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47.悪役令嬢は答えを導き出す

 次の日も、楽器の捜索は続けられた。

 生徒会が依頼した楽団の楽器が紛失したとなれば、生徒会長であるヴァージルの威信に傷がつくのは必至だ。問題はその傷の深さだった。

 早速ブライアンが声高に偽証について広めてくれたおかげで、クラウディアの罪を問う声はなくなったものの、これでは到底解決したとはいえない。


「どうして見つからない!?」


 時間だけが過ぎていく状況に、ヴァージルは焦りを募らせる。

 一度、式典場に着いたのは確かだ。

 フルートとトランペットは楽器の中では小さい部類に入るけれど、楽器を収めた木箱はそれなりの大きさになった。

 隠すには限界がある。

 でも見つからない。


「もしかして、もう学園から持ち出されているんじゃ……」


「木箱から取り出してしまえば、フルートなんて小さくまとめられるもんな」


 フルートは長い一本の横笛であるものの、持ち運ぶときは頭部管、胴部管、足部管と三つに解体される。

 これなら学園の鞄に隠して持ち出すこともできた。


「でもトランペットは無理よ。壊せばいくらでも小さくできるでしょうけど」


 現場で探し回っている役員たちも、腑に落ちない様子だ。

 クラウディアもだが、ここで役員の言葉に引っかかりを覚えた。


「壊せば……? そうですわ、何故楽器を壊さなかったのです?」


 え? とその場にいた全員が、クラウディアの発言に首を傾げる。

 しかしすぐに同じ疑問へ行き着いた。

 口々に声が上がる。


「そうだ、手っ取り早く壊せばいいんだよ!」


「流石に人の目があって、式典場では無理じゃない?」


「式典場では無理でも、壊して晒すことはできるだろ? そのほうが預かり物を管理できないほど生徒会は無能だって、喧伝できるじゃないか!」


 喧伝されるのは困るけれど、クラウディアも同意見だ。

 ヴァージルは唇に指を置いて考える。


「壊さず、隠す必要があったんだな。ならば見つかる可能性はあるのか」


 持ち出して永遠に隠す意味はない。

 だったら壊したほうが、生徒会の無能さを衝撃的に喧伝できる。

 ヴァージルを含め、役員たちが光明を見出す中、フェルミナだけは大きな目を瞬かせていた。


(ずっと、この子だけは他人事なのよね)


 死に物狂いで、役員や教師たちが楽器を探し回っている間も。

 報告を聞いたヴァージルが、奥歯を噛みしめている間も。

 生徒会室での謹慎を言い渡されたフェルミナは、平然と椅子に座っていた。

 楽器が紛失したままだと、困るのはフェルミナも一緒だ。何せ彼女も役員なのだから。

 それをよしとするのは、クラウディアの中のフェルミナ像と食い違っていた。

 シルヴェスターの婚約者の座を狙うなら、なおさら。

 これを機に、他の婚約者候補が台頭するのを、フェルミナが許すとは到底思えない。


「でもどこだ? 教室は全部見て回っただろ?」


「紛らわしい空の木箱も撤去したしね」


 結局はそこへ行き着く。

 うーんと唸る役員たちを前に、やはりフェルミナの表情は変わらない。


(きっと知っているのね)


 楽器がどこに隠されているのか。

 だからフェルミナは平然としていられる。

 偽証の件を含め、楽器の紛失にはフェルミナも関わっていると、クラウディアは踏んでいた。

 実行したのはフェルミナの協力者だろうけれど、彼女も計画を知っているはずだと。

 でなければ上手く立ち回ることはできない。


(そう、今回の彼女は上手すぎるのよ)


 以前のお茶会と同じ手法を取ったり、本人の行動は稚拙なのに、逃げ道を用意しておくほど計画は周到だ。

 ちぐはぐな印象は、協力者の存在をにおわせる。

 こうして前のクラウディアを陥れたのかと、考えさせられるほどに。


(もしわたくしなら、どう動くかしら?)


 フェルミナの立場だったら。

 協力者を得て、邪魔者を陥れる計画を立てるなら。

 それでいてヴァージルの威信を深く傷つけずに終わらせるなら。


(最後の最後で、恩を売るわね)

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― 新着の感想 ―
[一言] 書籍版では修正済かもしれませんし(書籍版未読ですすいません)、 語彙的にも微妙なので誤字報告ではなくこちらで。 『生徒会は無能だって、【宣伝】できるじゃないか』 『【宣伝】されるのは困るけ…
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