第131話 ずるいずるいずるいー
チートルーレットでダンジョンコアを手に入れて以降、僕とナナさんは『ユグドラシルさんごめんなさいリスト』なんて物を作成できるほど、ユグドラシルさんに迷惑をかけてしまった。
そんな僕達を叱りに来たユグドラシルさんだったけど――最終的にはリストの問題を解決するために、いろいろと手助けしてくれた。
せめてものお詫びとして、ユグドラシルさんにはハンバーグを食べてもらうことにした。ネズミとミミズのハンバーグだ。
僕としてはこのハンバーグに思うところはあるのだけど……ユグドラシルさんも美味しいと喜んでいたので、まぁ良かったんだろう。
それからユグドラシルさんはいつものように僕の部屋で一泊してから、翌日には帰っていった。
今回は本当に、ユグドラシルさんには感謝してもしきれない。
ありがとうユグドラシルさん。さようならユグドラシルさん。いつかまた逢う日まで――
……まぁ二週間もしたら、またすぐ遊びにきてくれると思うけど。
とりあえずまた逢う日には、もうちょっと何かユグドラシルさんに何か恩返しをしたい。
そんなことを部屋で一人考えていたところ、ルクミーヌ村のディアナちゃんが僕の家へやってきた――
「ずるいずるいずるいー」
「そうだねぇ」
「なんでアレクはそんなに落ち着いてんの? アレクは見たくないの? ダンジョンだよ?」
どうやらルクミーヌ村でもダンジョンの話は話題になっていて、ディアナちゃんも大層気になっているようだ。
だがしかし、未だお子様なディアナちゃんは僕と同様に、ダンジョンの入場に規制がかかっている。
というわけでディアナちゃんは、僕に愚痴を言いにきたらしい。
「僕もダンジョンは見たいけどさ、仕方ないよ」
「んーんーんー」
「いたいいたい」
僕のおざなりな慰めでは収まりがつかなかったディアナちゃん。八つ当たり気味に僕の肩をペシペシ叩いてくる。
ただまぁ、僕としては嬉しいことではある。
――いや、叩かれて嬉しいとかそういうわけじゃない。ディアナちゃんがここまでダンジョンに興味をもってくれたことが嬉しいんだ。
今もダンジョンは、多くの探索者だか観光客だかで賑わっている。……だけど残念ながら、このブームは長くは続かないと僕は予想している。
そりゃあ僕としても、ブームではなく文化になってほしいという気持ちはある。
けれども今現在のダンジョン構成では、大人のエルフ達を満足させ続けることはできないだろう。
ダンジョンの入り口からスタートして、ゴールとなるダンジョンコアの部屋まで、急げば数分で着いてしまうようなダンジョンだ。エリアも少なく、出現するモンスターも弱い。
これではすぐに飽きられてしまうに違いない。
かといって、ダンジョン拡張も難しい。高価な不殺モンスターはそうポンポンと買うこともできないので、エリアもなかなか増やせない。
そうなると、今は賑わっているアレクナナカッコカリダンジョンだけれども、近いうちに寂れた感じになってしまうことが予想される。
このように、大人エルフには微妙なダンジョンではあるのだが――僕達子供エルフには有用だ。
子供エルフにとって、二十分に一体大ネズミが出現するダンジョンは、まぁまぁ美味しい狩場だともいえる。
なのでアレクナナカッコカリダンジョンのメインターゲットは、子供エルフ。
子供エルフのディアナちゃんに興味をもってもらえたというのは、僕としては嬉しいことである。
大人エルフがダンジョンに飽きてしまったあとも、メイユ村とルクミーヌ村の子供エルフである僕達幼馴染三人が、ダンジョンに通うようになるんじゃないかと僕は予想して――
……あれ? 三人? いや、うん、幼馴染は三人で合ってるよね? 僕とレリーナちゃん、そしてディアナちゃんで三人。……んん?
