表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/441

48.悪役令嬢は正解に辿り着く

 やり直し前とは違い、今のフェルミナには圧倒的に味方が少ない。

 取り返しがつかなくなる一歩手前、そこでフェルミナの知恵によって楽器が見つかったらどうだろう?

 クラウディアに限らず、ヴァージルもシルヴェスターも、何も知らなかったというフェルミナの主張を信じてはいない。

 それでも表向き、フェルミナも女生徒に騙された被害者の一人で、楽器の紛失には関わっていないのだ。

 生徒会役員や教師がどれだけ探し回っても見つけられなかった楽器を、フェルミナだけが見つけられたら。

 感謝されるだけじゃなく、有能さも証明できる。


(今までの不確かな噂ではなく、確かな実績として名声を得られるわ)


 クラウディアなら、そうする。

 だとしたらやり返す方法は一つ。

 フェルミナより先に、楽器を見つけることだ。

 計画内容は推察に過ぎないけれど、隠し場所を考える手立てにはなる。


(わたくしなら、どこに隠すかしら?)


 簡単には見つからない場所。

 人の意表をつける場所。

 一度置いたら、移動させずに済む場所。動かせば動かすほど、人目につく危険が生じてしまう。

 ――一か所だけ、思い浮かぶ場所があった。


(ありえるかしら? 自分が疑われるかもしれないところよ……でも、そうね……証拠はないわ)


 証拠がなければ、いくらでも言い逃れられる。

 生徒会内の空気が微妙になっても、フェルミナは見つけた実績さえ作れればいい。


(間違っていても、最悪フェルミナに見つけられるだけよ)


 最終的に見つかることが前提なら、心に余裕も生まれる。

 クラウディアは一つ息をつくと、壁へ手を向けた。

 正確には、壁側にうずたかく積まれた、シルヴェスター宛ての贈答品へ。


「お兄様、あちらは確認されました?」


「あれは……まさか、トリスタン!」


「えっ!? 僕はちゃんと目録を確認して積んでいきましたよ!?」


「その目録はどこだ!?」


 確認済みの書類の中から、目録を探り当てる。

 ヴァージルが怪しい記録がないか確認する一方で、シルヴェスターから許可を貰った役員が、片っ端から木箱を開けていった。


「え、あ、あの……」


 狼狽えるフェルミナの様子に、確信する。

 楽器は生徒会室へ、運び込まれていたのだと。

 程なくして、木箱を開けていた役員から歓声が上がった。


「ありました! フルート、それにトランペットも……!」


 みんな木箱の存在は目にしつつも、シルヴェスター宛ての贈答品のため見逃していたのだ。

 受け取り時だけでなく、移動するときにもトリスタンが目録を確認するし、勝手に触ってはいけないという意識が働いていた。


「間違いはないと思い込んでいたな」


 生徒会室が喜びに包まれる中、ヴァージルが呟く。

 けれど表情は晴れない。それはクラウディアも同じだった。

 ヴァージルは、目録の数字が書き換えられているのを発見したけれど、生徒会室にある目録に手を加えられるのは、生徒会室にいるものだけだ。

 フェルミナの関与が疑われるが、彼女が書き換えた証拠はない。

 文化祭の準備中、役員の出入りは激しかった。


「ということは、僕がそれと気づかず積んでたんですか!?」


「目録が間違っていたんだ。お前は悪くない」


 愕然とするトリスタンを、ヴァージルが慰める。

 目録は宛先ごとに配達業者が作ったものだ。

 シルヴェスター宛ての贈答品なら、誰から何個といった形で記されている。

 だから業者にある控えと手元の目録を比べれば、書き換えの有無はわかる。

 目録が確認されるのは二回。

 贈答品を生徒会室の入口で受け取ったときと、壁際へ移動させるときだ。

 どちらもトリスタンがする場合もあるが、受け取りは他の役員がすることもある。

 毎回すぐに移動させるのは難しいので、受け取り後はしばらく入口に置いておかれることが多かった。

 その間に目録の書き換えと、楽器の混入はおこなわれたのだろう。

 そしていつなら入口に贈答品が積まれているかを知れるのは生徒会役員だけだ。

 何せ書類整理の合間に、せっせとトリスタンが移動させるのだから。


「とりあえず楽器が見つかって良かった! ディーはよく気づいたな」


「目に入った木箱が気になっただけですわ」


「それでも俺たちは見過ごしてたんだ。ディーのお手柄だ」


 クラウディアを褒めながらも、ヴァージルの視線はフェルミナへ移動する。

 みんなが喜びに沸く中、フェルミナだけは俯いていた。

 彼女が怪しいとヴァージルも思っているようだが、声高に責めたりはしない。証拠がないと彼もわかっているからだろう。

 他の役員からも口々に称えられ、クラウディアは輪の中心になる。


「やはり君が恐れるほどの相手には見えないな」


 誰にも聞かれないよう、耳元で囁いたのはシルヴェスターだ。

 クラウディアの目にも、今のフェルミナはとても小さく感じられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