけどね。近くにいた村人から、そんなことを聞いた。


 というか、少なくともスライムから小銭が出るのはナナさんの責任でもあるだろうに。

 ナナさんも『お金なら貰って嫌がる人はいないでしょう』とかなんとか言って、賛同してくれたじゃないか。


「とりあえずレリーナちゃんも、ダンジョン自体は喜んでくれると思う」


「では、何が問題なのでしょう?」


「今回問題なのはレリーナちゃんじゃなくて――僕なんだ。僕に問題があるんだ」


「なるほど」


「……うん」


 『僕に問題がある』って言葉だけでそこまで納得されると、なんだか釈然としないものがある。


「えぇと、僕はもう三日連続でダンジョン探索することになるんだけど、そこが問題なんだ。僕は三日連続で、対してレリーナちゃんは明日が初めての探索だ」


 レリーナちゃんは、僕と一緒に探索するまでダンジョンには行かないと言っていた。つまりレリーナちゃんは、明日が初ダンジョンで初探索。


「そうなると、僕とレリーナちゃんの間で温度差が生まれてしまう」


「温度差ですか」


「レリーナちゃんが新鮮な気持ちでダンジョンを探索している横で、僕が冷めた雰囲気を出してしまったら、せっかくのダンジョン探索もおじゃんだよ」


「『おじゃん』なんて言葉、実際に使う人いるんですね……。初めて聞きましたよ」


 うん。まぁ僕も初めて使った。


「とにかく、そんなことを僕は心配していたんだ」


 せっかくならレリーナちゃんにもダンジョンを楽しんでもらいたい。僕の態度で水を差すような真似はしたくない。


「なるほど。つまり、『本命と浮気相手とのデートで、同じ映画を見なければいけない』――そんな状況ですね?」


「例えに悪意を感じる」


「ですが、そういうことでしょう?」


「……むぅ」


 いや、別に本命とか浮気相手とか、そんなことは考えていないのだけど……。


「まぁマスターの本命は、我が母ダンジョンコアなので、レリーナ様もディアナ様も浮気相手なのですがね」


「二人が聞いたら、コアを壊しに行きそうな話だね……」


 『あの玉に負けたのか』と、大層憤慨(ふんがい)することだろう……。


「それで、私に何をしろと? レリーナ様とのデート中『いい女連れてんじゃねーか』とでも言って絡みましょうか?」


「何そのベタなやつ……」


「それからマスターが格好良く私を撃退すれば、レリーナ様からの評価はうなぎのぼりかと」


「僕がナナさんを格好良く撃退する前に、レリーナちゃんがナナさんを無慈悲に排除しそうだ……」


 というかレリーナちゃんから評価は、もう十分すぎるほどもらっているからさ……。


「もっと単純に、『僕はダンジョンを知っている』『レリーナちゃんはダンジョンを知らない』――この差をなくせばいいんだ」


「というと?」


「ナナさんに、一人で新しいエリアを作ってほしいんだ」


「私一人で……?」


 現在、『世界樹様の迷宮』のエリア数は五つ。


『1-1救助ゴーレムと、大ネズミがいるエリア』

『1-2救助ゴーレムと、小銭スライムと宝箱とトラップがあるエリア』

『1-3救助ゴーレムと、ボアがいるエリア』

『1-4救助ゴーレムだけがいるエリア』

『ダンジョンコアがあるエリア』


 ――この五つである。


 今回僕がナナさんにお願いしたいのは、これ以外の僕の知らないエリアを作ってほしいんだ。


「では、1-4を改築しますか?」


「あー……。1-4はそのままでいいや」


「救助ゴーレムしかいないのですが?」


「なんかもう休憩エリア的に使ってもらおう。なんだったら椅子とテーブルでも置こうか」


 なんだか妙に1-4に留まっている人がいることは、ダンジョンメニューでも確認していた。

 そして昨日と今日で実際に確認した感じだと、何もない1-4エリアで、のんびりお喋りしているだけの人たちが大勢いたのだった。


 ならばもう、そんな用途のエリアにしてしまえ。1-4は休憩エリアだ。


「では、私が作るのは2-1ですか?」


「うん。いよいよ地下二階だね」


 1-4の次は2-1だと、二人で決めていた。

 というわけで、いよいよ『世界樹様の迷宮』に、地下二階が建設される。


「地下二階にエリアを作るだけのポイントはあるよね?」


「問題ないと思います」


「よし、じゃあそれでお願いするよ」


「かしこまりました」


 これで少なくとも2-1エリアだけは、僕も新鮮な気持ちでレリーナちゃんと一緒にダンジョン探索ができるはずだ。


 むしろ、今までで一番新鮮な気持ちでダンジョン探索ができるんじゃないかな? なにせ一切内容がわからないエリアなんて、今までなかったのだから。

 そう考えると、なんだかワクワクしてきた。ナナさんがどんな2-1を作ってくれるのか、今から期待と不安で胸がいっぱいだ――


 というか、やっぱりちょっと不安もあるのだけど……。


「すべて私にお任せください。マスターは、大船にでも乗ったつもりでいてください」


「大船?」


「大船です」


「大船か……」


 ここで『ドロ船』か『タイタニック』辺りでボケてくれないのが、なんだかむしろ不安……。





 next chapter:恋人つなぎ

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