「んー」
「いたい」
なんだか思考の海に沈んでしまっていた僕に対し、ほったらかしにされたと感じたのか、ディアナちゃんは再び僕の肩にダメージを与えてきた。
「ちゃんと聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」
「なんかさー、お母さんもダンジョンに行ってきたんだって」
「あ、そうなんだ」
「すごい変なダンジョンだって言ってた」
みんなそう言う。まぁ実際変なダンジョンなんだろうし、別に構わないんだけどさ。
「でも、なんか毎日ちょっとづつ変わるんだって」
ディアナママが言う通り、実は毎日ちょっとづつ変えている。
僕とナナさんは四日前、大ネズミエリアとダンジョンコアエリアの間に、一つエリアを追加した。
そして三日前にはその新設エリアに救助ゴーレムを配置。二日前には新モンスターを配置。昨日は宝箱。そして今日はトラップを配置する予定だ。
小出しに小出しにダンジョンをいじっていく。なけなしのダンジョンポイントを、大事に大事に使っていく。
「村の人とかお母さんに聞いたらさ、新しいエリアができたとかって話で」
「ふんふん」
「そこでも草ゴーレムが動き回ってて――」
「草ゴーレム……」
ルクミーヌ村でもやっぱりそう呼ばれているのか……。
「小銭スライムと宝箱が出るようになったんだって」
「小銭スライム……?」
新モンスターに、いつの間にかおかしな名前がつけられていた……。
「すっごい逃げるスライムで、倒すと小銭を落とすらしいよ?」
「それで小銭スライムなんだ……」
何やらおかしな名前がつけられていたが、そのスライムこそがアレクナナカッコカリダンジョンの新モンスターだ。
やはり不殺モンスターは高いので、少しケチった。このスライムは不殺ではなく、非戦闘モンスターである。
不殺モンスターの場合は探索者の状態を見極める能力が必要になるが、非戦闘モンスターなら逃げるだけのプログラムで済む、なのでお値段がお安めなのだ。
逃げるだけのスライムだが、とりあえず銀色にカラーリングして、倒されるとお金を落とすように設定した。大量の経験値は獲得できないが、代わりにお金を獲得できる。
前世の知識を元に設計したスライムなのだけど、大した額は落とさないので『小銭スライム』なんて名前をつけられてしまったようだ。
「宝箱ってのはどうなのかな? どんな物が出るんだろう?」
「基本役に立たない物しか出ないんだってさ。宝箱とか言っても宝は出ないって聞いたけど?」
「そうなんだ……」
基本ランダムだと聞いたけど、基本役に立たない物しかでないのか……。
宝箱はダンジョンの状況に応じた――それ相応の宝が出現するとも聞いたので、まぁそんなもんか。
「あ、あとダンジョンで世界樹様を見たってお母さんが言ってた」
「へー」
この前ユグドラシルさんが来たときか。あのときディアナママもダンジョンにいたんだな。
「可愛かったって言ってた」
「可愛い……」
ユグドラシルさんは見た目幼女だし、そんな感想を抱いてもおかしくはないと思う。
ただ、仮にも神様に可愛いってのはどうなんだろう……。
「で、そんなダンジョンの話を楽しそうに話した後、『でもディアナは行っちゃダメー』とか言うわけ」
「そっかー」
「マジむかつく、あのババア」
「ババア……」
母親に『ババア』とか、すごいなディアナちゃん……。とてもじゃないけど、僕は母にそんなセリフを言えない……。
「あーアタシもダンジョン行きたいー。世界樹様や変なゴーレム見たいー」
そんなことを愚痴りながら、ディアナちゃんは僕のベッドでゴロゴロ転がり始めた。
別に今ダンジョンに行っても世界樹様はいないと思うけど……。というか、世界樹様と変なゴーレムを、同列に語るのはやめるんだディアナちゃん。
next chapter:ラブコメ回2




